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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見た  アメリカ

2018.05.21

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」46 『"創る"と"造る"』

北原 敬之

ミルウォーキーの風景

 最近、経済雑誌やインターネットで、「アメリカのEV(電気自動車)メーカーであるテスラが、同社の最新車種であるモデル3の工場で問題が多発して、生産が大幅に遅れ、その影響で株価も大幅に値下がりしている。」というニュースが話題になっています。テスラと言えば、EVや自動運転で高い「技術力・開発力」を持つことで有名なベンチャー企業ですが、「生産」はあまり得意ではないようです。テスラがEVの生産を始めた数年前から、自動車生産の経験のないメーカーが品質の良いEVを作れるのか、心配する声が多く聞かれました。当初は高級車モデルの少量生産だったので、何とかできたようですが、量産モデルに移行した最近は、品質も生産性も大幅に悪化し、心配が現実になってしまいました。「技術」としては完成しても、それが量産工程で安定した品質で生産できなくては、「製品」として完成したとは言えません。筆者は、「ものづくり」には、「創る」(開発・技術)と「造る」(生産・製造)の2つの部分があり、「創る」「造る」の両方が正しい形で行われることが「創造」であり、真の「イノベーション」であると信じています。今回のコラムでは、「創る」「造る」という視点から、アメリカと日本のビジネスについて考えてみましょう。

 アメリカと日本の国民性・企業文化・マネジメントなどを比較してみると、業種などによって違いはありますが、総じて、「創る」についてはアメリカに優位性があるように感じます。理由は下記の通りです。

① トップダウンによるスピーディーな意思決定とリスクテイク
② 挑戦を奨励し失敗を許容する文化・風土
③ 起業を支援するベンチャーキャピタル(投資会社)とエンジェル(個人投資家)の存在
④ 産学連携とオープンイノベーションを可能にするクラスター(産業集積)の存在
⑤ 世界から多様な人材が集まる移民国家アメリカの魅力
⑥ 世界最先端のICT(情報通信技術)による高度な情報インフラ 
⑦ 軍事目的で開発されたハイテク技術の民生移転によるビジネスチャンス
⑧ 技術革新に偏らない斬新な発想によるビジネスモデルの構築
⑨ 豊富な資金・優れた人材・恵まれた研究設備を有する世界トップクラスの理工系大学・大学院の存在
⑩ 産業界・学界・官界の間の人材移動が自由なオープンな風土
⑪ M&A(企業買収)などの大胆な戦略が可能なビジネスライクな経営環境

反対に、「造る」については日本に優位性があるように感じます。理由は下記の通りです。

① 高い生産性・品質とそれを支える勤勉な国民性,穏健な労働組合
② 江戸時代の職人から続く「造り手」をリスペクトする伝統・文化
③ 高い生産技術力とそれを支える生産技術エンジニアの育成
④ レベルの高い資本財メーカー,部品メーカー,素材メーカーによるサプライチェーンの形成
⑤ 目先の利益や業績に左右されない長期的・戦略的な設備投資
⑥ 場力とそれを支える人材育成・ひとづくり文化
⑦「顧客ファースト」「品質優先」「現場尊重」の日本的マネジメント
⑧ 長期雇用を前提とした安定的な雇用形態によるモラールの高い労働者の存在
⑨ 高い品質に支えられた「Made in Japan」のブランド力による安定的な需要
⑩ 優れた産業インフラ(電力・通信・道路・港湾など)の整備・高度化
⑪ 海外における「日本型生産システム」の理解・定着と成功

 「創る」「造る」は「ものづくり」の両輪です。「創る」「造る」の両方を正しく着実に行うことが、ものづくり企業の「ミッション」であり、「成長の糧」です。「創る」「造る」を自社ですべて行うことが理想であり、企業がそのために努力することは当然ですが、現実的には、前述のように、アメリカと日本の間でも、歴史・文化・風土等に起因する優位性に差があり、業種間や企業間でも優位性に差があります。「創る」「造る」を自社ですべて行うことに拘るのではなく、他社とのアライアンスやコラボレーションも選択肢の1つです。例えば、アメリカのアップルは、世界的なIT企業ですが、自社では全く生産していません。研究開発・デザイン・ソフトウェア・アプリ等自社が優位な「創る」の分野に経営資源を集中し、自社が優位性を持たない生産・製造・部品等「造る」の分野ではアジアのEMS(電子製品生産請負会社)への生産委託など、外部経営資源を積極的に活用しています。

 世界の経済も市場も技術も急速に大きく変化しており、アメリカ企業も日本企業も、「創る」「造る」の両面から自社の「ものづくり力」を再点検し、弱点を補強して優位性を確保するための「自己革新」が求められていると思います。「自己革新」のキーワードは「スピード」「戦略」「経営資源」の3つです。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE

京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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