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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見た  アメリカ

2018.02.05

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」43 『おもてなしとHospitality』

北原 敬之

モニュメント・バレー(Monument Valley)

 先日、久しぶりに、日本在住のアメリカ人ビジネスマンである友人と食事をする機会がありました。彼は、日本での仕事にも慣れ、日本生活をエンジョイしている様子で、家族旅行ではじめて日本の温泉旅館に泊まったことを話してくれました。彼は、旅館の部屋・料理・サービスなどすべてに満足したらしく、「日本のおもてなしは素晴らしい」と感動していました。彼の日本語の上達は速く、「おもてなし」という難しい言葉も覚えたようです。「日本のおもてなしは素晴らしい。」と言われて、筆者も日本人のひとりとしてうれしく思いますが、「おもてなし」は日本だけのものでしょうか? 筆者は、アメリカ駐在時代、アメリカの一流ホテルやレストランに行く機会がありましたが、そこで出会ったホテルマンやシェフやソムリエやウェイターから受けたサービスはどれも素晴らしく、「プロフェッショナルでフレンドリー」な「Hospitality」でした。英語の「Hospitality」は日本語の「おもてなし」に最も近い言葉だと思います。今回のコラムでは「おもてなし」と「Hospitality」について考えてみましょう。

 日本の「おもてなし」とアメリカの「Hospitality」、文化や習慣に基づく形や表現の違いはあるものの、その根底にある「技と心」は下記の3点であり、「おもてなし」「Hospitality」に共通であるように感じます。

① 質の高いサービスを通じて顧客の信頼を得ることを最優先する。

 「おもてなし」「Hospitality」の基本は「信頼」です。顧客から高い信頼を獲得するには、単にサービスが高品質であるだけでなく、「仕事に対する考え方・姿勢」が支持されることが必要です。そのベースとなるのが、「仕事の質にこだわる文化」「常に顧客のことを最優先に考える文化」です。欧米では、ホテルやレストランでサービスを受けると「TIP」を払う(通常は支払額の10~20%)がありますが、TIPの語源が「To Insure Promptness」(迅速さを保証するために)であることからも、「信頼」がいかに重要かを理解できると思います。
 もう1つ大事なことは、「Mission」(使命) で考えるということです。組織には業務分担があり、各個人の「守備範囲」は決まっていますが、顧客のことを最優先に考えるということは、「守備範囲」に関係なく、「顧客のために自分は何をすべきか」が思考や行動の基準になります。つまり、自分の「Mission」(使命)にしたがって判断するということです。「おもてなし」「Hospitality」には「俊敏性」「柔軟性」が求められますが、「俊敏性」「柔軟性」は、システムやルールによってではなく、「高い使命感とプロ意識を持った人材」の「技と心」によって生み出されるものであることを忘れてはいけないと思います。

② 質の高いサービスをするために時間と手間をかけて人を育てる。

 組織の「おもてなし力・Hospitality力」はその組織に属する人材一人ひとりの「おもてなし力・Hospitality力」の集積で、人材育成=「ひとづくり」ができるかどうかで決まると言っても過言ではありません。「ひとづくり」とは、「日常の業務を通じて組織・人材に組織文化を浸透させることによって仕事の質を高めていくプロセス」であり、優れた「おもてなし力・Hospitality力」を持つ組織では、例外なく、高いレベルで戦略的・長期的・徹底的に「ひとづくり」が行われています。組織の文化の中に「ひとづくり」のDNAが世代を超えて受け継がれている組織が「おもてなし力・Hospitality力」の強い組織です。「ひとづくり」の基本は「OJT」(On the Job Training)で、「OJD」(On the Job Development)と「OJL」(On the Job Learning)を足したもので、「上司が部下を育てる・鍛える」と「部下が自ら学ぶ」ことがセットで行われます。「部下に知識を与える」のでなく、「部下に自分で考えさせる」「部下が自分で気付く」ことが重要で、「How」よりも「Why」を重視します。「おもてなし力・Hospitality力」の高い人材は、顧客が発信する情報について、「情報の質や重要性を見分ける感度」「情報のキーポイントを見つける眼力」「情報を組織内で広く展開する発信力」を有していますが、いずれも教えられて身に付くものではなく、「OJD」で鍛えられながら「OJL」によって自ら学んで習得する以外に道はありません。もう1つの重要なファクターは、組織が持つ「学習能力」の高さです。「学習能力」とは、個々のケースや様々な機会を通じて、「自ら学び、学んだ知識・情報を個人だけでなく組織として蓄積し、自らの組織の成長につなげていくプロセス」であり、「学習」を続けていく「組織文化」です。優れた「おもてなし力・Hospitality力」を持つ組織には、この「学習能力」の高い人材が多く、彼らは、ごく自然に、「上司から学ぶ」「市場から学ぶ」「顧客から学ぶ」「失敗から学ぶ」「ベストプラクティスから学ぶ」ことによって、自分達の組織能力を高めています。

③ 質の高い知識・情報による情報発信とコミュニケーション。
 
 「おもてなし力・Hospitality力」の高い人材の特徴は、単に顧客からの情報を待っているのではなく、自ら情報発信することによって顧客の情報を取りに行くことです。彼らは、プロ意識が高く、専門知識の勉強も怠らないので、当然、質の高い情報を持っています。顧客の方も、質の高い情報を発信してくれるプロの人材に対しては質の高いレスポンスを返してくれます。言わば、「情報のキャッチボール」ができるということです。この「情報のキャッチボール」が高いレベルでできる「技と心」を持った組織こそが、顧客のニーズ・ウォンツを的確に掴んだ上で 「俊敏性」「柔軟性」に富んだ思考と行動によって、顧客満足度を高めることができる 「おもてなし力・Hospitality力」の高い組織です。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE

京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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