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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見た  アメリカ

2017.03.27

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」35 『Localization(現地化)』

北原 敬之

タホ湖(Lake Tahoe レイクタホ)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州とネバダ州の州境のシエラネヴァダ山中にある湖

多くの日本企業がアメリカに進出し、各州で拠点を展開しています。企業規模・進出時期・製品・ロケーションはそれぞれ異なりますが、「現地化」という切り口で見ると、必ずしもすべての日本企業が「現地化」に成功しているとは言い難く、現地化が進まずに、日本の本社に依存したオペレーションを続けている企業も見受けられます。今回のコラムでは、筆者がビジネスマンとして研究者として観察してきた多くの日本企業の実例から、日本企業に共通する「現地化」の課題を明らかにしたいと思います。このコラムが日本企業の「ベストな現地化」「現地化のあるべき姿」を見出す上で参考になれば幸いです。 

まず第一に、「現地化」とは、「すべての業務を現地で行うこと」でもないし、「すべての業務を現地人社員が行うこと」でもありません。「現地化」とは、「海外拠点において、統合された企業文化とマネジメントの下で、日本人出向者と現地人社員が協力し、日本の本社との最適の連携・分業・協業体制で、戦略的かつ効率的に業務を遂行し、顧客に対して、日本の本社と同等あるいは同等以上の質の高い技術・製品・サービスを提供できる体制を構築していくプロセス」です。そして、「現地化」は海外オペレーションの大事な要素の1つですが、あくまで業務の質を高めるための手段であって目的ではありません。「現地化」を急ぐあまり、あるいは「現地化」を重要視するあまり、いつのまにか手段であるはずの「現地化」が目的化しているケースも見受けられます。手段が目的化すると、誤った判断やバランスを欠いた意思決定を生み、結果的に、「現地化」の失敗や遅れに繋がることになります。

日本企業の海外オペレーションでは、企業によって程度の違いはありますが、下記のような「海外拠点の現地化を阻害する要因」とそれらに起因する「誤った現地化」が観察されます。

1.「グローバル本社」か「日本本社」か?

「日本企業の海外拠点の現地化を阻害しているのは実は本社である」と言っても過言ではありません。海外拠点に対して「現地化しろ」と言いながら、海外拠点とは日本語で日本人出向者を通してコミュニケーションして、現地人社員と現地語あるいは英語で直接コミュニケーションできない日本企業があります。つまり、本社が「グローバル本社」の役割を果たせず、「日本本社」のままであるということです。結果的に、日本人出向者は、自分の担当業務と本社とのコミュニケーションに忙殺され、現地人社員の育成に必要な時間が取れないという状況に陥り、現地人社員も、本社とのコミュニケーションの度に日本人出向者を頼らざるを得ないため、なかなか独り立ちできないという悪循環になってしまいます。現地化の第一歩は、まず本社が「グローバル本社」の機能を果たすことでしょう。

2.「現地化」と「現地人化」の混同

日本企業の中には、「日本人出向者がやっている仕事を現地人社員に置き換えることが現地化」あるいは、「日本人出向者を減らすことが現地化」と考えているケースもあります。「現地化」と「現地人化」を混同しているということです。「現地人化」は、「現地化」を着実に進めた結果で生じるものであって、「現地化」の一側面に過ぎません。グローバル化が進んでいない(=海外拠点の実情に疎い)本社ほど、「現地化=現地人化」と安易に考える傾向が強いように感じます。現地化の前提となる「現地人社員の育成」や「企業文化の共有」が不十分なまま「現地人化」を強行すれば、「現地化」全体が失敗に終わる可能性が高くなります。「現地化」の本質を理解していない日本企業に見られる「誤った現地化」の典型です。

3.本社からの「早く現地化しろ」プレッシャー

「現地化」は手間と時間のかかる「息の長いプロセス」ですが、それを理解せずに、本社が海外拠点に対して「早く現地化しろ」というプレッシャーを与える日本企業が多いです。企業として目標を持つことは当然ですが、実体に合わないあるいは実力を伴わない「目標」は時として弊害を生みます。その典型例が、日本企業で見られる「形だけの現地化」「無理な現地化」です。たとえば、「それまで日本人出向者が務めてきた管理職のポジションに現地人社員を登用し、表面上現地化できたように見えますが、実際は、日本人出向者がそのまま残り、コーディネーターの肩書で実質的に管理職業務を行っている」という実例があります、これは典型的な“形だけの現地化”です。また、「現地化」を理由に「ハードルを下げる」例もあります。「ハードルを下げる」とは、期待値と評価基準を切り下げるという意味です。これまで日本の本社でやっていた業務を海外拠点に移管するとか、日本人出向者が担当していた業務を現地人社員に切り替えるとか、現地化にもいろいろなパターンがありますが、「ハードルを下げる」ことは「仕事の質」を下げることにつながります。これが「無理な現地化」です。これまでの実力値が100なら、「現地化」後の期待値も当然100にすべきであって、妥協して80や90に下げるべきではありません。仕事の質を犠牲にしては本末転倒です。実力を伴わない「形だけの現地化」や「無理な現地化」は「百害あって一利なし」です。

4.日本人出向者のミスキャスティング

現地化が上手く行かない日本企業で観察される問題の1つが日本人出向者の「ミスキャスティング」ですが、「ミスキャスティング」には2つの意味があって、レベル的な側面とタイプ的な側面があります。日本企業は、海外拠点を立ち上げた当初に派遣する初代の出向者には「エース級」の人材が必要だが、拠点のオペレーションが軌道に乗った後の二代目以降の出向者は「エース級」でなくても良いと考える傾向がありますが、実際には逆で、「エース級」の初代出向者に育てられた現地人社員の目から見ると、「エース級」でない二代目以降の出向者は物足りないように感じ、出向者をリスペクトしないこともあり、最悪の場合、現地人社員の指導・育成ができない事態も発生します。これがレベル的な「ミスキャスティング」です。

現地人社員を育成する日本人出向者には、業務に関する実務能力や知識に加えて、言語・文化の異なる現地人社員に対して、「形式知」だけでなく「暗黙知」も含めて、「伝えて・理解させて・納得させる」コミュニケーション能力、言わば「異文化コミュニケーション力」が必要です。日本企業の場合、総じて、実務能力や知識については問題ありませんが、「異文化コミュニケーション力」が不足している出向者が多いように感じます。これがタイプ的な「ミスキャスティング」です。「語学力=異文化コミュニケーション力」と誤解している日本企業が多いことも一因ですが、出向者の人選段階からの見直しが必要であると考えられます。

5.現地人社員を育成する仕組みがない

「現地人社員の育成」は現地化の重要なステップであり、本社と海外拠点が一体で取り組むべき課題ですが、実態は、拠点まかせ、正確に言うと、拠点の日本人出向者に依存しているケースが多いと思われます。出向者はもちろん努力していますが、下記要因もあり、現地人社員の育成は不十分と言わざるを得ません。
① 日本人出向者は担当業務が超多忙で、現地人社員の育成に使える時間に限りがある。
②日本で部下を育成した経験が少ない(あるいは無い)まま赴任している出向者が見受けられる。
③業務遂行が最優先で、現地人社員にまかせるより自分で仕事した方が早いと考える出向者もいる。
④拠点全体で現地人社員を育成する仕組みがないため、出向者の個人技に頼らざるを得ない。
⑤出向者は4~5年で交代するが、現地人社員は継続して勤務するため、出向者よりも現地人社員の方が経験も知識も上という「逆転現象」が起きて、育成が難しいケースもある。
⑥現地人社員育成のノウハウや経験知が出向者個人の頭の中に入ってしまい、拠点全体あるいは企業全体で知識として蓄積して共有するという考え方が希薄で、出向者の交代もあるため、人材育成力がベルアップしない。

参考論文:北原敬之「日本企業の海外拠点における現地化と業務移転の困難をめぐる諸問題」
関東学院大学『経済系』第270 集(2017 年1 月)(ネットで閲覧可)

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE

京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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