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COLUMN コラム

駐在員のための  中国ビジネス ー光と影ー

2018.10.15

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第64回)中国進出の留意点(1) 

菅野 真一郎

李川

 2012年の日本政府による尖閣諸島国有化以来冷え切っていた日中関係も、国際経済・政治環境の変化と日中それぞれの国内政治情勢の反映で、昨年後半来歩み寄りと関係改善の気運が高まってきております。昨年の日中国交回復45周年は、日中両国共に特段の政府関係の記念行事は有りませんでしたが、今年は日中平和友好条約締結40周年という節目の年にあたり、5月に李克強総理が来日し、今月(10月)には安倍総理が訪中するなど、日中両国首脳の相互訪問が実現する予定です。安倍総理訪中には財界関係者が1,000名随行するということで、日中経済関係も大きな進展が見込まれております。
 今年はまた、中国の経済改革・対外開放政策(1978年12月の中国共産党11期3中全会で採択)から40周年にもあたり、新たな外資規制緩和の動き(例えば、2017年から外商投資産業指導目録の制限、禁止項目がネガティブリスト方式に、自動車組み立て合弁の外資側出資比率50%以下ルールの見直し、同じく外資1社の中国での自動車組み立て合弁2社規制の見直しなど)も表面化してきて、日本企業の中国進出も積極的になる予感がしています。
 そこで今回から、中国進出にあたっての留意点について、改めておさらいの意味も含めて、述べてまいりたいと思います。中国進出に際して念頭に置いていただきたい考え方や実務的留意点など、極力最新の中国の投資環境の変化を踏まえて述べてまいりたいと思います。

1.進出事業部門

 第1回は進出事業部門の選定の考え方について申し上げます。
 まず、合弁にしろ独資(100%外資側出資)にしろ、最初の中国進出案件は皆さんの会社が最も得意とする事業部門、即ち社長の目が利き、ノウハウもあり、人材もいる製品分野で始めていただきたいと思います。
 例えば合弁の場合、以前は中国側は資金も技術も設備もなく、全ては外資頼みというのが実情でした。しかし改革・開放40年を経て、日本企業は3万2,000社、全世界からの中国進出企業は30万社以上と言われて、かなり設備や技術も中国に移転され、資金面も中国は外貨準備高世界第1位の水準にあり、中国側が資金に困窮するようなことは少なくなりました。にもかかわらず中国の合弁では、中国側は最新の技術を自社開発する能力は一般的には、あるいは内陸企業ではまだ低く、外資に依存する傾向があります。また資金はあっても現金出資は避けて土地や建物の現物出資が圧倒的に多いのが実情です。その全面依存される当の外資側が、実は初めてこの分野を中国で展開しようというのでは、問題が起きる事は目に見えています。
 独資進出の場合は、社内にノウハウもなく人材もいないために、往々にして「中国での事業は中国人に任せるに限る」といって日本人を派遣しないケースがあり、これも問題が起きる事は目に見えています。
 また「かねて温めていた新規事業をコストの安い中国でやってみよう」というケースがありますが、コストが安いと事業立ち上げや事業運営も容易であるかの様に錯覚されるようです。体制も制度も習慣も異なる中国では、小さなプロジェクトだからといって容易に出来るなどとは考えないで下さい。  
 最近では中国市場はいろいろな製品分野で世界有数の大型市場になってきていて、世界の企業が競い合っていますので、なおさら新規事業を中国で始めるのは慎重に考えていただきたいと思います。すでに中国事業経験があっても、新規事業をやる場合は、入念な事前調査,マーケット調査がとりわけ重要です。

2.早期進出

 次に、進出するなら出来るだけ早く進出していただきたいと思います。
 理由は3つ挙げられます。
 第1は、中国マーケットを日本からの輸出で長期に亘りカバーするのは困難ということです。世界銀行の試算でも、中国が国内インフラ整備に必要な外貨は今後(2005年前後の起点)10年で7,500億ドルとされておりましたし、中国の要人は1兆ドルと言っていました。いくら外貨があっても足りない国情にあります。(現に中国はこれまで毎1億kw以上の発電所建設を竣工して、2017年末現在の発電能力は17億7,703万kwで世界第1位、2017年末現在の高速道路総延長は13万6,600㎞で世界第1位、高速鉄道総延長は2万4,182㎞で世界第1位など、積極的にインフラ整備を行ってきています)。
 したがって彼らは、世界の企業に秋波を送り声を掛けて中国進出を慫慂し、製品輸入を国内生産に切り替えようとしています(「輸入代替化」)。さらには、それらの事業を輸出産業に育成し外貨獲得を目指しています。現在の自動車産業がその好例であり、中国の外資政策の基本的な考え方です。同業他社が進出する前に、中国市場に足場を築くべきです。
 また、中国の外国為替管理条例では「経常支払(輸入決済)については制限を与えない」と規定されていますが、実際は銀行または外貨管理局の個別確認が厳格に行われています。最近でこそ規制緩和傾向にあるものの、今後の外貨繰り次第では、全ての外貨交換と外貨送金がほぼ全面的にストップした1998年9月のような混乱が再び起きないとも限りません。
 更にWTO加盟後の中国は、特に石油化学や鉄鋼分野でAD(アンチダンピング)認定やセーフガード発令を「乱発」し、その都度中国向輸出をアテにしている日本産業が多大な影響を受けています。中国向輸出が不安定になりやすい新たな要因です。
 トランプ米大統領の対中貿易制裁も以前には考えられなかった異常事態ですが、長年の中国の努力が実を結びGDP世界第2位、貿易額、外貨準備高共に世界第1位になり世界政治・経済で存在感が高まった中国の新たなカントリーリスクと言っても過言ではないと思います。
 早期進出をお勧めする第2の理由は、「外商投資産業指導目録」で「投資制限項目」や「禁止項目」に指定される前に生産拠点を確保すべきということです。
 外資なら何でも歓迎というのは80年代、90年代前半のことで、昨今は、最新技術は手に入れた、生産ラインが供給過剰だといった業種、項目(プロジェクト)は「投資制限項目」にリストアップされます。こうなると、暗に高い輸出比率を要求されたり、赤字国有企業との合弁を示唆される傾向があり、進出が必ずしもスムーズにいきません。
 例えば自動車部品は一般には「奨励項目」でしたが、2002年4月1日のリスト改定で多くの部品が「奨励項目」から外されました。しかし、重慶市、湖北省、吉林省においては引き続き「奨励項目」です。「奨励項目」には生産設備の輸入関税と増値税(17%)が免除される優遇があります。内陸部に自動車部品産業を誘導するための方策です。自動車の組み立て事業も以前は奨励項目だったものが、2011年改定で目録から外れて一般許可項目になり、2015年の改定では制限項目に指定されました。
 WTO加盟後、「産業指導目録」は基本的には緩和(奨励項目を拡大)の方向ですが、その運用はむしろ厳格になってきているのも事実であり、その動向には留意が必要です。2017年から、産業指導目録の「制限項目」「禁止項目」はネガティブリスト方式となり、そのリストも随時改定されますので、その動向には注意が必要です。(この方面の外資政策は2016年制定の「中国製造業2025」政策との関係もあり、変更が目まぐるしいので、特に留意して頂きたいと思います)。
 早期進出をお勧めする第3の理由は、部品・原材料メーカーが中国進出によって、日本では取引のない系列外企業との取引のチャンスを獲得できることです。我々の中国駐在経験でも、家電メーカー等の大手企業からは「部品メーカーなら誰でも、いつでもお会いしたい」と言われています。自動車メーカーからも「日本でも中国でも系列は関係ない。部品メーカーの進出サポートを積極的にやって欲しい」と言われています。
 中小企業金融公庫(現日本政策金融公庫)が中国進出取引先(約900社)に対し実施したアンケートでも、70%の企業から、「中国進出で日系、欧米系、台湾系、韓国系との新規取引が出来た」との回答が寄せられています。

(つづく)

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE

1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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