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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心

2017.10.30

【グローバル人事管理の眼と心(33)】報酬管理制度の設計とメンテナンス(その2)~経営の基本命題の側面~

定森 幸生

 グローバル市場で事業運営を展開している企業にとって、本国においてもホスト国においても、報酬管理は経営にとって非常に重要な命題です。多くの組織において、人件費はすべての経費の中で最も大きなウエイトを占めるわけですから、その「経費効率」は事業活動の成否に直結します。同じ金額の人件費を負担しても、同業他社との比較で企業業績に大きな差が生じるとすれば、経営としての競争優位性が問われるのは当然です。

 人件費の「経費効率」とは、取りも直さず、会社が期待する職責を立派に果たして期待業績を挙げ続けるコンピテンシー・レベルの高い人材(critical talent) を、出来るだけ少ない金額で確保し持続的に活躍させる企業体制によって高めることができるものです。人的資源に限らず、すべての経営資源について当てはまることですが、「より少ない資源の投入でより多くの成果を実現する=more for less」がグローバル経営の競争優位性を高めるうえでは極めて重要です。

 特に、ホスト国での労働市場で critical talent を確実に採用するためには、表面的な職種(job)や職務呼称(job title)に対応する市場相場(going wage rates)だけに目を奪われないよう気を付ける必要があります。人材確保(=人的資源の調達)のコスト、すなわち採用する人材の報酬レベルの判断においては、常に具体的な職務内容とその職務での習熟度(コンピテンシー・レベル=成功確率の高さ)を慎重に判断することが大切です。なぜなら、職務(job)とは、類似の仕事に従事している個々人の職位(position)を便宜的にひと括りにしたもの(a group of positions)で、漠然とした分析対象でしかないからです。

 また、職位とは個々の組織の中で一人ひとりが果たすべき「課業・職責」の集まり(a set of tasks and duties)のことで、個々の会社の中には社員の数だけ position が存在します。労働市場の求職者(候補者)が職務経歴書で表記する職務や職位の呼称は、その人がこれまで勤務してきた様々な企業固有の職務定義に基づくものですから、採用する側が本当にその内容を詳細に把握して選考することは極めて困難です。

 さらに、日本の労働市場の実情と各ホスト国の労働市場の実情とでは、その成熟度や多様性に違いがあります。その違いによって、日本企業がホスト国の労働市場で選考・採用しようとする個々の人材について、教育(学業および職業訓練)の水準、顕著な業績経験をもつ職務領域、業界・商品・サービスに関する知識、コンピテンシー・レベルなどの人的属性に関する有用性の高い情報の入手が困難になる場合が少なくありません。

 このような状況の許で、特定の職務に対する市場の相場を鵜呑みにした採用をするということは、人的資源としての人材コスト(=賃金水準)の妥当性、合理性を担保することはできません。厳しい言い方をすれば、報酬の水準の高さに比べて、会社が期待する職責を立派に果たして期待業績を挙げ続けるコンピテンシーを十分に持ち合わせていない(=業績達成確率の低い)求職者を採用してしまうリスクが大きくなると認識しなければなりません。

 また、人件費の「経費効率」についてもう一つ重要なことは、社員に現金で直接支給する給与やボーナスだけでなく、人件費全体の20%~30%、ホスト国によってはそれ以上のウエイトを占める福利厚生費(法定福利費およ法定外福利費)の柔軟で戦略的な管理が重要です。法定福利費の大半は、年金や健康保険などの社会保障費が中心ですから、会社の経営判断でコントロールすることはできません。しかし、法定外福利費は、会社方針に基づいて社員のモチベーションに直接間接に影響を与えるものですから、支出の対象や方法についても more for less の観点で制度設計をすることが必要です。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE

1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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