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COLUMN コラム

駐在員のための  中国ビジネス ー光と影ー

2019.12.02

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第76回)中国進出の留意点(13)

菅野 真一郎

黄山(中国・安徽省)

8.親会社に全面依存、中国に全面依存は危険

 (1)前回は勧誘を受けた親会社の中国プロジェクトに全面的に依存するのは要注意と申し上げました。
 (2)今回は「これからは中国だ」と言って日本の工場を整理して資金を捻出して中国に進出するのも要注意と申し上げたいと思います。

 やや旧聞に属する話ですが、90年代初頭中国進出がブームになりかけていたころ、日本の同じ工場団地の親しい社長が大連に進出して5年、比較的順調に業容も拡大していて会えばいつも「大連に出てこないか」と誘われていました。借金を避けるため日本の工場を整理して資金を捻出する心づもりの、当該誘われた社長から相談を受けました。実はうまくいっている会社も当初3~4年は人に言えない苦労の連続だったことは、我々取引銀行は知っていました。したがって、中国進出にあたっては進出目的、経済合理性をよく考えて、何度も現地調査を行うなど入念な事前調査の必要性を訴えました。「隣の芝生は青く見える」式、他社がうまくいっているのでわが社も何とかなるだろう式は、中国進出では全く通用しないことを理解していただきました。

 「小さく生んで大きく育てる」はトヨタの張富士夫社長(当時)が長春の第一汽車と業務協力協定を北京の人民大会堂で締結した時、日本経済新聞の記者に語った慎重姿勢を示すキーワードです。(その後トヨタは天津汽車と中国での合弁第一号を設立し、第一汽車が天津汽車を吸収合併して、結果としてトヨタは第一汽車との合弁が実現しました)。
 企業規模の大小にかかわらず、中国依存率は20~30%が理想ではないでしょうか。香港ナンバーワンの富豪李嘉誠(リカシン)氏は、北京の王府井の都市開発など中国に積極的に投資を行ってはいますが、基本的には中国投資のスタンスは「carefull」(慎重)と言われていますし、ここ10年来「中国からの収益は当社グループの収益の30%以内に収まるようにしている」と述べていることは、以前もご披露しました。

9.日本人を派遣しない「中国人任せ」、「他人任せ」も要注意

 「中国事業は人事管理が難しく、仕事も行政や関係者とのコネがものをいう社会なので、中国人に任せるに限る」と言って、はじめから日本人を派遣しないで中国人に任せるケースが後を絶ちません。日本人一人の派遣駐在費用は人件費(外国人給与水準では個人所得税は最高の45%は避けられない)、住居費、移動手段としての毎日のハイヤー代など少なく見積もっても年10~15百万円(日本での経費は含まず)はかかる経済的理由が背景にあると思います。

 日本で縁ができた「真面目な中国人留学生」を採用し派遣するケース、中国で現地採用した中国人に現地工場(あるいは事務所)を任せるケースなどがあります。これらはいずれも失敗しやすい典型例です。中国事業の運営には、会社経営や工場運営の経験・知見と実績が重要です。日本本社の経営理念や商品知識に習熟していることが大事です。中国事業責任者は、日本の本社や工場などで全社的に名前や力量を知られていることも大事なポイントです。これらは入社して2~3年で達成されるほど簡単なことではありません。

 中国事業のスタート時は、日本サイドのしっかりした中堅幹部を派遣駐在させ、マニュアルを作り、中国人職員を教育・訓練して人材育成を図るのが王道です。その中から忠誠心が高く向上心がある人材を発掘し幹部に育て上げる、徐々に権限を与え登用する、ゆくゆくは管理職や工場運営責任者に就かせ、「人の現地化」を実現することだと思います。日本人派遣者は「さんま」すなわち「まじめ」で「まめ」で「がまん強い」人が適材です。繰り返し繰り返し教える、決して大声を出したり怒りを顔に出さないような人が、中国人職員とうまくやれる人です。

 中国進出サポートを標榜するコンサルティング会社の中には、自社のアドバイスの手の内を知られたくないために「00万円出して戴ければ会社設立まで一切の手続きを代行します」というセールスをする会社があります。これでは替え玉受験と同じになります。替え玉受験でいちばん困るのは合格した本人(中国に派遣される人)です。いろいろ苦労して行政当局とやり合う、交流することも、会社や事務所運営上重要なコネになるので、自社の人間がコンサルティング会社と一緒になって仕事(手続き)を進める必要があります。

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE

1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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