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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心

2017.09.04

【グローバル人事管理の眼と心(32)】報酬管理制度の設計とメンテナンス(その1)~経営のメッセージ効果~

定森 幸生

 前回は、コンピテンシー・モデルと報酬管理との関係性に触れましたが、今回から数回に亘り、グローバル人事戦略のもとでの報酬管理制度の在り方についてもう少し深く考えてみます。

 一般に、会社の人事管理の諸制度は、「特定の前提条件」のもとで「特定の対象者(従業員区分)」に「特定の業務目標を達成」させることを期待して設計され適用されるものです。つまり、第10回のコラムで紹介した通り、個々の社員の職務行動が社業の発展に貢献することを期待して、会社が「特定個人」とその集合体としての「特定多数」の社員を対象に、さまざまな時間軸の中で種々の施策を必要に応じて実行するための一連のツールです。
 報酬管理制度もそのツールの一つですが、従業員区分や役職などの条件の違いによってそれぞれの役割は異なるにしても、常にすべての社員が適用対象となるという意味では、他のツールとの比較においても極めて重要なツールです。また、報酬管理制度は、「会社が社員に“何の対価”としてどの程度の金銭を支給するのかという経営のメッセージを全社員に明示する効果があります。そのメッセージ効果によって、会社は社員にどのような職務行動や業績を期待し、組織の内外でどのような存在であって欲しいかという経営の価値観を浸透させることができます。
 人件費という経営資源には限りがありますから、会社はすべての社員の期待に沿う金額の報酬を支払うことはできません。それだけに、報酬の決定プロセスとその手法に対する社員の納得性を高めるために、具体的な報酬要素(compensatory factors)とその算定基準(evaluation criteria)を開示し、報酬に関する会社の経営理念や方針を正しく理解させる必要があります。
 報酬要素には、教育、経験、知識、コンピテンシー、身体的技能要件、メンタル要件、職場の安全管理、人事労務管理、就労環境、業績など、「業種」や「職種」によって項目も多岐にわたりますし、それぞれの報酬要素のウエイトも様々です。俗に「職務給」とか「能力給」とか「年功給」という大雑把なネーミングがありますが、「職務」や「能力」には当然いくつもの報酬要素が含まれていますし、「年功」と言っても単に入社年次、在籍年数、実年齢だけで機械的に報酬金額が決められるとは限りません。
営業職の販売業績に応じた報酬も、純粋に売上高だけを報酬要素とするのであれば、わざわざ社員として雇用して給与以外にも法定福利費負担や雇用者としての様々な法的義務を負わなくても、販売代理店を起用して機械的に販売手数料だけを支払えばよいことになります。社員としての“営業活動の対価”には、売上金額という定量的な評価だけでなく、その企業が経営理念(mission, vision and values)として大切にする定性的な評価が重要な報酬要素として存在するのです。
 「業種」を例にとれば、弁護士事務所や会計士事務所などの高度専門職の組織においては、そもそも公的職業資格が必要ですから、製造業や販売業などに比べて、教育・知識・経験・コンピテンシーにより大きなウエイトが置かれるでしょう。その一方で、弁護士事務所や会計士事務所であっても、公的資格を必要としない組織内の業務管理要員の場合は、担当職務に即して報酬要素とそのウエイトが別に途設定されることになります。
 報酬要素のうち「業績」や「業績貢献度」は、毎年の業績評価の結果に基づいて、「成果給(performance pay, incentive pay)」や「業績ボーナス(performance bonus)」の名目で算定されるのが一般的です。これに対して、社員であること、すなわち従業員区分に応じて算定される「基本給(base pay)」は、業績以外の報酬要素について職務に応じたウエイトによって算定されます。特に、基本給については、社内の報酬管理方針によって大きく左右されますが、同時に、同業種の社員で同一または類似性の高い職責や職務環境の許での仕事(similarly situated positions)に対する社外の労働市場の相場(going wage rates)も勘案する必要があります。
 もちろん、人材をモノとして扱うわけではありませんが、企業経営の観点から見れば、人材(=人的資源:human resources)もその他の重要な経営資源(management resources)のひとつですから、当然その“適正価値”と認識しなければなりません。日本国内においても然りですが、海外拠点の事業所で雇用する人材の適正価値を把握することは、ホスト国市場での公正な報酬管理を実現するための必須要件なのです。
 さらに言えば、ホスト国の労働市場で希少性の高い優秀な人材(critical talent)を他の企業に先駆けてタイムリーに採用(hire)し、継続的に確保(retain)するためには、労働市場における人材価値の going rate を把握したうえで、自社としてそのmarket rate よりどの程度上位のrate を設定して人材確保の際の競争優位性を担保するかの経営判断も重要になります。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE

1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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