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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心

2019.09.17

【グローバル人事管理の眼と心(47)】報酬水準算定のためのツール(その3)~職務分析の伝統的手法~

定森 幸生

 前回は、職務分析の目的と企業経営にとっての重要性について説明しましたが、今回は職務分析に不可欠な情報を収集する手法について説明します。収集目標となる情報には、「職務や任務(duties)」とそれを達成するために必要な「課業(tasks)とそれを実行するための知識、技能、能力その他の特性=(knowledge, skill, ability and other characteristics: 一般にKSAOと略されます)」が含まれます。

 これらの情報を収集する手法は、その職務を実際に担当している在職者(incumbent)からの「(ある程度主観が入る余地のある)当事者情報」と、その職務内容を経営管理の視点から観察するライン管理者や人事担当部署からの「客観性の高い観察・検証情報」の二つに大別されます。

【在職者からの当事者情報】

 当事者情報を収集するためには、

① 在職者とライン管理者との一対一の個別面談を
② 同一または類似の職務に従事する複数の在職者とライン管理者とのグループ面談
③ 在職者に対する記述式のアンケート調査

などを実施します。

 情報収集の方法が面談の場合もアンケート調査の場合も、大切なことは収集された職務情報の客観性や正確性を検証し確認することです。ライン管理者や人事担当部署が、個々の職務を担う在職者に対して自分の職務内容を説明させる場合、在職者が熱心さの余り、根幹となる職責や任務(duties)だけでなく重要度や頻度の低い枝葉末節の課業(tasks)の説明に無駄な時間とエネルギーを費やす可能性があることは十分考えられます。また、人によっては、少しでも自分の人事評価に有利になることを期待して、職責や任務の実態を必要以上に誇張し信憑性の低い説明をする場合もあるでしょう。

 それでも、現実的で効果的な職務分析を実現するためには、会社が事業戦略に基づいて新しく生み出す職務を除けば、既存の各職務を担う当事者からのインプットは欠かせません。したがって、当事者情報の客観性と正確性を極力高めるための重要な方法論として、面談とアンケートにおける質問の中心は、“○×”や“yes/ no”で答えられる設問(一般に closed-ended questionsと呼ばれます)ではなく、具体的な事実の説明や具体的な例示を求める設問(一般に open-ended questionsと呼ばれます)を重視すべきです。

 確かに、Closed-ended questionsは、当事者にとっては回答しやすい設問ですし、ライン管理職や人事担当部署にとっても集計したり数値化するのが容易であるというメリットはあります。しかし、職務分析の結果は、各職務の重要度(job size)を判断し、報酬額の算定や在籍社員の育成・登用、新規採用のニーズの可否を含めた広範な人事施策に影響を及ぼす重要な経営判断の基礎データとなりますから、正確性はもとより主観と客観の適切なバランスを担保することが大変重要になります。

 また、職務分析の結果は、次回以降に説明する職務評価(job evaluation)や職務記述書(job description)の作成のための重要な情報となりますから、在職者に対する質問は、そのことを念頭において職務評価や職務記述書作成に有効な情報が得られるよう、各職務に共通する重要項目を設定し、定性面と定量面のバランスをあらかじめよく検討して系統立った内容(highly-structured questions)にすることが大切です。

【客観性の高い観察・検証情報】 

 当事者からの情報収集と併せて、個々の職務を担う社員の業務活動を把握し、担当組織の業績責任を負う立場のライン現場の責任者による客観的な観察・検証情報も、職務分析には欠かせません。観察・検証情報の中には、在職者の業務日誌や機械などの運用データや作業測定記録(log data)なども含まれます。職務を客観的な視点で観察することによって、その職務や任務を達成するために在職者に必要な「課業(tasks)とそれを実行するための知識、技能、能力その他の特性(KSAO)」に関する有効な情報を得ることが可能になります。伝統的な職務分析の手法として、着手から完了までの時間が比較的短く、反復する頻度が高い定型的な職責や課業を中心に、客観性の高い観察・検証情報が重視されてきました。

 しかし、グローバルな経営環境の変化に迅速に呼応して、自社の職務内容の妥当性や戦略的優位性を見直す必要性に迫られる企業においては、業種や職務内容によっては、伝統的な職務分析の手法に基づく社内的な整合性や公正性の検証にとどまらず、社外(グローバル)での市場競争力の確保という観点から、関係業界に精通した社外の人事コンサルタントなどを起用して職務観察や検証作業を深掘りする場合もあります。

 次回は、グローバル化の進展やAI技術の急速な革新という経営環境のもとで、高度化し複雑化する職務カテゴリーに対して、伝統的な職務分析手法がどのように変化しているかについて説明します。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE

1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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