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COLUMN コラム

世界最北の日本レストラン

2018.02.19

【世界最北の日本レストランーフィンランドで苦闘した あるビジネスマンの物語(90)】ベジタリアンと宗教

長井 一俊

雪に埋もれたオウル広場

 2月下旬はポリの中央を横切るコケマキ河が厚く結氷して、街は一年で最も寒い時期を迎える。しかし、春分の日に向かって日照時間は日々長くなり、街の人の心も少しずつ明るくなる。もう一月もすれば街に人は戻り、レストランにも人が来るようになる。

 しかし、資金繰りが最も厳しい時期でもある。毎年この時期、多くの店が売りに出される。同時に、この時期を待って、安くレストランを買いたたこうと手ぐすねを引いている人達もいる。レストランは「リスクや悩み多きビジネス」と知りながらも、レストランのオーナーになる事を夢見る人は多い。毎年、公立の料理学校から多数の卒業生が輩出されるのだから、当然かも知れない。

オウル大学中央校舎

 北欧でレストランを経営する際の最大のリスクは、食物アレルギーによる事故だ。特に北欧の子供達の大豆アレルギーは重大で、死に至ることもある。日本料理の味付けの基礎は、大豆を原料とする味噌・醤油である。私は「味噌も醤油も醗酵過程で、アレルギー物質は分解される」と勝手に解釈している。それでも、子供連れの客が来ると緊張してしまう。 

 次のリスクは食中毒である。寿司は生もの、その日のうちに食べて貰わねばならない。しかし、それを知る北欧人はどれほど居るのであろうか。土産に寿司折を注文する人には、『今日中に食べて下さいね』と念を入れて注意している。
 
校舎を結ぶ廊下 そして大きな悩みの種は、ベジタリアンである。中高年にベジタリアンは少ないが、若者達の中には沢山いる。ベジタリアンは次の3つに大別される。「肉は食べないが魚は食べる」「肉も魚も食べない」、そしてビーガンと呼ばれる人達は「肉、魚、乳製品、蜂蜜でさえ、動物由来の総てのものを食べない。」彼等に出せる料理は、我が店では野菜の天ぷらしかない。冬場は野菜の価格が高騰して、儲けが出ない。

 どうして若者達がベジタリアンになるのであろうか?と考えている時、トウミネン教授からe-mail が届いた。「オウル大学から、週一で電子工学の講義をして欲しいという要請があった。

冬でも校内移動は自転車

 オウル市には飛行場があるので、往復は楽だ。視察に行こうと思っているが、貴君も一緒に行ってみないか」との文面であった。添付された写真には、オウル大学中央キャンパスのモダンな建物が写っていた。北欧の有名大学のほとんどは、古色蒼然としたレンガ作りの建物だ。

 北極圏は66度23分以北を言うが、オウル市はそのわずか南、北緯65度01分にある。冬は一日中ほとんど太陽が出ない。市制施行は1605年と古く、面積は3114平方キロと東京(奥多摩を含む総面積2188平方キロ)より遥かに大きい。かつては北方の過疎の町の一つであったが、1980年代から教育の振興とハイテク産業の誘致に重点が置かれ、奇蹟と呼ばれる大発展をした。現在人口は20万を越え、今やフィンランドで4番目の都市に発展した。オウル空港はヘルシンキ空港に次いで、国内第二位の飛行機発着数を誇っている。
 
 香港やシンガポール等、一年中軽装で暮らせる暖かい所なら、人口が増大するのは容易に理解できる。マイナス42度を記録したこともある極寒の地に、なぜ沢山の人が引き寄せられるのだろうか? 私はトウミネン教授の誘いに乗り、店を二日閉めて、オウル市を訪ねることにした。

 ポリからの飛行時間は1時間程であったが、窓からは海岸沿いに雪に覆われた森林が延々と見えるばかりであった。この先に街があろうなどとは、とても思えない。SF作家の小松左京が著書の中で「遠い昔、宇宙人が地球にやってきて、上空から所々に人間の好きな香りを蒔いた。そこに人が集まり都市が出来た」と書かれているのを想い出した。

 オウル市内には100を超す教育機関があり、中でもオウル大学では16000人もの学生が勉強している。海外からの留学生も多く、いろいろな言語が飛び交い、活気に満ち溢れていた。若者は若者を追い求めてやってくる。伴侶を見つけて、子孫を残す為の自然の摂理かもしれない。連鎖的に増加する若者人口と、生まれて来る人口、それらを支える各種の産業が大きな地方都市を形成するに到ったのだ。老人の多い過疎地とは全く逆の現象だ。
 
 昼食を摂った大学のキャンティーンでは、沢山の学生が大きなサラダバーとフルーツバーに集まっていた。学生達のプラスチック皿を見ると、ポテトフライと多種の野菜やフルーツが載っていたが、肉料理は見えなかった。何人かの女子学生にその理由を聞いてみた。すると『父母がベジタリアンだから、私も当然・・・』『ボーイフレンドも勿論ベジタリアンよ』『肉食する人と肌を合わるのは嫌』という返事が返ってきた。男子学生に理由を聞いてみると『あこがれの彼女がベジタリアンだと分かったから』との答えが多かった。彼女欲しさにベジタリアンになった男子学生が多いのだ。
 
 思うに、キリスト教徒がアラビア人と結婚すると、その人達の殆どはイスラム教に改宗する。そうしなければ、夫婦は村八分になるからだ。結果として、ベジタリアンとイスラム教徒の人口は無限に増加する様にすら思えてくる。
 
 しかし、現実はそうはいかない。おそらくベジタリアン・カップルの繁殖力は、雑食の一般人に比べて劣っているであろうし、栄養失調による死亡率も高いであろう。イスラムはスンニ派とシーア派に分かれ、又それぞれから派生したアルカイダ、タリバン、ヒズボラ、フーシ等多くの過激グループが各地で内戦を続けている。「異端は異教より憎し」宗派間での戦闘は過酷で、一向に終りが見えてこない。よって、ベジタリアンもイスラムも他から取り込む人口と、中で減少する人口が拮抗し、世界を制覇するには到らない。

 オウルからポリに戻った数日後、店の並びにある電器屋のご夫妻が、英国留学から帰国した息子を連れてきた。息子は『俺はそのへんの生半可なベジタリアンとは違う。イギリスでビーガンになった』と胸を張った。

 私は思わず『君は赤ん坊の時、何を飲んで育ったんだ?母乳か牛乳だろう』と、叱りつけてしまった。彼は私の店に二度と顔を見せることは無かった。
 

長井 一俊

Kazutoshi Nagai

PROFILE

慶応義塾大学法学部政治学科卒。米国留学後、船による半年間世界一周の旅を経験。カデリウス株式会社・ストックホルム本社に勤務。帰国後、企画会社・株式会社JPAを設立し、世界初の商業用ロボット(ミスター・ランダム)、清酒若貴、ノートPC用キャリングケース(ダイナバッグ)等、数々のヒット商品を企画・開発。バブル経済崩壊を機にフィンランドに会社の拠点を移し、電子部品、皮革等の輸出入を行う。趣味の日本料理を生かして、世界最北の寿司店を開業。

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