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COLUMN コラム

悠久の国インドへの挑戦

2017.12.18

「悠久の国インドへの挑戦」53 インド基礎知識そのX:私の出会ったインドの人達(2)

藤崎 照夫

アッサムの日没

 先月はこのシリーズの①としてインドの政治家について述べましたが今月はインドの官僚制度と実際に出会った官僚の人たちについて述べたいと思います。インドが大戦後英国からの独立後、国家の統一の為の制度を担ったのが全インド公務職制度(All Indian Services)と言われています。このAll Indian ServicesはIAS(Indian Administrative Service)インド行政職、IPS(Indian Police Service) インド警察職、IFS(Indian Forest Service)の三つに分かれています。

 この全インド公務職は国家元首である大統領によって任命され大統領以外から罷免又は解任されることはない非常に強い身分保証が認められています。例えば彼らは国の中枢機関すなわち中央官庁と地方の州で数年ずつ仕事をするということになっていますが、彼等が派遣された州に於いて命令に従わず独自の信念に基いて勝手な行動を取った場合でも首席大臣(州首相)でも彼等を罷免することは出来ません。いかに特別な官僚であるかがご理解頂けるのではないでしょうか。

 上記三つの中でも特別な存在がIASです。このIASは日本でいえば国家公務員上級職がそれに近い存在かもしれませんが、毎年数十万人の中から僅か100名弱が選ばれるという恐らく世界に例を見ない超エリート集団であり彼等が戦後のインドを津々浦々まで統制してきたと言っても過言ではないと言われています。それでは私が実際に関係したこのIASオフィサーについて触れていきたいと思います。

1)ウッタル・プラッデシュ州(UP州)の官房長官

 我々の四輪工場は首都のデリーに隣接するUP州に建設しました。工場がオペレーションを開始して1年ぐらいが経過したある時州政府からFirst Secretary が工場を訪問をするからきちんと受け入れをするようにとの連絡が入りました。このFirst Secretaryという人は日本でいえば官房長官に相当する人です。州といっても人口が当時で1億6千万人を超えるインド最大の州でしたから彼の立場は想像して頂けるかと思います。
 
 この方が出発してから工場に到着するまでにわが社の担当者に刻々と連絡が入り私も玄関でお迎えしましたが、先頭には銃を持った警備の人が乗ったジープが数台連なりそれからご本人の乗る車、更に後ろにも護衛の車が数台と全部で6~7台の車でその物々しい警備体制に驚きました。警備面もさることながら私は権力を見せつけるといった感じも受けました。我々からの工場の概況説明の後足早に工場見学を済まされ1時間半ぐらいの慌ただしい訪問でしたがこの方の鋭い眼差しが印象的でした。

2)国税局局長

 以前このコラムでインド駐在中の「忘れ得ぬ出来事」でも述べましたが私のインドでの約10年の駐在の中で最も時間をかけ、また悩まされたのが国税局による脱税容疑での突然の査察とそのあとに続く日本本社、現地大使館も巻き込んだ騒動でした。結局この問題は裁判になり10年以上かかり最終的には我々が勝訴するという結果になりましたがそれまでに費やした時間、人、費用は莫大なものでした。 

 この局長とは私は直接お会いする機会はありませんでしたが、査察後日本に報告するために出張手続きをしようとしたところ、「インドからの出国の了解をこの局長から事前にとっておいたほうがよいだろう」というアドアイスがあり直接電話をしました。その時に彼が言った言葉はそれから20年近く経った今でもよく覚えています。私からの説明の後彼は「お前は犯罪人だ。我々は家宅捜索、工場の操業停止など何でも出来るんだ」と言いました。

 その後国税局を統轄する財務省の高官にパートナーと面会に行き我々は法に触れるようなことは一切していないので彼にその旨話をして欲しい」と要望した時にその高官が「彼らは特別な力をもっているからーー」と言葉を濁しましたが、想像するに査察権という大きな権力を与えられているので関係者も彼らに対してはかなり遠慮している感じでした。

 私はこの問題が最終解決する前に次の任地である台湾へ異動しましたので最終的な決着は在任中には知ることが出来ませんでしたが、インドからの連絡で彼は自分の手柄をたてたくてかなりめちゃくちゃな査察などをやっていたらしく別の部署へ異動させられたということでした。彼も冒頭に述べたIASオフィサーでした。
 今回はインドの官僚制度と実際関係した高級官僚について述べてみました。

藤崎 照夫

Teruo Fujisaki

PROFILE

早稲田大学商学部卒。1972年、本田技研工業(株)入社後、海外新興国事業に長年従事。インドでは、二輪最大手「Hero Honda」社長、四輪車製造販売合弁会社「Honda Siel Cars India」初代社長として現地法人トップを通算10年務める。その後、台湾の四輪製造販売会社「Honda Taiwan」の初代社長、会長を務めた後2006年同社退職。現在はサンアンドサンズ社、ネクスト・マーケット・リサーチ社等の顧問として活躍インド、アジア事情に幅広く精通している。

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