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COLUMN コラム

駐在員のための  中国ビジネス ー光と影ー

2020.05.18

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第80回)中国進出の留意点(16)

菅野 真一郎

上海の夜景

1.入念な事前調査の重要性
(1)実査とヒヤリング

①中国側からの積極的情報開示は期待できない(続き)

 前回(第79回)、事前調査の実査やヒヤリングで大事なことは、経験豊富な日本の銀行、商社、先住の日本人駐在員からの情報収集が欠かせないこと、そして合弁交渉や行政当局との交渉で確認すべき事項の具体的で詳細なチェックリストを作るべきことを申し上げました。

 今回はヒヤリングやチェックリストが不十分なために遭遇した具体的事例の一端をご紹介します。
 1980年代半ば、中国が経済改革・対外開放をスタートして外国企業や外国人旅行者の誘致に本格的に取り組むにあたり、首都北京市の市長から日本の経団連会長も経験した財界トップ(上海では宝山製鉄所建設を手掛けた)に対して、「北京市で5スターのホテルとオフィス、マンションのコンプレックス(複合施設)建設・運営の日中合弁事業をやって欲しい」との要請がありました。当該財界人は「これはオールジャパンで取り組むべき」と考え、旧興銀のトップに取りまとめを依頼し、日本側は40数社が共同出資して合弁パートナーとなる投資会社を立ち上げ、北京市旅游公司を中心とする中国側合弁パートナーと合弁交渉に入りました。幾多の困難を乗り越え日中合弁の長富宮大飯店が開業にこぎつけましたが、工事期間の内装工事に入る直前に、中国側から「電気、ガス、電話のインフラ建設の三源費用は合弁会社が支払う規定です」と主張してきました。金額は十数億円の大金です(算出根拠の詳細は開示無し)。日本側は北京市長に頼まれた半ばG・Gベースのプロジェクトであり支払えない、三源費用負担の話は合弁交渉では聞いていないと主張し、北京市政府にも交渉しましたが、中国側は「重要なインフラ供給会社の規定である」の一点張りで、結局日本側は折れました。

 同じころ上海市で虹橋開発という都市開発プロジェクト(36ha)がスタートし、上海市政府から色々な日本企業に5スターホテル、オフィス、マンションのコンプレックス建設・運営の日中合弁プロジェクトが打診されましたが、2億ドル(当時500億円相当)の巨額投資に引き受け手がなく、旧興銀が親しい取引先にお声がけして引き受けることになりました。いろいろな困難が発生する中で、コンプレックスが使用する電気について、虹橋開発区に配電されている電線から電気を引き込めると考えていたところ、工事が内装に入る時期になって「使用容量が大きいので、変電所からの配電費用は合弁会社が負担する規定です」と言われました。また大型ビルでは、建物内の変圧器は2基設置する規定」とも言われ、日本側は日本にない習慣に大いに戸惑い、困りました。結局電気、ガス、電話などのインフラは、インフラ供給会社側が「払わないなら使わせない」と開き直るために、ユーザーは泣き寝入りするしかない状況でした。社会主義官僚制度中国独特の制度、習慣を事前によく研究していれば、合弁要請の段階で市政府のトップに交渉できた可能性があったのかもしれません。

 日本の大手商社が推進したタケノコ缶詰製造事業が完成し、製品を日本に輸出するため税関に出向いたところ、「タケノコ缶詰は輸出許可品目なので(正確には『輸出許可証管理貨物目録』該当貨物)、輸出許可証がないと、輸出権を付与されている外国企業でも、直接輸出はできません」と言われ、輸出許可証を申請しようとしたら、「規定により事後申請は認められません」と言われてしまいました。輸出許可品目は公表されていますが、事後申請は認めないなどはおそらく悪名高い「内部規定」ではないでしょうか。結局日本の商社は貿易が本業でありながら中国の国有貿易公司に手数料を払って輸出せざるを得ませんでした。

 東京の中堅不動産会社が、自社の販売用分譲住宅に使うために、江蘇省でイグサ栽培と畳表製造事業を起こし、完成した製品の畳表を輸出しようとして税関で同じように「これは輸出許可品目で、輸出許可証が必要、事後申請は認められない」と言われ、手数料を払って国有貿易公司経由で日本に輸出している事例もあります。

 いずれも輸出許可品目制度の実務的内容をよく知らないためのトラブルで、経験者から詳しく輸出許可証の事前取得の必要なことなどを聞けていれば未然に防げたと思います。中国ビジネス関係参考書を読んでも、輸出許可証申請の必要書類は書いてあっても、事前申請取得が必要なことは書いてありません。
大変残念なことは、事前に対外貿易経済部門(現在の商務部門)とプロジェクトの認可について交渉しているときに、中国側から「これは輸出許可品目なので、事前に輸出許可証を取得しておかないと、直接輸出が出来ませんよ」との忠告が無かったことです。後日そのことを訴えてもただ一言「聞かれませんでしたから」と言われるだけです。日本の経済産業省であればそのようなことはないと思いますが、社会主義官僚制度中国独特の風習ではないかと思います。

 輸出許可品目は今でも20品目前後有って(ピークは300品目近くありました)公表されていますので注意が必要です。
 唯一の救いは、抽象的に「何か他に注意することは有りませんか」ではなく、具体的に詳細に聞けば、実に丁寧に正確に教えてくれることです。環境対策関係でも、環境保護局の役人は、具体的に質問すれば、詳しく親切に教えてくれた経験は数多くあります。

(つづく)
                     

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE

1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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