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COLUMN コラム

名作にみる美しい英語

2019.10.07

名作にみる美しい英語(158)

原島 一男

“Also, she had a cat and she played the guitar...”
それと、彼女は猫を飼っていてギターもひいた」
    (トルーマン・カポーティ著「ティファニーで朝食を」)

 小説や映画などの名作から選んだ美しい英語を紹介する連載。
 そのフレーズが生まれた時代や背景を色濃く伝え、使った人の気持ちを具体的に表します。
それをじっくり観察することで、あなたの今の英語を鍛えあげましょう。
 言うまでもなく、一つのフレーズだけでは、その作品の全貌をつかむことはできません。
しかし、それが、あなたを刺激することもあるかもしれません。
 今回は、あのあまりにも有名な「ティファニーで朝食を」からトルーマン・カポーティのオリジナル文章とオードリー・ヘプバーンが主演した同名の映画のセリフの二つを比べながら、役立つ英語フレーズを紹介します。

Also, she had a cat and she played the guitar,          「それと、彼女は猫を飼っていてギターもひいた。
On days when the sun was strong,             天気が良く日差しの強い日に
she would wash her hair,                  彼女は髪を洗い、
and together with the cat, a red tiger-striped tom,     オスのトラ猫と一緒に非常階段に座って
sit out on the fire escape thumbing a guitar        ギターを弾きながら髪の毛を乾かしていた。
while her hair dried. Whenever I heard the music,      それが聞こえるたびに、
I would go stand quietly by my window.                            私は窓際に行って耳を澄ませた」
     (Breakfast at Tiffany’s by Truman Capote   トルーマン・カポーティ著「ティファニーで朝食を」)

・  she would wash her hair./I would go stand quietly by my window.
  ここに使われている would は、「~するのが常だった」と過去の出来事を思い返す表現。
 「彼女は髪を洗ったものだった」/「私は窓際に行って耳を澄ませたものだった」となります。
・tom  = 動物の雄 

 映画のほうでは、アパートの非常階段でオードリ−が唄うのを聞きつけて、ジョージ・ペパードが自分の部屋の窓から顔を出します。歌い終って、オードリ−が上の階を見上げたときの二人の会話。

HOLLY: Hi.               「ハーイ」
PAUL: Hi.               「ハーイ」
HOLLY: What’re you doing?         「何してるの?」
PAUL: Writing.            「書いている」
HOLLY: Good!             「よかったわ」
ー「ティファニーで朝食を」(Breakfast at Tiffany's 1961 監督:ブレイク・エドワーズ 脚本:ジョージ・アクセルロッド)

 何も説明することはありません。単語を羅列するだけで分かり合える。
 あえて、少し丁寧な文体に直して書き加えれば、
H:What’re you doing? → What are you doing?  「何をしているのですか?」
P: Writing.      →  I’m writing.     「書いています」
H: Good!       →  That’s good.     「よかったわ」       となります。

 ハスキーがかった独特の声。映画で唄われているのは「ムーンリヴァー」ですが、カポーティが書いたオリジナルには「ムーン・リヴァー」は存在していません。
 カポーティは、
  One went: Don’t wanna sleep, Don’t wanna die,      「眠りたくもなく、死にたくもない、
Just wanna go a-travelin’                                                   ただ空の牧場を、
through the pastures of the sky;                                     どこまでも、さまよっていたい」、
and this one seemed to gratify her the most,        きっと彼女はこの歌を気に入っていたようだ。
for often she continued it long after her hair dried,     彼女はいつも髪の毛が乾いた後でも歌っていた。
after the sun had gone and there were            太陽が沈み夕闇がせまり
lighted windows in the dusk.                                窓に明かりがつき始めたころになっても」

と、天気の良い日に髪を洗ったあと、髪の毛を乾かしながら、こう歌ったという一節があるだけです。

 映画では、ヘンリー・マンシーニが作曲し、作詞家ジョニー・マーサーが詞をつけました。
 ヘンリー・マンシーニ氏によると「『ムーン・リヴァー』はオードリーなくしては生まれませんでした。
この曲は私が手掛けた中でもっともむずかしい曲でした。ヒロインが非常階段でどのように歌うのか解りませんでした。
そして、一ヶ月経ったとき、あのメロディが浮かびました。映画では彼女はあの歌を心をこめて歌いあげ、自分が何をしているか、歌詞の意味を知っていたんです」
 この歌は映画だけでは終わりませんでした。マンシーニはこの曲でアカデミー賞とグラミー賞の両方を受け、その表彰式の司会を務めたアンディ・ウィリアムズがレコーディングして、世界中で知らない人がいないほどの大ヒットになったのです。
多くの映画音楽を書いているマンシーニの最大のヒットにもなりました。
 それで「ムーン・リヴァー」はオードリ−のトレードマークになり、彼女が亡くなったとき、
ティファニーは世界中の店に「さようなら、我々のハックリベリー・フレンド」という看板を出しました。

 さて、映画に戻って、その一場面。
 小説家志望のポール(ジョージ・ペパード)が打つタイプライターの活字部分のクローズアップ。

 There was once a very lovely, very frightened girl. She lived alone except for a nameless cat.”
 「あるところに、とてもかわいくて、傷つきやすい女性がいた。彼女は名のない猫と住んでいた」
 ー「ティファニーで朝食を」(Breakfast at Tiffany's 1961年 監督:ブレイク・エドワーズ 脚本:ジョージ・アクセルロッド)

 NYの−のアパートに名無しのネコと一緒に生活するホリー・ゴーライトリー(オードリー・ヘプバーン)。
「何かわけが分からず不安な気持ちになって落ち込んだとき、タクシーに飛び乗って5番街の宝飾店ティファニーへ行く」
と言っていますが、映画でも、この ’告白’ はそっくり、そのまま使われています。

 “What I’ve found does the most good is      「(不安感をなくす最高の方法は、)
  just to get into a taxi and go to Tiffany’s.      タクシーに乗ってティファニーにいくこと。
 It calms me down right away,            そこで、わたしを落ち着つかせてくれるわ。
 the quietness and the proud look of it;        あの静かで誇らしげな店内の様子。
 nothing very bad could happen to you there,     そこでは悪いことなんか何にも起こり得ないの。
 not with those kind men in their nice suits,      あの仕立ての良いスーツを着た親切な店員や銀製品や
 and that lovely smell of silver and alligator wallets.  ワニ革の財布の素敵な匂いに接すれば。
 If I could find a real-life place              だから、ティファニーに居るような気持ちにしてくれる
 that made me feel like Tiffany’s,            本物の生活場所を見付けられたら、
 then I’d buy some furniture              わたしは家具を買い揃えて、
 and give the cat a name...”             このネコに名前を付けようと思うわ」

 ・If I could (動詞), then I would (動詞)= もし〜できたら、〜する、と未来への願望を表す表現
  「もし本物の生活の場を見つけられたら、猫に名前をつけるだろうに」

 映画「ティファニーで朝食を」のラストシーン。ニューヨークの街角、乗っていたタクシーから、それまで飼っていた猫を捨ててしまったホリーでしたが、一緒に居たポールから、その行動をなじられて我に返ります。
降りしきる雨の中、猫を探しにタクシーから降りたホリー。ますます強くなる雨の中でホリーは懸命に猫を探します。
その様子を遠くからじっと見守るポール。思わず目が合う2人。そのときです。横に転がっていた木箱の中から猫が「ニャーン」と顔を出します。
猫を抱きよせると、ホリーはポールのところへ駆け寄ります。ずぶ濡れのままキスを交すホリーとポール。
ふたりの間から顔を出した猫にもホリーはやさしくキスします。

HOLLY:  Cat! Cat! Where are you, Cat!
「ネコ! ネコ! どこにいるの、ネコ?」
-「ティファニーで朝食を」(Breakfast at Tiffany's 1961 監督:ブレイク・エドワーズ 脚本:ジョージ・アクセルロッド)

  名無しの猫ですから、ただ、「ネコ」としか呼びようがありません。ホリーは、ここで、ネコ(Cat)という呼びかけを12回も続けます。
そのとき、ホリーは、それまでの自分の生活態度を反省し、脚が地に着いた地道な人生を歩もうと決心するのです。
テーマ曲の「ムーン・リヴァー」が、この感動的なシーンを盛り上げます。
 というわけで、映画のほうは、お決まりのハッピーエンドなのですが、カポーティの小説のほうはそうはいきません。
 小説の最後はこうなっています。

  ‟Flanked by potted plants               「(その猫は)鉢植えの植物に囲まれて
 and framed by clean lace curtains,            きれいなレースのカーテンのある、
 he was seated in the window of a warm-looking room:    暖かそうな部屋の窓際に座っていた。
 I wondered what his name was,             その猫の名前は何だろう、と私は考えた。
  for I was certain he had one now,            その猫は落ち着く場所を見つけたのだから。
 certain he arrived somewhere he belonged.       名前は「アフリカ小屋」でも何でもいい。
 African hut or whatever, I hope Holly has, too.”     私はホリーもそうであってほしい、と願った」

 なお、この作品が映画化されるとき、トルーマン・カポーティ氏は「ホリーのいじらしい、未完成な感じを出すのはマリリン・モンローしかいない」と主張したことは広く知られています。マリリンがホリーを演じたとしたら、映画の出来はどうなっていただろうと想像力を掻き立てられます。

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原島 一男

Kazuo Harashima

PROFILE

一般社団法人内外メディア研究会理事長、ノンフィクション作家。慶應義塾大学経済学部卒業。ボストン大学大学院コミュニケーション学科に留学後、1959年NHKに入局。国際局で英語ニュース記者・チーフプロデューサーを務める。定年退職後、山一電機株式会社に入社、取締役・経営企画部長などを務める。現在、英語・自動車・オーディオ関連の単行本や雑誌連載の執筆に専念。日本記者クラブ・日本ペンクラブ会員。『店員さんの英会話ハンドブック』(ベレ出版)、『オードリーのように英語を話したい!』(ジャパン・タイムズ)、『なんといってもメルセデス』(マネジメント社)など、著書多数。

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