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COLUMN コラム

世界最北の日本レストラン

2018.04.16

【世界最北の日本レストランーフィンランドで苦闘した あるビジネスマンの物語(92)】日欧の離婚事情

長井 一俊

庭に降った雹

 4月は待ちに待った春が訪れる季節だが、南からの暖気と北極からの寒気がぶつかり、天気が急変する時期でもある。時に自動車のボンネットに傷を付ける程の雹(ヒョウ)や霰(アラレ)が降ることもある。

 その春の嵐の中、大きな旅行鞄を持った日本人の若いカップルが、ずぶ濡れになって私の店に駆け込んで来た。私が『ひどい目に遭いましたね』と話しかけると、カウンター席に座らないうちに男性が、『あなた日本人なんだ!マグロの大トロ、キング・サーモン、イクラとホタテをにぎって』と立て続けに注文してきた。女性の方が『急に元気が出てきたのね!さっき迄、あんなにオロオロしていたのに』と言った。
 
雹の大きさ 私は日本に一時帰国した時、テレビや新聞で知った「成田離婚」という言葉を想い出した。海外旅行が初めての新郎に対して、学生時代から海外旅行慣れしていた新婦が、日本では頼もしかった彼の本性を見て、幻滅してしまうのだ。

 翌冬、オーロラを見に彼女は女友達を連れて、私の店に立ち寄った。『私を憶えていますか?』との彼女の問いに、『もちろんですよ。彼と一緒ではないんですか?』と答えた。すると『あの旅行の後、私達はすぐに別れてしまいました。相性がまるで合わない事を、あの旅行ではっきりと知ったからです。どうせ別れるなら早いうちに・・・』と明け透けに話してくれた。

雹から車を防ぐため

 現代の日本女性が、強い結婚願望を抱いている事は私も知っている。ウエディングドレスを着て、父親とヴァージンロードを歩き、参列者の祝福を受けながら指輪の交換と永遠の愛を誓い合う。そして、その舌の根も乾かぬうちに、成田離婚をしてしまったのでは、神も仏も立つ瀬が無い。

 一方北欧では、小学校から性教育を受け、多くの男女が14歳頃、異性との初体験を持つ。その後、多くの男女がボーイフレンド・ガールフレンドの関係を結ぶ。中には親元から離れて同棲するカップルも居る。いわゆる「事実婚」を若くして経験するのだ。

雹の後の道路整備

 この期間に相手の長所・短所、そして相性の良し悪しを知ったうえで、結婚の可否を決める。よって成田離婚は起こらない。

 日本で最も愛唱される童謡「赤とんぼ」の歌詞(三木露風作)の中に、「・・・15で姐やは嫁に行き・・・」とある。当時は数え年が使われていたから、満14歳で嫁いで行ったことになる。しかしそれは、貧しい農家の「口減らし」や「結納金欲しさ」によるもので、本人の意志ではなかった。

 昨今、日本から届けられる新聞や雑誌に、「定年退職離婚」という言葉を見る。ご主人が年金生活に入ったとたん、妻の方が三行半を夫に突きつけるのだ。どうやら日本男性は、結婚し、種付けが終わると、給料の運び屋になり下がり、退職すると、家庭内の粗大ゴミになってしまうのだ。

 一方フィンランドでは結婚後、夫婦で家事を分担するので、定年になってからも夫のやる事は残り、退職後すぐに離婚とはならない。現役時代の所得とさして変わらぬ年金を得て、海外旅行しながら老後を楽しむ夫婦が多い。
 
 にもかかわらず、北欧の離婚率は日本より遥かに高い。この相矛盾する現象の訳を、レストラン・パブの経営をしてから、私は2つほど見つけた。
 
 お見合いや、合コン、のない北欧では、女性は結婚相手を自力で探さねばならない。「恋すれば結婚出来る」様に、世の中は都合よくは出来ていない。結婚にこぎ着けるには、大量のエネルギーを消費する。もともと狩猟民である北欧人の主婦は、夫が生け捕りにしてきた獲物を頑丈な檻にいれて、逃亡を防いだ。現代も同様にして、首尾よく結婚できると、目に見えない頑丈なバリアーを張りめぐらして、夫に自由行動はさせない。

 例えば、店の取引銀行の支店長は、仕事帰りに私の店で日本酒を飲んで、一日の疲れを癒す。少しでも彼が長居をすると、必ず彼の携帯に奥様から電話が入る。その都度私は、彼から渡された電話で、『カウンターで、一人で飲んでいますよ』と証明してあげなければならない。こんな生活に耐えられなくなり、身ぐるみはがされる覚悟で離婚を選ぶ男性も当然出てくる。

 もう一つ私が見つけた離婚の訳は、男女間の美意識の崩壊にある。思うに、人類が誕生して以来、「か弱き女性を、たくましい男性が守る」が、脳内に育まれた美学である。男女平等を勝ち取って、バリバリと働き、高い役職と賃金を得る女性に対し、「守ってやろう」と思う男性の美意識は自然消滅する。守ってもらう必要のなくなった女性は、いつでも離婚出来る状況にある。ましてや夫が浮気をするとなれば、即離婚に向かってしまう。

 晩年に認知症を患い、徘徊するのは日本でも北欧でも、男性が多い。きっと、慈悲深い女神様が現世の最後に、自由気ままに行動する時間を男性にお与え下さったに違いない。


 
 
 

長井 一俊

Kazutoshi Nagai

PROFILE

慶応義塾大学法学部政治学科卒。米国留学後、船による半年間世界一周の旅を経験。カデリウス株式会社・ストックホルム本社に勤務。帰国後、企画会社・株式会社JPAを設立し、世界初の商業用ロボット(ミスター・ランダム)、清酒若貴、ノートPC用キャリングケース(ダイナバッグ)等、数々のヒット商品を企画・開発。バブル経済崩壊を機にフィンランドに会社の拠点を移し、電子部品、皮革等の輸出入を行う。趣味の日本料理を生かして、世界最北の寿司店を開業。

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