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COLUMN コラム

駐在員のための  中国ビジネス ー光と影ー

2018.02.26

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第56回)中国ビジネス余話

菅野 真一郎

長江:青海省のチベット高原を水源地域とし中国大陸の華中地域を流れ東シナ海へと注ぐ川。

6.中国経済の概況と中国経済発展の要因(1)

 今回から数回にわたり、中国経済の概況や中国経済発展の要因について、私見を述べたいと思います。
 中国は1978年12月の中国共産党「11期3中全会」(中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議)で経済改革・対外開放政策を採択して今年は40周年、この間のGDP実質成長率は平均9%前後(2017年速報では6.9%)、2010年には日本を抜いて世界第2位のGDP大国となり、多くの面でその存在感を高めています。外貨準備は2006年に日本を抜き第1位(2017/末3兆1,399億ドル)、貿易面も2013年に米国を抜き第1位(2017年4兆1,045億ドル-推定第1位)、自動車生産台数、携帯電話保有台数、ビール消費量等々、いろいろな経済パフォーマンスの数値も、今や世界1~2位を争うレベルに達しています。しかも人口は13億人を越えているため、1人当りや普及率等の数値はまだまだ低位にあり(たとえば1人当りGDPは2015年国家統計局速報値が8,141ドルで世界76位前後――推定)、今後もおおいに発展の余地があります。

 もちろん経済成長も従来の外需依存、投資主導型から内需中心への経済発展パターンの転換や経済構造改革、産業構造の最適化と高度化、都市と農村、沿海地区と内陸地区の経済格差の是正等経済政策や深刻な環境問題など課題も多い状況です。

 しかしながら2008年9月のリーマンショックの時にも60兆円規模の景気テコ入れ策を果敢に実行し、9%以上の経済成長を実現し、世界経済の底割れを防ぐのに大きく貢献したことは異論のないところで、世界経済の中で中国経済の存在感は大いに高まっております。

 日本との関係においても、日中貿易は1972年の日中国交回復時はわずか11億ドル、20数年前は100億ドル台だったものが、2002年1,016億ドル、2006年2,000億ドル、2010年には3,000億ドルを突破し、中国は日本にとって最大の貿易相手国になっています。2005年以降今日まで日本の世界向輸出増加額の3分の1は対中輸出という状況にあります。

 人の往来でも、中国からの来日者(2016年637万人)、日本からの訪中者(2016年259万人)共にアメリカとのそれを抜いて、国別往来者数は第1位という状況です。

 このような目覚しい中国の経済発展の基本的要因は何か。
 これまで30数年間中国ビジネスに携わってきた眼から見た中国経済発展の要因(原点)は、少数派であることを自認しつつ、次の3点を挙げたいと思います。

①経済改革・対外開放政策の堅持
➁在外華僑・華人の存在
③国の発展の基礎を人材育成と科学技術の集積に求めた「人材強国戦略」

(1)経済改革・対外開放政策

 第1の要因は11期3中全会での経済改革・対外開放政策採択で、外資導入、外資利用を対外経済貿易政策の柱としたことです。 経済発展という建物をつくる設計図であり、この政策を主導した鄧小平氏が「改革・開放政策の総設計師」といわれる所以でもあります。
 経済改革とは、中華人民共和国成立(1949年10月1日)後30年にわたる毛沢東路線(政治・階級闘争)、社会主義統制経済・計画経済(自力更生等の鎖国政策)の行き詰まりからの脱却を目指して、経済建設重視の近代化路線に大きく舵を切り、経済の需要と供給の客観的法則を尊重し、市場経済化、自由主義経済化への道を拓く政策です。
 対外開放政策は経済改革と並ぶ車の両輪で、市場メカニズムがすでに作動している国際経済システムとの接触拡大を図り、大型国有企業などの抵抗を排除して、国内経済体制の改革を促進する考え方です。「外資利用」と「貿易拡大」が二本柱で、2001年12月のWTO加盟を実現し、中国経済のグローバル化をもたらしたものと評価できます。
 日本がドイツを抜きGDP世界第2位に躍進したのは1968年、明治元年(1868年)から100年、中国が日本を抜きGDP世界第2位に躍進したのは2010年、1978年改革・開放スタート(GDP第27位)から32年、この速いスピードの最大の理由は経済改革を踏まえた対外開放政策(外資企業導入)にあると思います。

外資による技術移転→品質向上・国際競争力向上→輸出拡大→外貨獲得→輸入拡大→国内生産拡大・経済成長→輸出拡大と、外資による雇用機会創出→所得水準向上→消費購買力拡大が実現し、この結果人口大国中国が巨大マーケットに変身し、このことがさらに一層外資の中国進出を促しているという経済の好循環が実現しています。

 この結果、近年中国は諸々の公共投資や設備投資が格段にスピードアップし、経済発展が極めてダイナミックになってきていることを実感しています。

 即ち、1980年から1990年代前半にかけて、中国で大きな設備投資や建設投資を計画すると、先ず優良な設備や資材を輸入しなければならない。そのためには輸入に必要な外貨調達の目途をたてなければならない。従って先ず外国金融機関からの借入やサムライ債(中国政府または準政府機関が日本で発行する円建て債券)などの債券発行を実現しなければならない。併行して輸入交渉に着手するわけですが、借入や資金調達の進捗状況をにらみながら、貴重な外貨を使うわけですから、輸入交渉も実に多くの時間をかけて入念に行うのが通例となっていました。こういう次第で事業計画の実現には相当の時間を要しました。3年、5
年で完成するといえば、およそその倍はかかったといわれていました。

 ところが外資進出がすすむと、中国の外資企業が生産する良質の設備や資材が基本的に中国国内で調達できるようになり、そのための外貨調達も必要なくなり、設備、資材共に国内通貨(元)で購入できるようになります。仮に機械設備を輸入する場合でも、外貨が潤沢になると外国金融機関からの外貨借り入れの必要性が低くなり、事業計画は予定通り、または予定よりも前倒しで実現できるようになった訳です。相当広範な分野で物事の進捗すなわち発展がスピードアップされ、ダイナミックになった訳です。      

(この項続く)                 

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE

1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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