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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見た  アメリカ

2019.01.21

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」52 『人を育てる技術』

北原 敬之

サンディエゴの夜景

 2019年最初のコラムです。今年もよろしくお願いします。2018年を振り返ってみると、いろいろな出来事がありましたが、注目された1つが企業やスポーツ団体におけるパワハラ事件でした。パワハラはもちろんあってはならないことです。上司や監督・コーチによる「いじめ・虐待・暴力」という典型的なパワハラは言語道断ですが、もう1つ、育てる側(上司・監督・コーチ)と育てられる側(部下・選手)の行き違いによる「育てようとする熱意が生み出すパワハラ」については、単純な問題ではないと思います。筆者は、人を育てるには、「育てる心」と「育てる技術」の両方がバランス良く備わっていることが不可欠と考えています。「育てようとする熱意が生み出すパワハラ」とは、このバランスが崩れ、「育てる心」の強さに相応しい「育てる技術」を持っていないことから起きるのではないでしょうか。今回のコラムでは、「人を育てる技術」について考えてみましょう。

日米両方で企業マネジメントに携わった筆者の経験に基づいて、「人を育てる」という面から日本とアメリカを比較してみます。まず、「育てる心」ですが、「定住型農耕民族共生社会文化」の日本では、長い歴史の中で、どんな組織でも、「長老が若手を、上司が部下を、先輩が後輩を、育てるのは当然の義務である。」と考え行動してきました。つまり、日本人にも日本の組織にも「育てる心」がDNAとして刷り込まれているのです。それに対して、「移動型狩猟民族競争社会」のアメリカでは、「個人の能力進展は各個人の自己責任であって、人は育てるのではなく、自らの意欲と努力で育つものである。」という考え方が伝統的に強く、日本のような「組織全体で人を育てる」という文化は希薄です。

次に、「育てる技術」についてはどうでしょうか。日本では、伝統的に、上司や監督・コーチが、自分が育てられた時の経験をベースに、自分で試行錯誤しながら部下・選手を育てる能力を高めていく形が一般的です。良く言えば「現場主義」「手づくり育成」、悪く言えば「各人におまかせ」「丸投げ」です。「育てる心」が大事であって、育てる方法=「育てる技術」はそれぞれが磨けば良いという考え方ですね。濃密な人間関係をベースとする日本の組織文化に合ったやり方ですが、欠点もあります。「育てる技術」が「暗黙知」になってしまい、組織内で共有されないため、育てる側(上司・監督・コーチ)の「育てる技術」のレベルの個人差が大きいということです。言い換えると、高い「育てる技術」を有する組織では、代々その技術が伝承されることにより優秀な人材が育つが、そうでない組織では、高い「育てる技術」に出会うチャンスが少ないということです。
アメリカは、「育てる心」は日本より希薄ですが、「育てる技術」については個人まかせにせず、「形式知」化を進め、「コーチング」という形で体系化しています。育てる側の「育てる技術」のレベルアップと個人差を少なくすることが目的です。「コーチング」の一般的な定義は下記の通りです。

【コーチングの定義】
必要とするスキルや知識の学習能力を高める育成方法論。人間は自己実現に向かって、主体的に、能動的に行動するという人間観に立つコーチングは、「答えは相手の中にある。コーチの役割は答えを相手から引き出し、目標達成の行動を相手に促すこと」が鉄則とされる。このことからコーチングは知識ではなく、あくまでもコミュニケーション・スキルである。米企業では、部下の業績向上の有効な手段として、管理者にコーチングの習得が求められている。

 アメリカでは、企業ではマネージャーに昇進すると、スポーツではコーチに昇格すると、「コーチング」の研修を受けるのが一般的で、「育てる技術」を学ぶ機会として社会に浸透しています。筆者も、アメリカ駐在時代に「コーチング」の本を読んだりセミナーに参加した経験がありますが、コミュニケーションや心理学など「育てる技術」の知識と実践を体系的に学ぶことができ、その後の部下育成やマネジメントに大変参考になったことを覚えています。

 最近、日本でも、教育体系の中に「コーチング」を取り入れる企業やスポーツ団体が増えているようですが、
まだまだ少数派で、日本の組織の多くは、伝統的な「育てる心」を重視し、「育てる技術」については個人の経験をベースとした「暗黙知」に依存しているように感じます。「育てる心」は日本の組織文化の優れた部分であり、大切に守っていくべきと思いますが、日本のグローバル化や国民の意識変化を踏まえると、「育てる技術」を個人に依存するやり方は、そろそろ限界に来ているのではないでしょうか。日本の組織で見られるいわゆる「熱血指導」は、「育てる心」と「育てる技術」が揃っていれば成果が期待できますが、「育てる技術」が不十分なまま「育てる心」だけが独り歩きすると、前述した「育てようとする熱意が生み出すパワハラ」を引き起こすことになります。日本の強みである「育てる心」を活かしつつ、アメリカの強みである「コーチング」などのエッセンスを取り入れて、日本の組織全体の「育てる技術」を高めていくことが、パワハラを防止し、日本の競争力を高めることにつながると思います。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE

京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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