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COLUMN コラム

世界最北の日本レストラン

2018.05.14

【世界最北の日本レストランーフィンランドで苦闘した あるビジネスマンの物語(93)】酒癖イロイロ

長井 一俊

メーデーの中央広場

 5月はメーデーで始まる。北半球の多くの国では夏を、北欧では春を迎える祝いの日だ。宗教色の強い他の祭日と違い、市民中心の祝いの日である。かつては、資本家も労働者も一緒に集う楽しい日であったが、いつの間にか多くの国で、労働者が資本家に対して要望を突きつける日になってしまった。

 北欧では天井の無い累進課税により、労資間の所得の差が少ない。よって、メーデーは今でも本来の春の到来を楽しむ日のままで残されている。

高卒時の白い帽子の参加者達

 フィンランドではこの日を“ヴァップ”と呼び、前夜からお酒を飲みながら大騒ぎする。ヴァップの語源は、「魔女の宴会」だそうだ。それが故か、平素は静かな若者がカラフルなコスチュームを着て、高校の卒業式に使った白い帽子を被って、踊りの輪に参加する。さながら、“ミニ・カーニバル”の雰囲気が醸し出される。

 広場には様々な屋台が軒を並べ、人々は「食べ歩き」「飲み歩き」を楽しみ、子供達は風船で遊びながら、菓子やアイスクリーム売り場に群がる。お行儀の良いフィンランド人も、この日ばかりは無礼講を楽しむ。

風船売りは大繁盛

 私も店のランチタイムが一段落してから、近くにある中央広場に行き、レストランから張り出されたテラスの椅子で、ビールを飲みながら祭りの様子を見物した。しばらくして若い男性が隣の椅子に腰を掛けながら、『先日はご迷惑をかけました』と頭をぺこりと下げた。北欧では珍しい黒ぶちの眼鏡をしていたので、すぐに彼を想い出した。

 彼は数日前、私の店でかなりの量の日本酒を飲みながら、私にジョークを連発したのだ。日本でも飲むと駄洒落が止まらない人がいる。駄洒落は言葉の遊びなので、ユーモアを理解する事は容易だ。

一斉に飛ばされる風船

 一方ジョークは、言葉だけではなく、世情に通じていなければ、面白さが判らない。私は半分程しか理解できなかったが、彼は自ら大笑いするので、わたしも追従して笑ってあげた。

 この日も、ビール量が増えるに従って、結局はジョークを披露し始めた。その中に、日本人には思いつかない妙なジョークがあった。 : あるサラリーマンが精神科医を訪ねて、先生に言った。『私、このごろ変なんです。会社の帰りに駅前のペットショップで亀の餌を買うんです』『結構な事ではないですか。それがどうかしましたか?』『実は私、亀を飼って居ないんです』 という極めて馬鹿馬鹿しい話だが、その後私も時々使わせてもらっている。

 酒の是非は判断が大きく分かれる。日本では「飲み」「打つ」「買う」はダメ男の三大要素とされ、「そういう男に娘は嫁がせない」と言われてきた。しかし不肖私は、「酒が悪いのではない。酒癖が悪い人が悪いのだ」と言わせて頂きたい。ポリの街でレストラン・パブを経営して、改めて判ったのは、酒の種類や飲み方が違っていても、とどのつまり酒癖は五十歩百歩ということだ。怒り出す人、泣き出す人、笑い出す人、歌い出す人・・・・。そして翌朝は何をやったか憶えていない。

 酒には人の悩みを解放し、立ち直らせる力がある。失恋、離別、倒産、失敗、等々により傷ついた心を癒してくれる。そして、人々が集まる会合を大いに盛り上げる。皆の心を融和させてくれるのだ。

 面白い事に、酒を飲むと男女を問わず、服を脱ぎ出す人がいる。日本では、古事記の「岩戸伝説」に、太陽神である天照大御神が岩室に逃げ隠れてしまい、世界は真っ暗になってしまった。困った神々は岩戸の前で宴会を催し、天細女命(アメノウズメ)が裸で踊って宴を盛り立て、天照大御神を岩室から誘い出す事に成功した。爾来、日本では宴会が盛り上がると、裸踊りを披露する人が後を断たない。

 西洋でも、酒は有史以前から存在している。ローマ神話の中に、バッカスは「酒の神」として登場している。酒は男女の緊張を解放し、子孫を残すのに大きな役目を果たしている。酒による深い眠りが、翌日の戦いのエネルギーとなっていた。もし酒がなかったら、人も国も滅亡の一途をたどったに違いない。そこでローマ人はバッカスを「愛の神」であり「戦いの神」としても、祭り上げている。

 さすがに最近はレストランやパブなど、公の場所で裸になる人は見かけられなくなったが、気のおけぬ人達とのホームパーティや湖畔でのサウナパーティでは裸で踊り出す人が沢山いる。日本語では人前で裸になる人を「露出狂」と陰湿な言葉で呼ぶが、英語圏では「エクジビショニスト」と軽めに呼ばれている。公園で裸になったが故に、逮捕されてしまったアイドルの話などは、北欧人には到底理解できない。

 かつて北欧では、太陽光が弱い事から、ビタミンDが不足して、クル病におかされた人が多かった。その予防として、子供達はかなり大きくなるまで、日が出ると裸で庭やベランダに出された。大人に成ってからも服から解放されたい欲望を潜在的にもっているようだ。1970年代のポルノ全盛期にはヌーディスト村が各地に出現し、海浜や湖畔では全裸が珍しくはなかった。

 勿論北欧にも、酒が故に交通事故を起したり、セクハラで出世街道から転落した人もいる。大酒が故に嫁に逃げられた男性も、キッチン・ドランカーになり、家庭崩壊を招いた女性もいる。
 
 かく言う私も若い頃、新聞沙汰になりかねない失敗を犯した事もある。最終バスで帰宅したとき、酔った勢いで土産として、バス停の標識をコンクリートの土台ごと家に持ち帰ってしまった。翌早朝、母が玄関でそれを発見して、ラッシュ時間前に家族皆で元の場所に戻したので、大事にはならなかった。

 一生を棒に振る失敗もしてしまった。たまたま、カウンターの隣りで飲んでいた女性を、口説いてしまったのだ。その人は今頃、東京の私の家で昼寝をむさぼっているに違いない。
 

長井 一俊

Kazutoshi Nagai

PROFILE

慶応義塾大学法学部政治学科卒。米国留学後、船による半年間世界一周の旅を経験。カデリウス株式会社・ストックホルム本社に勤務。帰国後、企画会社・株式会社JPAを設立し、世界初の商業用ロボット(ミスター・ランダム)、清酒若貴、ノートPC用キャリングケース(ダイナバッグ)等、数々のヒット商品を企画・開発。バブル経済崩壊を機にフィンランドに会社の拠点を移し、電子部品、皮革等の輸出入を行う。趣味の日本料理を生かして、世界最北の寿司店を開業。

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