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COLUMN コラム

駐在員のための  中国ビジネス ー光と影ー

2017.08.07

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第50回)中国ビジネス余話

菅野 真一郎

中国の水路

(4)悪徳ブローカーに気を付けよう(その10)

 ③悪徳ブローカーの事例(その8)

 今回も敢えてパターン化はしにくいけれどもよくある事例をご紹介します。

(前金40%のうまい話)

 以前勤務していた銀行の地方支店より、住宅関係有力取引先に対し自社主力製品の住宅10棟を前金40%で買いたいとの注文が中国から入り、間には台湾人のブローカーA氏が介在しているが大丈夫だろうかとの打診がありました。
 銀行の中国部門の担当者が事情聴取してみると、10棟が成約すると、ある沿海地区地方都市の郊外で1,000戸のリゾート開発プロジェクトがあり、それへの参入の道が開けるとのA氏からの願ってもない良い話です。社長がおっしゃるにはA氏は当社考案の住宅の特色を理解する建築のプロで信頼出来そうな人物だ、また交渉で中国に行けば毎回パトカー先導で大歓迎を受け、建設部門担当副市長とも大変親しくなっているということで、すっかりこの商談に乗り気になっておりました。

 私どもが40%の前金は好条件ですが残り60%の支払条件はどうなのかお聞きすると、「1,000戸のプロジェクトが動き出せば、10棟の60%分は問題なくカバーできる」とのA氏の説明をあまり疑っていませんでした。私どもは、過熱投資の引締めが始まろうとしている時期に大型リゾート開発プロジェクトが動き出すとは思えないこと、仮に動き出しても日本の地方の中堅住宅メーカーに1,000戸を全部発注することはあり得ないこと、たまたま偶然にA氏が銀行の都内支店有力取引先の中国でのサービス業関連プロジェクト(当時も今も外資系には門戸が開かれていない雑誌の印刷、発行のプロジェクトを働きかけていて、我々は無理ですと断念を働きかけていました)にも関与していることがわかり、決して建築のプロではなく普通のブローカーであることを伝えてようやく断念していただくことができました。2年近く経っても当該リゾート開発プロジェクトなど話題もでませんでしたので、私どもの見通しは間違っていなかったと思います。

 本件の特色は、40%前金という好条件で住宅10棟を詐取しようとしていたこと、ブローカーの話術の巧みさで残金60%の支払条件が、1,000戸のリゾート開発プロジェクトの話にすり替わって曖昧になっていること、パトカー先導の大歓迎で日本側社長をすっかりその気にさせる中国特有の接待術(パトカー先導は我々民間企業でも公安に所定のお金を支払えばいくらでもやってもらえます)、宴会に市長や副市長も出席していて、あたかも市政府推進のプロジェクトのように錯覚させる舞台設営などが挙げられます。市長や副市長は決してプロジェクトの支援などは口にしていない筈で(口にすれば嘘になります)、黙って座っているだけで日本側が勝手に市政府が支援してくれるものと思い込むよくあるパターンです。市長や副市長は黙って座っているだけで外国側が投資をするのであれば、いくらでもただ飯に付き合ってくれます―華僑同士はこれをやれるのが強みです。北京の大型商業プロジェクトでは、ブローカーと同郷の現役の副総理クラスが動員されたケースもあります。

(経歴、身分詐称のブローカー)

 以前勤務していた銀行の都内支店の有力学校法人取引先が、中国の某大都市で有名国立大学と合弁で語学学校を設立する話がすすんでいました。介在するブローカーB氏(上海居住の中国人)は、日本の某有名私立大学医学部を昭和X年卒業、中国国際貿易促進委員会の地方役員、日本の某財界首脳訪中の時は通訳を務めるなど、自分の政治力、政治的コネを盛んに宣伝しておりました。私どもは語学学校設立の趣旨は大変良いことであり、積極的にお手伝いさせて頂こうと思い、学校設立に関する法令なども整理してご説明し、中国側パートナー(当該国立大学学長とは、優秀な卒業生を銀行に採用した関係などで懇意でした)との話合いにも立ち合わせていただこうとすると、B氏に頑なに拒否されました。またB氏が自分で通訳しているとお聞きしたので、公平を期するため銀行職員のサポートを申し出ましたが、これも拒否されました。教育関係の崇高なプロジェクトを遂行するにしてはあまり相応しくない印象を受けましたので、B氏の経歴や身分を確認したところ、3つの経歴や身分は全て事実無根でした。

 某私立大学医学部卒業生名簿には名前は見当たりません。国貿促の外事処に問い合わせてもかかる役員はおりません。国貿促会長にも人を介して問い合わせましたが、「自分はB氏を知らない」との返事。財界首脳の会社や所属する経済団体にも問い合わせましたが「聞いたこともない人物」との回答です。結局本件は中国側パートナー候補との話合いが進展せず――学長との面談ということでB氏の案内で日本の学校法人理事長が訪中しても学長には会えず、憶測ですが、恐らくB氏は何かを目論んでいたものの私どもの介入で予定が狂ってしまったのかも知れません―― 本件プロジェクトは中断しました。

 ブローカーが自慢する本人の経歴や身分は、具体的であれば必ず調べて確認することができるということです。ちなみにB氏は、第44回で悪徳ブローカーの特徴の一つとして申し上げた間接的アプローチの事例にある「上海万博事務局連絡員」という身分詐称を行った人物です。

(つづく)

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE

1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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