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COLUMN コラム

世界最北の日本レストラン

2019.04.15

【世界最北の日本レストランーフィンランドで苦闘した あるビジネスマンの物語(105)】同じサヤの五つのエンドウ豆

長井 一俊

春を迎える柳の小枝

 北欧の春はイースター(復活祭)と共にやって来る。そして今年の春もお客達を店に呼び戻してくれた。長い冬を耐え忍んだ、神様からのご褒美のようだ。

 北欧では、イースターの宗教的意味は薄れ、春の到来を祝う歓びの日である。子供達は大きなバスケットに、飾りを付けた柳の小枝を入れて、近所の家を廻る。交換に飴やお菓子をもらえるのだ。この点はハローウィンと似ている。

 面白い事に、柳の小枝は北欧でも『猫柳』とか『猫じゃらし』と呼ばれている。遠い昔、フィンランドと日本はどこかで繋がっていたようだ。主婦はもらった柳の小枝をテーブルの上に飾り、その隣に可愛い絵が描かれた卵を器に盛る。卵は「復活」を連想させるからだ。

柳の小枝で活け花

 この時期は又、数多くの国際見本市がフィンランド各地で開かれる。「国際」という冠が付けられていても、参加企業は北欧5カ国か、せいぜいヨーロッパ内の企業だ。マーケットが小さいので、アメリカや日本からの参加は希だ。

 私はヘルシンキで開かれる国際食品展を一泊二日で見に行くことにした。初日はざっと見ただけだが、2日目はハンガリーワインの展示コーナーに隣接する、ニシンのビン詰め業者の小間に立ち寄った。小間の前に円形テーブルが並び、その一つに5人の男達がニシンをつまみに、「試飲」と称したワインの飲み会が始まっていた。私が羨ましそうに眺めていると、『東洋からよく来たね!』と言って、私の席を作ってくれた。

卵でイースター

 私は「日本人です」と言うと、ブースの責任者が「私はフィンランド人」と言ってから、指差しながら「スウェーデン、ノルウエー、デンマークそしてアイスランド人」と紹介してくれた。北欧5国の代理店のメンバーが集っていたのだ。
 
 北欧5カ国は自然環境や社会制度が類似していて、国連の発表する「教育」「福祉」「医療」「女性の社会進出」「幸福度」などで、どの国も常時トップテンにランキングされている。そこで他国の人からは、デンマーク人作家、アンデルセンが書いた童話『“同じサヤのエンドウ豆五つ”のようだ』と、皮肉られる。

我家のキッチンの出窓にも春

 しかしEUやユーロ圏への参加に関しては、全く違う態度で望み、異なる道を歩んでいる。そういえば、アンデルセンの五つのエンドウ豆も、それを占うかの様に、別々の場所に飛び出し、別々の生き方をした。

 この日、我々のテーブルでも、話題はもっぱら、EU(ヨーロッパ連合)とユーロ圏(統一通貨ユーロを使用する国々)加盟への功罪に関してであった。酒の上の話ではあるが、それぞれの国民の本音が聞ける貴重な機会となった。

 EUは1958年に6カ国の合意で始まり、以後拡大を続け現在(2019年)は28カ国が加盟している。ユーロ圏とは、EU加盟国の中で、ユーロ貨幣を採用した18ヶ国をさしている。

 EUの目標は、人と物の出入りを自由にして大きな経済圏を作り、アメリカやアジアの経済大国と対抗する事にあった。しかしイギリスを始めとする10カ国は、己が貨幣への誇りを捨てきれず、ユーロ貨幣を採用する事はしなかった。
 
 さて、5つのエンドウ豆達の選択だが、北海油田で潤うノルウエーはどちらへの加盟もことわった。『金持ち喧嘩せず』というところだ。

 小国のアイスランドは四方を海に囲まれた漁業立国である。EUに加盟して漁業の量的制限を受けるのは、「まっぴらご免」である。

 スウエーデンはお付き合いでEUに加盟したものの、永久中立国を盾にユーロへの参加を拒んでいる。

 デンマークのコペンハーゲン空港は、地の利を得て、欧州空路の要である。EUには参加したものの、伝統あるデンマーク・クローネを捨てる事は出来なかった。観光立国でもあるデンマークは、外国人旅行者から『エッ!ユーロが使えないの!』と言われ続けてきた。そこで、国民投票をしたが、僅差でユーロへの移行は実現しなかった。

 さて、フィンランドであるが、ベルリンの壁が崩壊して、ロシア傘下からの脱出の夢が実現し、大喜びでユーロに参加し、その勢いでユーロ貨幣を受け入れた。他の北欧4国からは「いくら一所懸命働いたって、地中海でヨットを浮かべて楽しんでいる南欧の国々を助けるだけだよ」と、揶揄されることが多い。
 
 話は現在(2019)に飛ぶが、イギリスはBREXIT(EU離脱)で国論が2分され、政治も経済も混乱の真っただ中にある。先の国民投票では、移民・難民の流入に反対するEU離脱派が過半数を得た。これもポンド貨幣を維持してユーロ圏には入っていなかったから起こり得た事だ。

 EU本部も、脱退しようとするイギリスに甘い顔は出来ない。簡単に許してしまえば、EUから逃亡者が続出してEUの崩壊に繋がりかねないからだ。

 ユーロ圏に入ると言う事は、ユーロという一つの財布に、国民の全ての財産を預けてしまう事だ。あとから後悔しても、使い慣れてしまったユーロを旧通貨に戻す事など到底考えられない。即ち、ユーロ貨幣はEUから離脱させない為の、頑丈な鎖なのである。かく言う私も、日本に返って、財布の紐を妻に握られてしまって、動こうにも動けないでいる。

長井 一俊

Kazutoshi Nagai

PROFILE

慶応義塾大学法学部政治学科卒。米国留学後、船による半年間世界一周の旅を経験。カデリウス株式会社・ストックホルム本社に勤務。帰国後、企画会社・株式会社JPAを設立し、世界初の商業用ロボット(ミスター・ランダム)、清酒若貴、ノートPC用キャリングケース(ダイナバッグ)等、数々のヒット商品を企画・開発。バブル経済崩壊を機にフィンランドに会社の拠点を移し、電子部品、皮革等の輸出入を行う。趣味の日本料理を生かして、世界最北の寿司店を開業。

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