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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見た  アメリカ

2018.01.04

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」42 『クライシス・コミュニケーション』

北原 敬之

シカゴーのリバービュー

 昨年、日本の大手素材メーカーや自動車メーカー等で、製品検査結果の改ざんや無資格社員による検査などの不祥事が発生し、当該企業が不祥事の原因や対策などを説明する記者会見が行われるケースが多くありました。こういう不祥事発生に伴う記者会見は、「クライシス・コミュニケーション」の一部です。「クライシス・コミュニケーション」(Crisis Communication)とは、非常事態の発生によって企業が危機的状況に直面した場合に、その被害を最小限に抑えるために行う、情報開示を基本としたコミュニケーション活動です。記者会見の様子はニュースで報道されていましたが、日米双方でのビジネス経験を持つ筆者から見ると、日本企業の「クライシス・コミュニケーション」は、アメリカ企業に比べて弱いように感じました。今回のコラムでは「クライシス・コミュニケーション」について考えてみましょう。

 「クライシス・コミュニケーション」の役割は、リスクマネジメントの一環として、事実関係や実施する危機管理対策の内容を各ステークホルダー(利害関係者)に迅速かつ適切に伝達するにより、非常時の企業の被害を最小化することですが、その対応を誤ると、被害を小さくするどころか、決定的に悪化させてしまうこともあります。過去の日本企業の危機管理の失敗例を見ても、事実の公表が遅れて隠ぺいを疑われたり、記者会見に誤りや失言があったりするなど、問題は、発生した危機そのものより、それに対する企業のメッセージが社内外に正しく伝わらないというコミュニケーションの不備にありました。アメリカ企業と比較してみると、下記の点が日本企業の「クライシス・コミュニケーション」の課題であるように感じます。

①クライシス・コミュニケーションはトップが主役

 アメリカ企業では、危機発生時にはトップ自らが記者会見して発表・質疑応答を行うのが普通です。クライシス・コミュニケーションはトップの重要なミッションなのです。日本企業の場合は、トップが記者会見に出てこなかったり、出てきても、謝罪や挨拶だけして、発表・質疑応答は担当役員や部長クラスにやらせるなど、トップのコミットメントが不十分なケースが見受けられます。危機発生時に最も重要なことは、危機に立ち向かう姿勢と対応策を社内外に情報発信し信頼を得ることですが、そのためには、トップのリーダーシップが不可欠です。平時では日本的な「前面に出ない調整型リーダーシップ」でもいいですが、有事の際はアメリカ的な「前面に出る率先型リーダーシップ」がMUSTです。因みに、アメリカでは、企業トップ向けのコミュニケーションのセミナーや個別指導のインストラクター派遣を行う専門会社が多数あり、アメリカ企業で新たに就任したトップは、就任早々こういった場でクライシス・コミュニケーションを学ぶことが多いようです。日本企業のアメリカ拠点のトップもこういった場に参加されることをお勧めします。

②タイミングの遅れは命取り

 クライシス・コミュニケーションでは、タイミングが重要です。社内で危機が発生した場合、まず現場から上司や担当部門に第一報が入りますが、日本企業の場合、正確性を期すあまり、確認に時間がかかり、情報の共有化が遅れて、結果的に被害を拡大させてしまうことがあります。日本企業の不祥事のケースで、情報が小出しに出てくる印象が強いのは、隠していたわけでなく、確認に時間がかかって報告が遅れたというのが実態です。また、危機の発生が経営陣の耳に入るまでに時間がかかったり、耳に入っても対策本部の設置や記者会見の実施などの決断が先送りされたりする等、初期対応の遅れもクライシス・コミュニケーションの典型的な失敗パターンです。危機対応時は正確性よりもスピード重視。タイミングの遅れは命取りです。

③コンサルタントを活用する

 アメリカ企業のクライシス・コミュニケーションでは、外部の危機管理やコミュニケーションを専門とするコンサルタントを活用することが多いです。日本企業の場合は、元々「自前主義」志向で、アメリカに比べて専門業者が少ないこともあり、自社だけで対応しようとする傾向が強いですが、短期決戦であるクライシス・コミュニケーションでは、知識と経験が豊富な専門のコンサルタントのアドバイスが非常に有効です。

④社内にコーポレート・コミュニケーションの専門家を育成する。

 クライシス・コミュニケーションは、コーポレート・コミュニケーション(企業広報)の一部ですが、アメリカでは、コーポレート・コミュニケーションが1つの専門分野として、職業としても、大学の専攻としても確立しています。経理分野における公認会計士や法務部門における弁護士のように、専門性の高いプロフェッショナルな能力と経験が必要な仕事なのです。日本企業では、まだそういう意識が低いため、営業・人事・総務等出身の専門知識のない社員がコーポレート・コミュニケーションを担当しているケースが多く、コーポレート・コミュニケーションの専門家の育成は不十分と言わざるを得ません。

 日本企業のグローバル化に伴い、危機管理特にクライシス・コミュニケーションはますます重要なテーマになってきました。このコラムがクライシス・コミュニケーションの強化を図りつつある日本企業の方々の参考になれば幸いです。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE

京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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