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COLUMN コラム

ベトナムビジネスで見た景色

2017.10.16

【ベトナムビジネスで見た景色(34)】「現地化」に注意

小川 達大

 ここのところ、日本企業の海外展開の現場では、「現地化」がブームです。「現地化」の進捗状況に関するアンケートは頻繁に行われていますし、その「現地化」を推進するための手法についても様々に紹介されています。現地ミドルマネジャー/シニアマネジャーの育成を目的とした研修もたくさん提供されていますし、管理職人材の採用にも注目が集まっています。

 ところが、この「現地化」というブーム、なかなか悩ましい問題を孕んでいるように思います。

 「現地化」と一言に言っても、様々な「現地化」の議論があるでしょう。製品やサービスを現地の市場に合ったものにカスタマイズすることを「現地化」と呼ぶこともありますし、現地法人における駐在員比率を下げていくこと(=現地社員の比率を上げていくこと)を「現地化」と呼ぶこともあります。あるいは、「調達の現地化」を語るとき、現地サプライヤーから調達する比率を上げていくという議論もあれば、調達先を決定する権限を現地法人が持つようにするという議論もあるでしょう。何をどのようにしていくことを「現地化」と呼ぶのか、正確に定義しなければ、その目的を達成するための施策も適切なものにはならないでしょう。「現地化」というは便利で耳障りの良い言葉ですが、経営上の意思決定をする場面では「現地化」という言葉を使わないようにした方が良さそうです。

 もう1つ別の論点を挙げます。「現地化」では現地法人側の努力に注目が集まりがちですが、むしろ、本社側の覚悟が必要だと思っています。例えば、ベトナム市場に合った製品やサービスを開発するのであれば、本社(=この場合、日本本社)とは違った開発思想を認めなければならないかもしれません。長年の試行錯誤を経て形作られてきた「こうすればヒット商品を生み出せる」という成功の方程式のようなものが、ベトナム市場には通用しないのだということを認めなければならない、ということです。あるいは、調達に関する権限を現地法人に持たせるのであれば、それまで本社が持っていた権限を縮小するということがセットになって意思決定されなければなりません。Aという権限が本社から現地法人に移動する様子を視覚的に想像すると、そのように理解できるはずです。つまり「現地化」とは、本社が自分たちの勝ちパターンや機能・権限を手放すという、自分たちの存在意義を揺るがしかねない(ように見える)決断が前提になるわけです。特に、日本事業で成果を挙げた方々が経営層に多い会社の場合には、この決断は、本能的に避けてしまうもののようです。

 本社が「手放す」という決断をしないまま、現地法人に「現地化」を迫るという事態は、悲劇と言ってもいいでしょう。現地法人が現地社員の研修をしたり、外部から管理職人材を採用したりしても、本社が機能や権限を手放していないのあれば、現地社員がその能力を発揮する場がないということになり、会社を去ってしまうことにもなるでしょう。そうして、「『現地化』に取り組んでも効果がない」というトラウマと、能力と意欲に欠ける現地社員だけが残り、「現地化」は遠のいてしまいます。

図2.JPG

 ベトナムで競争力にある活動をするためには、何らかの形で「現地化」を検討する必要があります。ただし、その対象や程度は、業界や事業戦略や展開ステージによって異なるはずですから、「現地化」の在り方はテーラーメイドの固有解でなければなりません。先進事例と呼ばれるような他社の「現地化」を妄信するようなことなく、ここで議論したような点にも留意いただきながら、「現地化」を検討いただければと思います。


それでは、ヘンガップライ!

小川 達大

Tatsuhiro Ogawa

PROFILE

経営戦略コンサルティング会社Corporate Directions, Inc. (CDI) Asia Business Unit Director。同ベトナム法人General Director、同シンガポール法人Vice Presidentを兼任。 日本国内での日本企業に対する経営コンサルタント経験を経て、東南アジアへ活動の拠点を移す。以降、消費財メーカー、産業材メーカー、サービス事業など様々な業種の東南アジア展開の支援を手掛けている。ASEAN域内戦略立案・実行支援、現地企業とのパートナリング(M&A、JVづくり、PMI等)支援、グローバルマネジメント構築支援など。日本企業のアジア展開支援だけでなく、アジア企業の発展支援にも取り組んでおり、アジアビジネス圏発展への貢献に尽力している。
CDI Asia Business Unit

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