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COLUMN コラム

世界最北の日本レストラン

2018.11.26

【世界最北の日本レストランーフィンランドで苦闘した あるビジネスマンの物語(100)】暗雲たちこめるクリスマス 

長井 一俊

クリスマスの目抜き通り

 クリスマス商戦の開始は、どこの国でも年々早まっている。パイの大きさは同じはずだが「早い者勝ち」と売り手は考えているようだ。11月下旬、所用で首都ヘルシンキを訪れると、街は既にクリスマス・ムード一色であった。

 しかし、外見とは裏腹に街行く人の心には、暗雲が立ちこめたていた。事の始まりを私が知ったのは、2ヶ月前の9月15日(月曜日)夕方の事であった。私の店は定休日であったが、翌一週間分の釣銭を用意するため、銀行に立ち寄った。いつもなら、カウンターには女性行員が並んでいるのだが、この日は男性行員が客の対応に追われていた。順番待ちの客もほとんどが背広姿の男性であった。

裏通りもクリスマス

 異常を感じた私は、顔見知りの行員に支店長への面会を依頼した。普通なら、すぐに支店長室に通されるのだが、この日は30分ほど待たされた。支店長に何があったのかを聞いてみると「数時間前に米国の大手投資銀行が破産し、米国の株価が大暴落した。国際的金融危機(後に日本ではリーマン・ショックと呼ばれた)が起こるかも知れない」と答えてくれた。

 その翌日から、世界中の株式相場と原油価格の暴落が始まり、2ヶ月経った今でも底が見えてこない。日本ではドル安(円高)が進み、輸出産業は大打撃を被り、株式相場は大暴落していた。

 経済の中心である銀行や保険会社の先行きも不安視されていた。

デパートの外壁

 不況知らずの北欧にも、即座に金融危機の不安が広がった。北海の原油価格が暴落して、最富裕国であったノルウェー、輸出大国であるスウェーデン、観光収入の大きいデンマークにも不況の波が押し寄せていた。

 フィンランドでは、稼ぎ頭であった携帯電話メーカーのノキア社が、スマホへの移行に立ち後れて業績が落ち込んだ矢先だけに、人々の心配は深刻なものだった。

 北欧5国中の最小国であるアイスランドでは、とんでもない事が起こっていた。

公園の一角にもクリスマス

 人口30万ほどの、この国の収入源は漁業と観光に限られ、他の北欧諸国と比べると、個人収入は低く、国が提供する福祉も大きく立ち後れていた。

 ところが数年前に、地熱発電という技術が導入されるや、電力コストが世界一低くなった。そこに目をつけたアメリカの大手企業が、電力消費量の大きい、アルミの精錬所をこの国に移設した。これを追う様に多くの海外企業がアイスランドに工場を移した。当然、大量の外資がこの国に流入した。

 国民の収入は突然跳ね上がり、消費は拡大し、物価は急騰した。国はインフレを抑えるため、銀行金利を最高15%まで引き上げた。この目論みは裏目に出て、この高金利を求めて世界中から益々多くの資金が集まってしまった。

 小国であるが故に、そんな大金を国内で消費する事は出来ず、その多くが海外企業の買収に向けられた。その上この国の金融機関は、貯まった外貨を担保に、利回りの良い各種の債券を発行した。中には「侍ファンド」なる名前の債券も売りに出された。高金利と成長率の高さに魅せられた海外の投資家達はこぞってこれらの債券を買いまくった。

 ある試算によれば、この国が保有する外貨準備高はピーク時、世界第四位にまで達したと言う。人口が東京の中野区程である事を鑑みると、まるで幼稚園児がオリンピックに出て、メダルを取った様な奇蹟である。

 建国以来の好景気に酔ったアイスランド人は“近い将来、我々は世界を買い占めるであろう”と舞い上がった。その有頂天の時期に、リーマン・ショックに遭遇してしまったのである。

 各国の金融機関は資金繰りの為、アイスランドに投資した資金を引揚げ、購入した債券を売り払った。瞬く間に外貨は流出し、発行した債券は大暴落してしまった。他方、アイスランドが購入した海外資産の価値も暴落してしまっていた。結局、アイスランドに残されたのは海外からの膨大な借金だけになった。

 国民皆が抱いた国からの高福祉や、高額の年金受給の夢は、泡と消えた。「おごる平家は久しからず」の格言は、地球の裏側までも予言していたのだ。

 私はフィンランドに移リ住んだ時、株、債券、商品相場の全てから手を退いていたので、この金融危機を「対岸の火事」「不況でも食品産業は強い」と、高みの見物を決め込んでいた。

 ところが、私の店に予約されていたクリスマス会、忘年会そして新年会までもが次々にキャンセルされてしまった。女流推理作家のパトリシア・コーンウェルが著した本の一節「幸運は限られた人に、不幸は誰にでも襲いかかる」を思い出さずにはいられなかった。
  
 
 

長井 一俊

Kazutoshi Nagai

PROFILE

慶応義塾大学法学部政治学科卒。米国留学後、船による半年間世界一周の旅を経験。カデリウス株式会社・ストックホルム本社に勤務。帰国後、企画会社・株式会社JPAを設立し、世界初の商業用ロボット(ミスター・ランダム)、清酒若貴、ノートPC用キャリングケース(ダイナバッグ)等、数々のヒット商品を企画・開発。バブル経済崩壊を機にフィンランドに会社の拠点を移し、電子部品、皮革等の輸出入を行う。趣味の日本料理を生かして、世界最北の寿司店を開業。

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