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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見た  アメリカ

2018.08.13

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」48 『たかが英語、されど英語』

北原 敬之

Boston Harbor

 以前に比べると少なくなりましたが、今でも、「自分は英語が下手だから」と言って海外赴任を躊躇する若手ビジネスマンがいます。確かに英語は上手い方が良いし、上手くなるために努力するのは当然ですが、英語が下手なことがそんなに深刻なことでしょうか? 英語を恐れる必要はありません。英語がそれほど上手くなくても海外で活躍されている日本人ビジネスマンはたくさんいらっしゃいます。筆者は、発音も文法も「いい加減」な典型的「日本のおじさん英語」ですが、アメリカで10年以上仕事をしてきましたし、今でも時々英語で講演や講義をしています。今回のコラムでは、「たかが英語、されど英語」と題して、英語に関する筆者の経験と私見をお話ししたいと思います。

① 英語は包丁のようなもの

 筆者は、後輩の若手ビジネスマンや大学の教え子達に「英語は包丁のようなものだ」と言うことがありますが、その意味は3つあります。まず、「包丁は料理するために必要な道具である。」つまり、「英語は仕事をするために必要な道具である。」という意味です。次に、「包丁にも良い悪いがあるが、良い包丁を持っているからといって料理が上手いとは限らない。」つまり、「英語が上手いからといって仕事ができるとは限らない。」ということです。そして、「毎日使っていないと包丁は錆びる。」つまり、「毎日使っていないと英語力は落ちる。」という意味です。

② 「英語力」よりも「仕事力」

 日本人はとにかく英語を大袈裟に考えすぎです。前述したように「英語は道具」です。「英語力」以前に、それぞれの分野でのプロフェッショナルとしての「仕事力」(専門能力・知識・経験等)が重要であって、それらを磨くことが最優先です。日本企業で耳にする「あいつは英語屋だから」という陰口は、「英語は上手いけど仕事は物足りない」という周囲からの「評価」に他なりません。まず、「仕事力」を磨きましょう。「仕事力」が高ければ、英語が多少下手でも、海外赴任先でちゃんと仕事できるし、現地人社員もリスペクトしてくれます。英語が苦手と思っている若いビジネスマンの皆さん、「仕事力」があれば「英語力」は後からついてきます。

③ 完璧な英語を話そうと思わない

 日本人は「完璧な英語を話そうとする意識」が強すぎると思います。理由はわかりません。日本の英語教育のシステムに原因があるのかもしれません。もちろん、「美しい発音」「正しい文法」で英語が話せれば理想的ですが、英語が完璧でなくてもコミュニケーションはできます。筆者はアメリカに12年住んでいましたが、周囲のアメリカ人を見ても、文法やスペルはよく間違えるし、中国系はChinese Englishで、 スコットランド系は Scottish Englishで、テキサス出身者はテキサスなまりで、聞き取りにくい英語を話していて、「美しい発音」「正しい文法」で英語を話しているアメリカ人なんて見たことありません。要は「通じればいい」ということです。英語が苦手だと言っている日本人を見ていると、完璧な英語を話そうという意識が強すぎて、言葉を発するのを躊躇しているように感じます。もっと肩の力を抜いて、「通じればいい」と思えば、もっと楽に英語が使えるようになると思います。英語が上手い下手ではなく、「コミュニケートしようとする意思と姿勢」が大事です。

④ 異文化対応力が重要

 外国人とのコミュニケーションでは、「英語力」に加えて、「異文化対応力」が重要になります。以前のコラムで述べたように、我々が日常使っているのは文化を共有する日本人同士でしか通用しない「日本人語」です。それをそのまま英語に翻訳しても外国人には通じません。「日本人語」を異文化の外国人に理解できるように言い換えた「日本語」に直してから英語に翻訳する必要があります。これが「異文化対応力」です。海外赴任と言うと、「英語力」ばかりが注目されますが、「異文化対応力」も重要であることをご理解ください。

⑤ 英語力をカバーする知恵と工夫

 「英語は道具」と言いながら、我々日本人が海外で英語で仕事する上では苦労もあります。特に、英語での会議やミーティングは、英語力が十分でない日本人ビジネスマンには大きな負担になります。英語で行われる会議やミーティングでの議事やプレゼンテーションを完全に理解し、それに基づいて、メンバー間での合意や意思決定を図るのは簡単ではありません。筆者も、アメリカ駐在時代、アメリカ人の早口となまりに悩まされながら、多くの会議やミーティングに参加しましたが、筆者の英語力では、すべてのやり取りを言葉だけで理解して進めるのは難しかったので、それをビジュアルで補完する方法を考えました。重要なアイテムについては、言葉のやり取りだけでなく、ホワイトボードに表や図で書くことによって、自分の疑問点を伝えたり、相手の発言のポイントを確認したりしました。最近は、ICTが進歩して、ホワイトボードを使わなくても、手元のタブレット端末に手書きしたものをスクリーンに映すことができるようになったので、更に便利になりました。英語に自信がないからと言って発言を躊躇してはいけません。英語力が足りない部分は知恵と工夫でカバーできます。

⑥ 耳から英語を入れる

 筆者がやってみて一番効果があった英語の勉強法は、とにかく「英語を聞く」ことです。毎日繰り返し「英語を耳から入れる」ことで、発音と文法は相変わらずダメですが、ヒアリング力が飛躍的に向上し、英語で仕事する上で困ることはなくなりました。海外赴任を希望する若いビジネスマンや学生の皆さんにおすすめします。
英語で仕事することは大変で苦労も多いですが、やりがいもあります。「逃げない・あせらない・あきらめない」この姿勢を持ち続けることが成功のカギだと思います。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE

京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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