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COLUMN コラム

世界最北の日本レストラン

2020.07.06

【世界最北の日本レストランーフィンランドで苦闘した あるビジネスマンの物語(120)】写真は絵画より難しかった。

長井 一俊

ケルン大聖堂

 北欧の7月、人々は眠るのを惜しむかのように白夜を楽しむ。長い冬を屋内で耐え忍んだ分、短い夏に思い切り自然を楽しもうとしている。この月の半ばに行われる、恒例の「ポリ・ジャズ」はまさに市民の歓喜の象徴である。それに魅かれて、人口より多い観光客がこの1週間にポリの町にやって来る。

その最終日の午後にカメラを首にぶら下げた若い女性がやってきて、カウンター席に座り、隣の椅子に大きなショルダーバッグを置いた。バッグに収まりきれない長い望遠レンズがのぞいていた。プロのカメラマンである事は明白である。

 私が『貴女はプロのカメラマンですね。どちらからいらっしゃいましたか?』と聞くと、彼女は『私の名はマレーナ。この写真の町から来ました。

スウェーデンのカルマル城

 北欧にはこんな教会は無いでしょう』と言って、ケルン大聖堂の写真をタブレット画面で見せてくれた。ケルンはオーデコロン(ケルンの水)で知名度が高い。

女性のプロカメラマンはデジタル化やミラーレス化以後、急速に増えていると言われているが、私が会うのはこれが初めての機会である。

 私はマレーナに『プロによく成れましたね?』と不躾な質問をしてみた。すると彼女は『たまたま北欧を旅行中に写した城の写真を雑誌社に送ってみると、運よくその内の一枚「カルマル城」が旅の月刊誌の表紙に使われました。

フィンランドのサボニ城

 すると、予想していなかった建築業界からの引き合いを頂きました。男性の映像にはなかった“透明性”とか“カメラ・アングル”が良いと評価してくれました』と答えてくれた。

 マレーナの話を聞いていると、男性は被写体を実物以上に美しく、躍動的にカメラに納めようとしているが、女性はカメラと被写体の間に、期待や理想をおかず、鏡の様にそのままの姿を写そうとしている、と私は感じた。

 彼女は『一昨年より被写体のレパートリーを城や教会から、自然美へとテーマを広げて、北欧に数回来ています。他のヨーロッパ諸国では歴史的建造物を誇り、アメリカでは自然を制圧した人工美を誇っているように見えます。一方北欧は、自然と人の調和を図っているように思えるからです。でも、前回は冬にオーロラを写しに来たのですが、暖冬でオーロラは現れませんでした。今回は北欧の白夜に挑戦しているのですが、夕暮か薄暮の光景と差が出ないのです』と苦労話をしてくれた。私も日本人に白夜の模様を伝える為に、何度も撮影を試みたが、ことごとく失敗した。ある時は、画面の隅に、市長舎の大時計を入れる姑息な手段をとったこともある。  

スウェーデン王宮

 私は子供の頃、絵が好きで、画家になる事を夢見た時期もあった。しかし、才能の無さに気が付いて、二十歳を前に筆を折った。そして、カメラマンならなれるかもしれない?と思って、写真を撮り始めた。カメラやレンズには、かなりの投資もした。ライカから始まり、ハッセルブラッド、コンタックス、キャノンそしてニコンと変えてみた。しかし、数万枚の写真はとったと思うが、一度として満足する写真が撮れたためしがなかった。スマホが登場して、何故かカメラへの興味を失った。

 それだけに、カメラマンに尊敬心を抱いている。マレーナはプロになるきっかけとなった、カルマル城の写真を見せてくれた。この城は、14世紀末に現在の北欧諸国の同盟を決めた歴史的会場になった。日本の西洋史の教科書にも出てくる有名な城である。他のヨーロッパ諸国の城や教会が背の高く、鋭角的であるのに対して、フラットで丸みを帯びている。宗教色が薄く、威圧性も薄い。

 彼女の写真を見て、話しを聞いているうちに、私は「カメラ・アイ」と言う言葉を思い出した。見たものを即座に細部まで記憶する能力である。画家・山下清は旅先で見た風景を、家に戻ってキャンバスに正確に再現した、と言われている。又、映像だけではなく、一度聞いただけで、メロディーを完璧に憶えたり、数百頁の本を一度読んだけで、その文章を暗記してしまう能力を持った人もいる。一説によると、自閉症の人の中にこの能力を持った人が多くいると言われ、医学界ではサヴァン症候群と呼んでいる。

 一方、写真家たちは、この言葉を「被写体を見るだけで、撮影された後の、出力画面を予測する能力」と解釈している人が多いようだ。いずれにせよ、私には縁の無い能力だ。

 思うに人間は、狩りに出て、見つけた獲物の様を仲間に伝達する手段として、絵を描き始めた。物体はすべからく縦・横・高さの3次元から構成されている。それを2次元である平面に移し替える能力を身に着けたのだ。その作業を、さらに正確に、楽に行える道具としてカメラが作られた。

 その後、人は絵画や写真に美や芸術性を挿入して、その道のプロを生み出すに至った。頭の中で描いた像を、自分の指先に伝えて、キャンバスに芸術的な絵を描く事は難しい。一方写真は、シャッターをカシャっと押すだけの作業である。それにも拘わらず、プロの写真と比べると、私の写真はガラクタばかりである。世の中には、私には見えない「何か別の力が働いている」としか思えない。

長井 一俊

Kazutoshi Nagai

PROFILE

慶応義塾大学法学部政治学科卒。米国留学後、船による半年間世界一周の旅を経験。カデリウス株式会社・ストックホルム本社に勤務。帰国後、企画会社・株式会社JPAを設立し、世界初の商業用ロボット(ミスター・ランダム)、清酒若貴、ノートPC用キャリングケース(ダイナバッグ)等、数々のヒット商品を企画・開発。バブル経済崩壊を機にフィンランドに会社の拠点を移し、電子部品、皮革等の輸出入を行う。趣味の日本料理を生かして、世界最北の寿司店を開業。

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