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COLUMN コラム

名作にみる美しい英語

2020.05.07

名作にみる美しい英語(164)

原島 一男

“I would like a medium Vodka dry Martini
 - with a slice of lemon peel.
Shaken and not stirred please.”
(Ian Fleming: Doctor No )

「ミディアム・ドライのウォッカ・マティーニ。
それにレモン・ピールをひと切れ入れてください。
ステァしないで、シェークするだけで」
(イアン・フレミング作 「ドクター ノオ」)

 小説や映画などの名作から選んだ英語を紹介する連載。
 そのフレーズが生まれた時代や背景を色濃く伝え、使った人の気持ちを具体的に表します。
 それをじっくり観察することで、あなたの今の英語を鍛えあげましょう。
 言うまでもなく、一つのフレーズだけでは、その作品の全貌をつかむことはできません。
 しかし、それが、あなたの感性を刺激することもあるかもしれません。

  イギリス政府の諜報部員007ジェームズ・ボンドが映画史上に初めて登場したのは1962年。
 東京オリンピックの2年前です。原作は元イギリス海軍諜報部の将校だったイアン・フレミング。
 21世紀まで続く 007(ダブル・オー・セブン)シリーズ でジェームズ・ボンドは世界を魅了、高性能の車、美しい女性、趣味の良いファッション、超先端技術を駆使した兵器、それに度肝を抜かれる活劇シーンはすべての男性の憧れで、日本を舞台にした「007は二度死ぬ」(You Live Only Twice 1967)には、ボンドガールとして浜美枝さんや若林映子さんも出演しました。
  シリーズ第1作の映画「ドクター ノオ」で交わされたこの台詞はカクテルのマティーニを世界中に広めましたが、映画の台詞はオリジナルとほとんど同じです。ただ微妙な違いが見られます。

DOCTOR NO: A medium dry martini, 「ミディアム・ドライのマティーニ。レモン・ピールひと切れ。
        lemon peel, shaken not stirred.    ステァしないで、シェークして」
JAMES BOND: Vodka?        「ウォッカで」
DOCTOR NO: Of course.       「もちろん」
ー「007 ドクター・ノオ ー007 は殺しの番号 (Doctor No  1962  監督:テレンス・ヤング
 脚本:リチャード・メイバウム、ジョハナ・ハーウド、バークリー・マサー 原作:イアン・フレミング)

 この同じ台詞 "A Martini. Shaken, not stirred." は、3作目の映画「007/ゴールドフィンガー」にも出てきます。
悪党側に捕らえられ意識を失ったジェームス・ボンド(ショーン・コネリー)でしたが、我に返ると飛行機の中、目の前には妖艶な姿のプシー・ギャロア(オナー・ブラックマン)が。

JAMES BOND:   Who are you?                 「あなたはどなた?」
PUSSY GALORE: My name is Pussy Galore.    「プシー・ギャロアというものです」
JAMES BOND:   I must be dreaming....       「きっと夢を見ているんだ、、、
       By the way, where is here?   さてと、ここはどこかな?」
PUSSY GALORE: We're flying over southwest of New Zealand.
                                           「ニュージーランドの南西を飛行中です」

GIRL: Can I do something for you, Mr. Bond?「ボンドさん、何か差し上げましょうか?」
JAMES BOND: Just a drink.             「飲み物をください。
  A Martini. Shaken, not stirred.           マティーニを。ステァしないで、シェークして。
  Won't you join me?                 一緒につき合いませんか?」
PUSSY GALORE: I'm on duty.           「私、仕事中です。
  Mr. Goldfinger's personal pilot.         ゴールドフィンガー氏の個人パイロットです」

-「007ゴールドフィンガー」 (Goldfinger 1964 監督:ガイ・ハミルトン 脚本:リチャード・メイバウム、ポール・デーン)

・I must be dreaming. =「私は夢を見ているに違いない」→ 「きっと夢を見ているんだ」
・Can I do something for you? =「何か差し上げましょうか?」相手にものを勧める定形表現
・ここの shaken/stirred は過去分子形。つまり、martini を修飾して「shake された」「stir された」 となり、shaken, not stirred は「スプーンなどでかき混ぜないで(シェーカーを使って)シェークしたマティーニ」という意味 
 cf:“She put butter in her coffee and stirred it . 「彼女はバターをコーヒーに入れてかき回した」
   “Shaken but not stirred situation”  「揺れているがそれほどの影響を与えない状況」
   “Look at the girl dressed in green.”  「あの緑色のドレスを着た少女を見てごらん」

 マティーニはジンにドライ・ベルモットを少し入れ、ステァだけでシェークしないのが普通のつくり方です。
 それを、あえてシェークして、というところがボンド流なのです。
  shake (シェーカーを使って混ぜる)と stir(かき混ぜる)の違いをひと言で言うと、shake すると飲み物の中に空気が入るので、まろやかな刺激のない味になり、stir のほうは冷たさが舌に直接感じてより刺激の強い味わいになる、といわれます。
 いずれにせよ、マティーニの造り方は多種多様であり、ジン、ウオッカ、ラムのベースとベルモットの比率もまちまち。
 ベルモットのかわりに日本酒を入れる Saketini もあります。最近になって強いお酒は流行らなくなりましたけど、マティーニほど人々の心を捕えたカクテルは、後にも先にもなかったと言ってよく、20世期のハリウッド映画はマティーニに明け暮れました。

 マティーニにまつわるもう一つの映画のシーン。
STEWARD: Cocktail before dinner, sir. 「ディナーの前のカクテルをいかがですか」
ROGER: Yes. A Gibson, please.     「ギブソンを」
STEWARD: Right away.                   「かしこまりました」
ー「北北西へ進路を取れ」(North by Northwest 1959  監督:アルフレッド・ヒチコック 脚本:アーネスト・レーマン)

 この映画でケーリー・グラントがニューヨーク発シカゴ行きの列車に乗り、食堂車で注文するのがギブソンというカクテル。
 マティーニとどこが違うのかというと、マティーニはガーニッシュ(Garnish 付け合わせ)として、オリーブかレモンの皮を添えるのですが、ギブソンはパーテイ・オニオンを添えます。
 「ユーガットメイル」では、トム・ライアンがモーターボートの中で父親にカクテルを作りますが、父親にはギブソンを作りパーティ・オニオンを入れ、自分のにはオリーブを入れたマティーニを作っています。
パーティ・オニオンが手に入らないときは、’日本のらっきょう’ で代用できますけど。
 「花嫁の父」では、”Martini?  Is that your drink?’(マティーニはあなたのお酒ですね)という会話がありますし、「7年目の浮気」では、マリリン・モンローが「私の故郷コロラド州デンバーではマティーニにお砂糖をたくさん入れるのよ」( Back home In Denver, Colorado, they put sugar in martinis a lot. )と言って、観客を大笑いさせます。
 この映画を作ったのはビリー・ワイルダー。
 彼は「昼下がりの情事」の撮影のとき、パリで泊まったホテルのマティーニの味が気に入らないとホテルを換えたほどマティーニを愛していました。そのときパリに居たオードリー・ヘプバーンは、パリで飲んだマティーニを「すごくドライで冷たくてとっても美味しかった」と言っていましたが。

 ところで、マティーニ(ギブソン)の作り方は、ジンにドライ・ベルモットを少し入れるだけ。
 適量といっても、ベルモットをほんの1滴という人もいるし、「ジン:9、ベルモット:1」、「ジン:15、ベルモット:1」を主張する人、それに氷の触れ合う音が好きなオン・ザ・ロック派もいます。
 マティーニがこれほどまでに‘こだわり’の対象になった最大の理由は、ベルモットの量やかき回し方によって微妙に変わる‘自分の味’が作れるからではないでしょうか。

―――

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原島 一男

Kazuo Harashima

PROFILE

一般社団法人内外メディア研究会理事長、ノンフィクション作家。慶應義塾大学経済学部卒業。ボストン大学大学院コミュニケーション学科に留学後、1959年NHKに入局。国際局で英語ニュース記者・チーフプロデューサーを務める。定年退職後、山一電機株式会社に入社、取締役・経営企画部長などを務める。現在、英語・自動車・オーディオ関連の単行本や雑誌連載の執筆に専念。日本記者クラブ・日本ペンクラブ会員。『店員さんの英会話ハンドブック』(ベレ出版)、『オードリーのように英語を話したい!』(ジャパン・タイムズ)、『なんといってもメルセデス』(マネジメント社)など、著書多数。

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