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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心

2018.01.29

【グローバル人事管理の眼と心(35)】報酬管理制度の設計とメンテナンス(その4)~「社内的公正」と「社外的公正」の視点~

定森 幸生

 会社が社員に対する報酬水準を決める際に大切なことは、会社が決めた報酬水準について、社員が「公正(equitable, fair)」であると受け止めるだけの納得性を確保することです。報酬水準の公正さには、「社内的公正(internal equity)」と「社外的公正(external equity)」のパラメーターがあります。

①「社内的公正(internal equity)」

 社員は、会社が決めた自分に対する報酬水準が公正であるか否かの絶対的な判断基準を持たないため、自分と同じような仕事をする他の社員の報酬水準との相対比較で判断することになります。その際、仕事を通じて自分が会社に提供した知識や技能、努力や工夫、時間などの「input」と引き換えに、会社が自分に提供した金銭報酬(諸手当の加算、福利厚生給付、業績ボーナスなどのインセンティブを含む)や社有車や社宅などの非貨幣報酬といった「output」の比率を比較の拠り所にすることになります。金銭報酬は、管理職か非管理職かを問わず最も重要な報酬要素であることは疑う余地がありませんが、海外拠点が存在するホスト国の社会通念によっては、上級管理職対する社有車や社宅の供与などは社会的ステイタスを示すものとして、その対象となった社員にとっては大いに満足できるoutputとして受け止められます。これらを含めて、社員は「社内的公正(internal equity)」を判断します。

 社員の中には、自分と同じような仕事をする他社の友人などの貨幣・非貨幣報酬水準と比較する場合もあります。もともと会社が違うので比較すること自体あまり合理性はないのですが、それでも他社の報酬事例と比較しようとする理由のひとつは、自分の会社の報酬制度の実態が「公正」ではないことに対する不信感が考えられます。したがって、会社としては、報酬管理についての「社内的公正(internal equity)」に常には気を配り、経営戦略や様々な事業目標の変化に応じて必要な検証を機動的に行い、報酬水準の「社内的公正」を社員に理解させ納得させる説明が必要になります。

②「社外的公正(external equity)」

 会社が、報酬水準について「社外的公正」を検証する際の判断基準は、それぞれの労働市場で、様々な「職務(job)」毎に算定された賃金相場(going wage rates)です。市場相場ですから、理論上は需給関係で決まります。すなわち、個々の職務について、その職を魅力的だと感じて就労したいと希望する人(=需要)が、会社が提供する職務の数より多い場合は、相対的に賃金相場(報酬水準)は低くなります。その逆に、会社が必要とする職務について、市場での求職者が魅力を感じないか難度が高く就労希望者が少ない場合は、賃金相場は相対的に高くなります。

 現実には、さらに複雑な要素が絡んできますから、会社が自社の個々の職務にその時々の賃金相場を機械的に当てはめる訳にはいきません。労働市場の求職者が市場の賃金相場だけで個々の職務に就くことを希望するとは限りません。日本企業の海外拠点での職務について言えば、賃金相場以外に、会社の所在地、オフィスビルや工場施設が魅力的であるか、職場環境や業務管理体制(日本から派遣された管理者とホスト国採用の管理者・一般社員との協働の実態など)が、自国企業や他の外資系企業と比べて魅力的であるか否かという点などは、多くの求職者にとって無視できない関心事となります。

 さらに、人事制度(社員の格付や等級など)を含む会社の組織運営全般の歴史的な変遷によって、その会社の中での特定の職務の重要度(報酬水準)が影響を受けることもあります。労働組合の有無も会社の報酬水準の判断に影響を与えます。職務のカテゴリーが同じ「マーケティング担当」であっても、業界参入が比較的最近で、自社製品の市場シェアの確保が経営の優先命題である会社では、マーケティング関連職務に対する報酬水準は、市場の賃金相場より高くなる傾向があります。一方、市場でのブランド認知度が確立して堅調な売り上げを実現している会社では、市場の賃金相場と同等か、場合によっては若干低めであっても、それ以外の諸施策によって優秀な人材を確保することは十分可能になります。

 しかし、何れにしても、会社の社員は結局は労働市場で雇用するものですから、市場の賃金相場から大きく乖離した報酬水準では、健全で持続性のある企業経営はできません。相場を大幅に下回れば優秀な人材を確保することは困難ですし、相場を大幅に上回れば、人件費の超過負担分を製品やサービス価格に転嫁できなければ、販売市場での競争優位性が失われることになります。その意味では、人事管理制度の中でも報酬管理においては、社内の論理だけでなく常に客観的な労働市場の実情把握を怠らないことが大切です。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE

1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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