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COLUMN コラム

世界最北の日本レストラン

2020.02.17

【世界最北の日本レストランーフィンランドで苦闘した あるビジネスマンの物語(115)】美し過ぎる山上の国から

長井 一俊

山上のサンマリノ市

 この冬はとうとう積雪を見ずに終わろうとしている。日本では雨が降らない六七月を空梅雨と呼ぶが、雪のない北欧の冬を空雪と呼んでもよいのだろうか? ソリを引いて雪の原野を移動する北方の原住民(イヌイット)はどうしているのか? 等と考えてしまう日々が続いている。

 そんなある日、店の前に旅行鞄を手にした背の高い若者が、入ろうか入るまいかと迷いながら、店の中を覗き込んでいた。積雪は無くとも「冬は店頭に立て看板を出してはいけない」という市の条例に従っているので、よそ者にはどんな料理を出す店か分からない。私は目配せをして、ウエイトレスのサニカにドアを開けさせ、彼を招き入れようとした。

サンマリノ国章

 彼はおどおどしながら、何かをサニカに問いかけていた。たまたまイタリア語を専攻しているサニカは、英語のなまりから察したのか、彼にイタリア語で返事をした。すると、彼は大喜びで入店し、『ルチアーノと申します』と自己紹介をしてカウンター席に座った。

 私はビジネスマンからオーナー・シェフに変身した時、一番の迷いは、海外旅行が出来なくなるのではないか?と言う事だった。私の旅行は名所や都市を見ることではなく、その土地の人と触れ合う事にあった。昼はレストラン、夜はパブを経営する事になったので、一年中ポリから離れられず、店と言う小さな空間に閉じ込められてしまうだろうと、危惧していた。

サンマリノ・コイン

 しかし、レストランを初めてみると、海外の方が私の方にやってくる事が分った。この日の客は、イタリアの北東部にある世界で5番目に小さい「サンマリノ」から来たと言う。行った事も無く、行くだろう事も無い国の人と知り合う事が出来たのだ。

 『サンマリノはどんな国ですか?』と問うと、『大きさは約60キロ平方(十和田湖程)、人口は約3万3千人、言葉はイタリア語、海に面してはいません。イタリア人からは、“山上の国”と呼ばれています』と言う答えが返って来た。

友好の象徴・日本神社

 会話が進むにつれて、この国は世界一古くからの民主主義国家で、世界一古い君主国家である日本とは友好条約が結ばれ、2011年の東日本大地震を期に日本神社も建立されている。

 三権分立も確立しているが、国民の皆がお互いを知っていることから、裁判は中立性を維持する為、第三者のイタリア人の判事によって行われる。

 この国の収入源は、コインと切手の売上、次に観光である。ユーロ貨幣の裏を自由にデザインする権利を国が有していて、この珍しいコインを世界中の収集家が買い、又、美しい山上国の風景や大胆な絵柄の切手も、マニアは争って購入するのである。

 それらは、マニアによって保管され、滅多に使われる事は無い。よって、「国は丸儲け」と揶揄されている。国内の大部分が世界自然遺産であるから、観光収入も大きい。そしてこの国の税金は、17%の法人税だけで、個人の所得税も消費税や酒税すら無い。観光業にはうってつけの国である。

 当然、海外の多くの会社が安い法人税を目当てに、この国に名目上の本社を登記する。よって金融業も栄える仕組みになっている。
 
 寿司と豚カツを食べてもらった後、ルチアーノから沢山の写真を見せてもらった。 まさに美し過ぎる山上の国である。切手やコインが売れる訳だ、と納得した。

 サンマリノが長く独立を続けられたのは、その地形からも明らかであった。敵の動きが全て見渡せるからだ。この国には鉱山資源も農業資源も無い。敵からすれば、多くの犠牲をはらってまで、攻略する価値は無いと思うのだ。難攻不落と言われた、軍神・上杉謙信の春日城と同じようだ。

 よって、サンマリノは軍隊を持たない国だ。万が一の際、16歳から60歳の男子が、国防に動員される義務を負っているだけだ。

 しかし、『良い事だけでは無い』と彼は言う。国民の大部分がカトリック教徒で、よっぽどの理由が無い限り離婚は認められない。結婚したら浮気は出来ない。全国民の目が光っているのだ。離婚するためには、男性が国を離れる以外に術はない。女性は同情され、男性は憎まれてしまうからだ。

 ルチアーノは、『他人の目を気にせず生きられる、フィンランドのような大国に常々来たいと思っていました』と言った。フィンランドを小国と思っていた私には、実に新鮮な意見であった。

 WHOの統計によれば、サンマリノの女性は日本に次いで2位、男性は世界一の長寿国である。社会福祉が充実し、医療水準も高いのだ。平和が続くと女性が圧倒的に強くなる。男は戦時中ぐらいにしか、役にたたない。とくに観光地では、いつも女将が支配者だ。

 話しは現在(2020年1月)のフィンランドにとぶが、34歳の美人代議士・サンナ・マリンが第一党である社会民主党の党首になり、その結果、大統領から首相に任命された。世界で一番若い現役の宰相である。

 日本から届いた新聞に、「女性は子供を産むのが役目だ」と時代錯誤の発言を国会でして、陳謝に追い込まれた男性議員の話が出ていた。フィンランドではすでに、閣僚ポストの半数以上が女性によって占められている。いつかきっと「男性は子種さえ作っていればいい」と言われる時代が来るような、予感がする。

 

長井 一俊

Kazutoshi Nagai

PROFILE

慶応義塾大学法学部政治学科卒。米国留学後、船による半年間世界一周の旅を経験。カデリウス株式会社・ストックホルム本社に勤務。帰国後、企画会社・株式会社JPAを設立し、世界初の商業用ロボット(ミスター・ランダム)、清酒若貴、ノートPC用キャリングケース(ダイナバッグ)等、数々のヒット商品を企画・開発。バブル経済崩壊を機にフィンランドに会社の拠点を移し、電子部品、皮革等の輸出入を行う。趣味の日本料理を生かして、世界最北の寿司店を開業。

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