グローバル HR ソリューションサイト
by Link and Motivation Group

グループサイト

文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大
  • お問い合わせ
  • TEL:03-6867-0071
  • JAPANESE
  • ENGLISH

COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見た  アメリカ

2017.08.28

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」39 『Decision-making』

北原 敬之

ペンシルバニア州ピッツバーグの風景

 先日、 アメリカ人の若い友人から「暑気払いにビアガーデン行きませんか?」とメールが届き、久しぶりに彼に会いました。彼は、アメリカの多国籍企業の社員で提携先の日本企業に出向している優秀なビジネスマンですが、日本での生活にも慣れ、古典的な日本語である「暑気払い」や典型的な和製英語の「ビアガーデン」という単語も覚えたようです。ビールを飲みながら、最初は、世間話やスポーツなど軽い話題で日本語の会話を楽しんでいましたが、ビールが2杯3杯と進むにつれて、話題はビジネスやマネジメントに移り、いつの間にか、英語で会話していました。いろいろなことを話しましたが、その中で、「Decision-making(意思決定)」についての会話が興味深かったので、このコラムで紹介したいと思います。

筆者「日本での仕事はどうだい?」
友人「とてもうまくいってるよ。日本人の同僚はよく働くし、アメリカ人の僕にもとても親切にしてくれるよ。」
筆者「日本企業の仕事のやり方には慣れたかい?」
友人「たくさんの人がデスクを並べて仕事をする“大部屋”のオフイスには、最初抵抗があったけど、慣れると、同僚たちと情報交換や相談が簡単にできて、なかなか便利なシステムだね。“稟議”のシステムも、最初は無駄だと思っていたけど、関係する部門の人たちとの情報共有やコンセンサスを確認するには効率の良いやり方だとわかってきたよ。」
筆者「じゃあ、あまり困っていることは無さそうだね。」
友人「困っているわけじゃないんだけど、まだよく理解できないことがいくつかあるんだ。」
筆者「何だい?」
(彼は日本語も堪能で、日本のビジネス文化に対する理解も深く、日本企業にうまく適応しているように見えますが、そういう彼でも、日本企業の仕事のやり方に対して疑問に思うことがあるようです。会社の上司や同僚には言い難いことでも、日本人の元ビジネスマンで年長の友人である筆者には言い易いらしく、彼が疑問に思っていることを率直に語ってくれました。)
友人「僕が一番理解できないのは、意思決定に膨大な時間がかかることなんだ。」
筆者「なるほど。」
友人「日本企業はコンセンサスを重視するから、意思決定に時間がかかることは僕も理解しているんだけれど、決定までに何故あんなに何度も会議を開く必要があるのかがわからないし、意思決定に関わる役員や部長だけでなく、課長や係長まで参加する会議をやる必要があるのか、理解できないんだ。」
筆者「確かに、日本企業が意思決定に時間と手間をかけているのは事実だと思うよ。」
友人「変化のスピードがどんどん速くなっているのに、意思決定に時間をかけていたら、競争に負けちゃうよ。アメリカやヨーロッパの企業はトップダウンだから、意思決定がもっと速い。」
筆者「日本企業だってトップダウンだよ。」
友人「えっ!本当に?」
筆者「形を変えたトップダウンだよ。日本型トップダウンと言った方が良いかな。」
友人「どういう意味?」
筆者「アメリカやヨーロッパの企業文化では、トップが意思決定したことをはっきりさせる方がうまく行く。日本企業では、実際にはトップが意思決定しているんだけど、それをあまりはっきりさせずに、みんなで意思決定したような形にした方がうまく行くんだ。だから、何度も会議を開いて、みんなの意見を聞いたり、情報を共有したりして、時間をかけてコンセンサスを作っていくんだ。」
友人「どうしてそこまでする必要があるの? 時間の無駄のような気がするけど。」
筆者「意思決定は“決めたら終わり”じゃないんだ。意思決定した内容について、みんなが納得して共感することが重要なんだ。日本語で“腹に落ちる”って言うんだけど、ちょっと難しいかな。意思決定に直接関わらないレベルの社員まで会議に参加させて、みんなで決めたという形をとることで、社員の納得と共感が高まる。面倒だけど、このプロセスが日本企業の組織力の強さを生んでいると思うよ。」
友人「少し理解できたような気がする。」
筆者「Decision-makingは、“Decision”と“Making”の2つの部分があるだろう。“Decision”が正しくても、それを活かす“Making”ができていなければ、組織の中に浸透しないんだ。日本企業のやり方は、この“Making”を日本のビジネス文化に合ったプロセスで実行しているんじゃないかな。」

 友人とのビールと会話はまだまだ続きますが、紹介はここまでにします。
アメリカと日本は、外交や軍事だけでなく、ビジネスの分野でも重要なパートナーです。アメリカ企業と日本企業のビジネス文化,仕事のやり方には違いがありますが、パートナーであるからこそ、お互いの違いを理解し合うことが必要だと思います。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE

京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

このコラムニストの記事一覧に戻る

コラムトップに戻る