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COLUMN コラム

世界最北の日本レストラン

2017.10.30

【世界最北の日本レストランーフィンランドで苦闘した あるビジネスマンの物語(86)】初冬に終わるサマータイム

長井 一俊

雪を降らす初冬の黒雲

 10月も下旬になると、真っ黒い雲が我がもの顔にポリの上空を駆け巡り、シャーベット状の雪を落として気まぐれに去って行く。

 世界の約3分の1にあたる62ヶ国がサマータイムを導入している。フィンランドでは3月の第2日曜日の午前2時を、1時間早めて午前3時にする時から始まって、10月最終日曜日の早朝4時を3時に戻す事によりサマータイムが終了する。社会生活や経済活動に、影響の少ない日曜の早朝を選んだのだ。

翌朝の道路脇

 ちなみに、戦後マッカーサーの統治下にあった日本でも、1948年から1951年迄の3年間は、5月の第一土曜日から9月の第二土曜日までの約4ヶ月をサマータイムとされていた歴史がある。当時、幼かった私は、サンマ(秋刀魚)は秋に食べるのに、なぜ「サンマタイム」なのか?と不思議に思った。

 昨今、観光業や運輸業に加えて小売業の多くも日曜に営業するようになって、サマータイムが始まる日は、会議や客との打合せに遅刻、列車やバスに乗り遅れ、恋人とのデートが取り止めになる例など、枚挙にいとまが無い。それに対し、サマータイムが終了する朝は、一時間だけ寝坊できるし、間違えても自分が1時間長く待つだけで、他人に迷惑を掛ける事は少ない。
 
仮面で子供達に応対 11月1日は万聖節の祭日であり、その前夜をハローウィンと呼ぶ。子供達が仮装して家々を周り、お菓子をもらい歩く楽しみな日だ。昨今お菓子をあげる側の大人も仮装や仮面をつけての応対(添付写真)が一般化した。数年に1度、ハローウィンがサマータイムの終了した日と重なる事がある。その日、私は珍しい人物と出会い、貴重な知識を得ることになった。

 それは、私がレストランを開業する前、貿易の仕事をしていた時のことだ。日本の得意先の社長をヘルシンキの空港へ出迎えに行った。私は日本人の客を迎える時、夕食をレストランではなく自宅ですることにしている。レストランの食事は忘れられてしまうが、自宅での食事はいつまでも憶えていてくれる。キングサーモンの筒切りステーキと、鹿肉の網焼きにすればきっと喜んでもらえる。問題はこの晩、やってくる子供達への対応だ。前年は日本から取り寄せた天狗の仮面を付けて、子供達を驚かせた。今晩はどうしようか?そんな事を考えていて、サマータイムがこの朝に終わっている事をすっかり忘れていた。国際線は時々予定時間より早く到着することがあるので、到着予定時間の午前10時より1時間の余裕をみて空港に9時に着いた。しかし飛行場の大時計は8時を指していた。

 2時間、何もすることが無くなった。入国ドアが見渡せる二階の喫茶ラウンジでコーヒーを飲むことにした。すぐ隣の小さな円形テーブルにはカメラをもった中年の男性が座っていた。扉が開き入国者が出てくる度に、彼はカメラをその方向に向け、テーブルの上においた数枚の写真と照合していた。

 出迎えるだけなら、カメラは要らない。私の視線を感じた彼は、手を伸ばして私に名刺を差し出した。名前の上に「私立探偵」と印刷されていた。私は海外を旅しながら、調査員、捜査官、諜報員、情報局員などと自称する人達に会ったことがあるが、私立探偵を名乗る人と会ったのは初めてだった。日本ではかつて、取引先の信用調査、応募者の素行調査、結婚相手の身元調査をするのが当たり前の事であった。その後、プライバシーの保護が優先される時代になって、興信所や探偵社の数は激減した。
 
 私は彼に『犯人でも探しているのですか?』と聞いてみた。彼は、『ただの浮気調査ですよ。テレビや映画の様な、刑事事件の依頼などはありません』と答えた。彼は、ある男性から依頼されて、その妻と浮気相手が海外旅行から帰国する場面を撮ろうとしていたのだ。

 フィンランドは離婚大国である。そのほとんどは家庭裁判所に持ち込まれる。後に知ったのだが、日本では当事者同士による協議離婚が9割程と言う。「表沙汰にはしたくない」と思う男性、「条件は何であれ一日も早く別れたい」と思う女性が多いからのようだ。
 
 彼の説明によれば、家裁でもいきなり裁判が開かれるケースは少ない。まず家裁が選んだ調停員が当事者双方の言い分を聞き、妥協点を探る。調停段階では、「原告・被告」とは呼ばず、「申立人と被申立人」、又は条件が金銭に絞られている時は、「債権者・債務者」と呼ばれるようだ。

 家裁に来るのは大半が女性で、大抵の理由は夫の浮気である。妻は夫の行動に不信感をもてば、あの手この手で夫に白状させてしまう。証拠は無くとも夫に自白さえさせていれば、調停や裁判を圧倒的に有利に進められ、親権、住居、慰謝料、そして将来の子供の養育費の支払いを約束させてしまう。
 
 妻が浮気する場合もあるはずだが、夫は証拠を見つけられず、自白させる事も出来ない。そこで、弁護士に相談する人がいるのだ。弁護士が出来る最善の策は、私立探偵に紹介することだ。弁護士は秘守義務を負っているので私立探偵に、依頼された内容を知らせる事はせず、紹介にとどめるのだ。

 探偵は、『今回の依頼人から、“グルメの会のメンバー達と海外旅行に行き、ハローウィンの午前中には帰国すると言って出発した妻が、浮気相手と旅行をしていたに違いないから、証拠写真を撮ってくれ”と頼まれたのです』と言った。証拠写真があれば、夫も調停や裁判を有利に進められるからだ。
 
 昨今の日本に於ける国政選挙で、教育の無償化を公約にする候補者が増えている。しかし無償化が実現すれば、皮肉にも、妻側が請求出来る子供の養育費は、大幅に減額される事になる。しかし一方日本でも、マイナンバー普及に伴い、養育費の支払いから逃れられなくなりつつある。月給から天引きされてしまうからだ。

 現在フィンランドでは、複数回離婚する女性が多いため、離婚率は100%を越えていると言われているが、「日本での離婚率は35%にとどまっている」との統計がある。「教育費の無償化」と「マイナンバーの普及」それに「結婚の高齢化」が、日本人の離婚率に今後どのように影響していくのかを、私は注目している。

長井 一俊

Kazutoshi Nagai

PROFILE

慶応義塾大学法学部政治学科卒。米国留学後、船による半年間世界一周の旅を経験。カデリウス株式会社・ストックホルム本社に勤務。帰国後、企画会社・株式会社JPAを設立し、世界初の商業用ロボット(ミスター・ランダム)、清酒若貴、ノートPC用キャリングケース(ダイナバッグ)等、数々のヒット商品を企画・開発。バブル経済崩壊を機にフィンランドに会社の拠点を移し、電子部品、皮革等の輸出入を行う。趣味の日本料理を生かして、世界最北の寿司店を開業。

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