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COLUMN コラム

駐在員のための  中国ビジネス ー光と影ー

2018.12.17

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第66回)中国進出の留意点(3)

菅野 真一郎

黄山

4.合弁パートナーの選定(1)

 今回は、中国での合弁パートナー選定にあたって留意すべき事項について述べてみたいと思います。
 世界からの対中投資件数の統計を見ますと、1997年以降独資の件数が合弁の件数を上回り、例えば2017年実績では、合弁件数8,364件、実行金額297億ドルに対し、独資件数は27,007件、実行金額913億ドルと合弁のほぼ3倍の割合になっております。 この背景としては、例えば製造業の独資企業は製品の50%以上を輸出することを義務づけられていましたが、WTO加盟を見据えた2000年10月の法律改正でこの輸出義務条項が撤廃されるなど、独資企業に対する規制が大幅に緩和されたことが挙げられます。

 しかし、全体としてみれば、自動車組み立てや流通、物流分野等では依然として合弁が義務づけられているなど、合弁プロジェクトの件数も引き続き高水準にあることは間違いありません。
 ちなみに対中直接投資の2017年末の累計は、899,956件(支店、出張所を含む)、実行金額1兆8,966億ドルに達しています。日本は2016年末の累計は、50,416件、実行金額1,049億ドルです(いずれも「中国商務年鑑」による)。
 従前は「世界の工場、中国」への製造業進出が中心でしたが、近年は大きく成長した「世界の市場、中国」めがけて製造業とともに非製造業の進出も活発です。
 また中国市場狙いの場合は、業種によっては有力な中国企業(国有企業、民営企業)との合弁のケースも増えており、ますます進出前の入念な事前調査が重要になってきております。
 中国事業の成否は製品の市場性があるかどうかが最大のポイントであることは日本での事業の場合と全く同じですが、とくに合弁の場合には、良いパートナーに恵まれるかどうかも非常に重要な要素となります。
 “中国での合弁事業は良いパートナーに恵まれれば90%成功”と言われます。私も同感です。ではどうやって良いパートナーを探すか。残念ながらマニュアル的決め手はありません。進出目的、業種、地域等考えられるあらゆる角度から、今後20~30年一緒に事業をやっていくに相応しいかどうか調査し、最後は経営判断といった抽象的アドバイスが正解とも言えます。調査の際、以下の点にはご留意ください。
 なお合弁事業は人生の結婚にたとえて考えるとわかりやすいと思います。例えば合弁パートナー選定も結婚の相手を選ぶ時の決め手は何かという観点で考えると、比較的考えやすいと思います。

①会社の経営理念、経営者の人格、哲学(信念)は最も重要なポイント

 合弁(結婚)したら長年にわたりいろいろな困難を一緒に乗り越えなくてはならない訳ですから、経営理念が共有できることが最も大事だと思います。直接経営者同士が面談したり、取引があったり合弁をすでに進めている日本企業に相手の経営者の人物評価をヒヤリングしたりすることです。
 基本的には「事業は人なり」という信念のもとに人材育成(教育投資)と技術開発(研究開発投資)に注力しているかどうかを確認します。社会貢献活動を重要視しているか、法令で定められた「障害者雇用」にどのように取り組んでいるかなどもチェックポイントになります。
 北京で食品関係合弁をサポートした時、当該候補企業は国有の大手企業グループの1社でしたが、すでに当該大手企業グループと合弁していた日本の大手商社から「必ず党委員会の設置を合弁条件にされる」と聞き、交渉を取りやめたケースがありました。

②会社の財務内容精査
 
 会社の財務体質精査は、結婚相手が健康かどうかのチェックと同じではないでしょうか。
 借入金の規模、簿外資産や簿外負債の有無、町金融からの高利借入金の有無などです。
 財務諸表を数期間時系列で比較検討するための統計を取ること、数字の大きな変化をチェックすること、季節性のある原料や商品の動きが季節性から見て合理的かどうかなどに注目する必要があります。
 本業以外の多角化の状況をチェックする必要もあります。会社の体質が筋肉質かどうかです。不動産投資や証券投資の有無のチェックです。国が景気対策の必要などの理由で貸し出し促進の政策を取ると、大型国有企業など信用力のある企業が資金を低利で借り入れ、これを不動産投資、証券投資で運用するケースはよくある例です。日本のバブル時代と同じ現象です。上海のしっかりした大型石油化学企業の財務総監から、他社事例として複数企業の実態を教えられたことがあります。
 ある地方の省都で合弁パートナーを2社(規模の大きなA社と規模の小さいB社)に絞り調査を続けているとき、いつもチャーターして顔馴染みになっていたタクシーの運転手がA社の董事長のお抱え運転手だったことがわかり、当該運転手から「A社の董事長はケチ、A社は町金融を利用していて、資金繰りは厳しいはず」という情報を得ることができ、調べた結果ほぼ事実であることがわかり、B社に決めた事例もあります。
  
③その他のチェック事項

 合弁候補会社と取引がある他の日本企業からは、製品の品質、納期、代金の支払い状況、従業員の質、勤務態度、しつけなども聞くことが必要です。
 合弁候補会社の本社訪問、工場見学も早い段階(最初に)で実行してください。工場、事務所はじめ廊下、階段、トイレなどの整理整頓状況、清掃状況をチェックしてください。部品や原材料、製品の在庫状況のチェックも大事です。従業員の勤務態度、服装、規律性などのチェックも大事です。
 上海で医療機器関係の合弁を考えた日本の経営者が、合弁候補の工場を最初に見学して、整理整頓がでたらめな様子を知り「いくら教育してもこれでは無理」と言って、合弁をあきらめ独資に変更して進出した例もあります。
 いつも面談や会談が市内のホテルの会議室やロビーだった2件の事例があります。
 一件はドラッグストアの合弁で、私が当該市に出張して、本社を視察(観察)しました。大きなビルのワンフロアに本社を構えていましたが、執務時間にもかかわらず事務室の中で若い従業員が机に腰かけて談笑している風景と、事務室の隣の商品倉庫と思しき部屋に商品の段ボールが乱雑に置かれステンレスの網棚にも商品が乱雑に置かれている様子を覗き見ることができました。いつもホテルで面談する事情が分かり、最初の段階で合弁をあきらめました。ほどなくほかの業界大手が当該会社と合弁を立ち上げたニュースが流れましたが、2年を経ずして、撤退のニュースも流れました。
 もう1件は医薬品販売に関して、「当社(A社)は日本企業で初めて全国販売の営業許可書を取得している。貴社(B社)製品の全国販売特約を締結したい」との申し出について相談を受けました。A社は東北地方に本社があり、いつも上海や深圳で面談していて、B社はまだA社の本社を見ていないということでした。早速銀行の大連支店長にA社の本社を視察してもらったところ、住所もビルも合っているが、テナントのA社の入り口のドアの内側には段ボールが積まれていて中に入れないし、人がいる気配もないという報告と写真が送られてきました。とても『全国販売の営業許可書』がある会社とは思えませんでした。
以上の例でおわかりのように、腑に落ちないことは実際に現場に行って現物を確かめたりヒヤリング調査をすることが大事であることがお分かりいただけたと思います。

(この項つづく)
          

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE

1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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