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COLUMN コラム

駐在員のための  中国ビジネス ー光と影ー

2020.04.06

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第79回)中国進出の留意点(15)

菅野 真一郎

瀘沽湖(ろここ):中華人民共和国南西部の雲貴高原にある淡水湖

 第77回まで、中国進出にあたっての一般的留意事項を説明しました。今回からは中国進出にあたって入念な事前調査がいかに大切かということを、実際に遭遇したトラブル事例も交えて説明していきたいと思います。官僚主義中国らしい制度・習慣の特殊性や中国や中国人との付き合い方にも触れることがあると思います。

1.入念な事前調査の重要性

(1)実査とヒヤリング

①中国側からの積極的情報開示は期待できない

 中国での交渉や調査では、基本的には中国側からの積極的な情報開示は有りません。「ついでにご参考までに申し上げますと・・・・」とか「これを進めるうえでは、以下の点にもご注意下さい・・・・」というセリフは有りません。当方が具体的な質問や確認をしない限り、聞かれたこと以外のことは教えてくれません。後日問題が起きたとき、「どうしてあの質問をした時に、教えてくれなかったのか」と言うと、いとも簡単に「聞かれませんでした」と答えます(*)。実査とヒヤリングによる入念な事前調査が大切なゆえんです。経験豊富な日本の銀行、商社、先住の日本人駐在員(現地法人の派遣者)からのヒヤリングは有益です。特に物流と工場建設については、専門家や経験者の話は不可欠です。中国では、日本で全く取引のない会社あるいは競合する会社の派遣者であっても、いろいろな体験や業務上の情報を教えてくれるケースがよくあります。苦労した人ほど親切です。

 そしてこれらの実査やヒヤリングを通じて合弁交渉や行政当局との交渉の場で確認すべき事項の詳細なチェックリストを作成することが大事です。

 余談になりますが、日系の運送会社や建設会社の現地駐在員は、原料や部品の調達先、メッキなどの外注先、同業他社の進出動向(工場立地の選定の動き等)、事故や事件やトラブル情報等、実に様々な現地情報に詳しいです。これらはすべて彼らの仕事に直接つながる情報の関係だと思います。私も上海駐在時代、特に問題意識が高い方とは、時々食事に誘い情報を聞き、取引先への情報提供に役立てた覚えがあります。

 またすでに中国進出の経験が長く、しかも良い業績を上げている会社の経営者の中には地元の地方政府とも親しい関係にあって、当該地への日系企業進出を積極的に支援している方も少なくありません。日本でこれらの経営者を訪問し(中堅企業のオーナー経営者が多い)、現地事情や進出にあたっての留意すべき事項を聞いたり、場合によっては進出候補地の行政の責任者への口利きや紹介をお願いすることも、事前調査のエネルギー節約と調査の精度向上に大いに助けになります。私も上海駐在時代に取引先の来訪者に自分で説明するだけでなく、特殊な業種やテーマの現地事情に詳しい駐在員を紹介したり、本社訪問を仲介する経験を随分しました。売上債権回収の難しさと、この面で大きな実績をあげている大手家電メーカーの総経理を紹介して立会い、毎回大いに自分も勉強になったことがあります。 

(*)中国側はおそらく内部の規定で、外国人(企業)との公的な交渉や接触は複数で対応することになっています(中国側が一人ということは原則としてありません)。これは余計な情報提供をチェックするための相互牽制です。

 天安門事件が起きた年の秋だったと思いますが、沿海の大都市の副市長が、私が勤めていた銀行のトップに単独で会いに来ました(私の銀行は当該都市の大型都市開発プロジェクトに複数の取引先と一緒に投資していて、親しい関係にありました)。訪日ミッションの団長の副市長が通訳も連れずに単独で来訪したことに驚きましたが、面談の冒頭「今回の単独での〇〇先生訪問については上層部の許可を得ていますので宜しくお願いします」と言われました。面談の目的は、日本企業の対中投資を活発化するにはどうしたらよいか、意見を聞きたいというものでした。

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE

1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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