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COLUMN コラム

駐在員のための  中国ビジネス ー光と影ー

2017.04.17

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第46回)中国ビジネス余話

菅野 真一郎

李川(中国)

(4)悪徳ブローカーに気を付けよう(その6)

③悪徳ブローカーの事例(その4)

 今回は地方都市政府の「幹部の息子」と称する悪徳ブローカーの事例2件をご紹介します。
 日本の関西の代表的観光都市で、日本最初の喫茶店を開業したと言われているA社は、地元のほか東京でも古風な店名とたたずまいでありながら創作料理風の和食レストランを展開し、若い女性を中心に人気を集めています。東京の私鉄が開発した新しいターミナルビルのテナント入居契約に成功し、父親が上海市政府の幹部と称する中国人B氏の仲介で、上海では歴史ある有名な点心レストランの店名を使用して点心レストランの開業を計画していました。B氏の要求は、A社が最初の店名使用料数千万円と、以後1店舗開業する毎に百万円をB氏に支払うというものです。たまたまA社監査役をしていた小生の銀行時代の先輩から「念のため本件事業についてチェックしてほしい」という要請がありました。

 本件のポイントは仲介人B氏の素性と中国で著名な店名(商標)の日本での登録状況です。B氏の素性については、上海市の友好都市大阪市にある上海市の出先機関に長年駐在している上海市人民政府外事弁公室出身の20年来の友人に尋ねたところ、「B氏はよく知っているが父親が上海市政府の幹部というのは初耳です。B氏は10年近く前に東京の六本木の著名な食品スーパーで、当該商標の商品(点心)展示即売会のアルバイトをしていたことがあり、彼が商標の所有者とは思えない」との返事です。

 日本では当該商標はすでに十数年前に上海の親元の点心レストランとは全く関係ない神戸では名の通った華僑系中華レストランが登録していて、登録後十年目に登録の更改もなされていることも判明しました。当該華僑系レストランの商標登録の意図は不明ですが、いずれ自社で使用するつもりか、使用希望者に法外な価格で売りつけるかどちらかで、A社のすぐの開業には間に合わないおそれがありました。

 以上の事情をA社に報告し、B氏の素性が虚偽であり、商標使用問題も時間を要すると思われるので、レストラン開業を急ぐのであれば本件商標使用は断念したほうが賢明ではないかと進言しました。
 新しいターミナルビルの広いスペースを空けておくことはイメージダウンのおそれがあり、A社は点心レストランを諦め、従来の和風レストランを開業し、現在も盛況です。小生が初めて上海駐在した時、首席交代パーティーの席次などを親切に教えていただいたことが縁で交流を続けてきた中国人の友人に大いに助けられた一件でした。

 次も、東京の小生の中国人の友人に助けられた案件です。
 小生が勤務していた銀行の関西の某支店の支店長から、「当店の有力取引先A社に、父親が北京市政府の要人と称する中国人B氏から、江蘇省のある地方都市の国際空港化の拡張に伴う周辺道路等のインフラ整備と都市開発のための日中合弁会社設立の話が持ち込まれ、資本金200億円の借り入れの申し込みがある。B氏はすでにA社の顧問に就任しており、某国家副主席(当時)と日本の有力政治家(総理経験者)の面談をセットして、会談の場に同席している写真や某国家副主席とのツーショットの写真を持ち込んで自分の政治的影響力を誇示している。A社の売り上げ規模は200億円弱、地元の老舗ディベロッパーで、攻めたい先である」という話があり、ライバル銀行との貸し出し競争の雰囲気もありました。

 B氏の素性については詳しく調べる時間的余裕がなく、小生が20年来信頼している東京在住の中国人の友人(本職はお医者さん)に聞いたところ、1時間後に返事がありました。「B氏は中国人ではありません、日本人残留孤児で、六本木界隈を徘徊して有名人に近づき、中国国家要人との面談を仲介したり、某有名女優の北京訪問などをアレンジしている、いわゆる“一発屋”です。東京では在日中国人との交流を避けています」という回答がありました(もちろん情報源の開示はありません)。
 一方当該地方都市の国際空港化の実現可能性を調査したところ、近辺の別の都市に既に完成している国際空港もあり、江蘇省で半径100キロ以内に数か所の国際空港を作る必要性も緊急性もないこともわかりました。
 詳しい事情は分かりませんがB氏はA社の顧問に就任していて、売り上げ規模を上回る資本金の合弁会社を設立しようとしたり、A社と当該地方都市の事業会社との合弁会社設立協定書なるものには、日本側の資本金送金が1カ月後の資本金払込日に間に合わない場合のぺナルティーも明記され、急かされている状況もわかりました。プロジェクトを大きくする、急がすのは悪徳ブローカーの常とう手段です。
 以上の経緯を踏まえ当該支店長には、B氏の素性は虚偽であること、国際空港化に伴う当該プロジェクトの実現見通しやF/S(事業採算見通し)はしっかり現地調査を含めて調べる必要があること、したがってA社にもその旨はっきりものをいうべきではないかと伝えました。

(つづく)

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE

1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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