株式会社リンググローバルソリューション

グループサイト

文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大
  • お問い合わせ・資料請求
  • TEL:03-6867-0071
  • JAPANESE
  • ENGLISH

COLUMN コラム

世界最北の日本レストラン

2018.12.25

【世界最北の日本レストランーフィンランドで苦闘した あるビジネスマンの物語(101)】小国と大国の悲喜

長井 一俊

大晦日ポリの花火

 「欧米では、クリスマスを盛大に祝うが、正月はなにもしない」と聞かされてきたが、今では様子が違う。企業の従業員の多くは、12月23日から1月4日までを“冬期休暇”と決め込んで、年末年始を楽しむ。大晦日の夜はどこの町でも、大量の花火を打ち上げて、新年を迎える。一方、日本の都市部では門松を飾ったり、餅つきをする家は、ほとんど見られなくなってしまった。
 
 年の瀬が近づいたある日、見覚えのあるブロンドの背の高い娘が来店した。想い出した。2年前の夏、私が手配した日本への格安旅行に参加し、日光の東照宮で、女学生達からニコール・キッドマンと間違われた娘であった。

正月のポリ市庁舎

 「最初の日本旅行で、お料理や温泉、そして何よりも畳の感触に魅せられて、以来2年余、節約につとめ、2度目の日本への旅に行って参りました」と言って、私がだした湯飲み茶碗を握りしめながら土産話をしてくれた。「暗い12月のフィンランドから、太陽がまぶしい日本に行き、沢山の都市や地方を回った一人旅は、生涯忘れ得ぬ楽しい体験になったと思います。同時にフィンランドが小国である事を思い知らされた旅行でもありました。最初に泊まった日本旅館で、仲居さんから『フィンランドは、ロシアの一部ですよね』とか、民泊先のお年寄りからは、『フィンランドはフィリピンとは違うのですか?』と言われてしまいました」と言って、彼女は少し悲しそうな顔をした。

ポリの初日の出

 「でも逆に、フィンランドは人口が少なくて良かった、と思った事も多々ありました。東京に行った時、友人から薦められて、料理学校の一日体験コースに参加しました。休憩時間に、講習生の多くが、お正月に帰省する為の切符が取れたか否かを話し合っていました。毎年、お正月とお盆の2回、飛行機や列車の切符を買うのが大変苦労する事を知りました。予約席が取れず大阪まで立ちっぱなしで行った人の話も聞きました。フィンランドではラッシュアワーの通勤電車でさえ、坐れなかった事はありません」と言って、さめてしまったお茶を飲み干した。

新春を祝うポリのオーロラ

 確かに小国と大国には、それぞれの悲喜がある。前号で述べたアイスランドは、小国が故にデフォルト(国家破産)を免れた。海外債務がこの国のGDPの5倍を越えたのだが、IMFから迅速に5000億円相当を、残りを近隣諸国やアメリカから貸与された。ギリシャやイタリアのような人口の多い国に対しての貸し出しには、長い時間を掛けての調査、検討が必要となる。経済復興よりも、年金や社会福祉に流用されてしまうと予想されるからだ。国家にとって年金や福祉金を引き下げる事は至難で、強行すれば時の政府は転覆してしまう。
 
 アイスランドの通貨、クローナは一時大暴落したが、幸いにもこの通貨安が、世界一安かった電力価格をさらに引き下げる結果を生み、多くの海外企業から再投資を呼び込む事になった。現在では海外債務を完済し、身の丈にあった国家経営がなされている。

 私もフィンランドに住んで、小国であるが故の悲しさを、いくつも味わっている。出版社に務める友人から、『日本人が見るフィンランド』と言う本を英語で書いてくれたら、フィンランド語には自分が訳す。きっとヒットするだろう、と魅力的な提案があった。日本で大ヒットしたら20万部は売れるかも知れない。しかしこの国の人口は日本の二十分の一である。ヒットしたところで、1万部がせいぜいだ。安全策をとって初版を少なく刷れば、本の価格は当然高くなる。今時、高い本が売れるはずはない。止めた。
 
 しかし、長い歴史を見ると例外も有る。ノルウェーの巨匠、イプセンの著書「人形の家」は多くの国で(日本では森鴎外により)翻訳され、文学史上で燦然と輝いている。ノルウェーの「ソフィーの世界」は2000万部、後にスウェーデンからミレニアム3部作が刊行され、すでに世界で800万部が出版されている。フィンランドの作家トーベ・ヤンソンが描いたムーミンに至っては、本のみならずアニメやグッズそしてテーマ・パークに発展し、いまだに世界中で人気を博している。

 一方、川端、三島、太宰、村上達の作家名は、日本国外でも知名度が高いが、残念ながら欧米の人が知っている作品名は、漫画(例えばアストロ・ボーイ=鉄腕アトム)以外には見当たらない。多少とも知られている作品名は、夏目漱石の ”I am a cat” (我が輩は猫である) だけだ。

 大国か小国かの物差しは、面積や人口では必ずしもない。ブラジルの面積は日本の22倍、インドネシネの人口は世界4位の2億6千万であるが、大国とは呼ばれない。その点日本は、面積は小さくとも、米、英、独、仏と並んでG5に入っていて、大国と評価されている。異国に暮らす私には、大いなる誇りである。

 どうあがいても北欧諸国は人口面で、シンガポールやスイスは面積面で、アフリカや南米諸国は経済面で、大国とは呼ばれない。しかしスポーツや文化のジャンルを冠にして、大国と呼ばれる国もある。例えばブラジルはサッカー大国、首府をウィーンとするオーストリアは音楽大国と呼ばれている。

 フィンランドも福祉大国、教育大国と呼ばれているが、同時に離婚大国でもある。私は常々、福祉や教育の充実と、離婚率の相関性を表わす方程式を造ろうと、馬鹿な事を考えている。
  

長井 一俊

Kazutoshi Nagai

PROFILE

慶応義塾大学法学部政治学科卒。米国留学後、船による半年間世界一周の旅を経験。カデリウス株式会社・ストックホルム本社に勤務。帰国後、企画会社・株式会社JPAを設立し、世界初の商業用ロボット(ミスター・ランダム)、清酒若貴、ノートPC用キャリングケース(ダイナバッグ)等、数々のヒット商品を企画・開発。バブル経済崩壊を機にフィンランドに会社の拠点を移し、電子部品、皮革等の輸出入を行う。趣味の日本料理を生かして、世界最北の寿司店を開業。

このコラムニストの記事一覧に戻る

コラムトップに戻る