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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心

2018.06.04

【グローバル人事管理の眼と心(37)】報酬管理制度の設計とメンテナンス(その6)~「業績」と「社員区分」の視点~

定森 幸生

 今回は、第36回で説明した「固定給(fixed pay)」と「変動給(variable pay)」を企業が導入する場合の背景を、「業績」と「社員区分」の実務面の視点から考えてみます。固定給でも変動給でも、具体的な報酬要素(compensatory factors)とその算定基準(evaluation criteria)に基づいて適用されます。

 固定給は、その社員に対する会社の報酬要素(compensatory factors)が固定していることが前提となります。例えば、フルタイム(週35時間とか40時間)の正社員という「社員区分」で雇用された社員には、その時点での格付けに応じた所定の固定給が支給されます。その後の昇給 (salary progression)は、その社員区分の上位に格付(昇進)されることが条件となります。社員区分の中での報酬格付け(membership contingent compensation)の方法は、次回で解説する「職務(職責)」の大きさに基づくもののほか、会社が重視する職務能力の種類と程度、経験年数など、会社の方針や企業文化(企業風土)によって決められます。何れにしても、今の格付けのままであれば、仕事ぶりが良い悪いという理由で昇給や減給することは基本的にありません。

 それに対して、変動給は、今の格付けのままであっても、担当業務での仕事ぶりや具体的な成果などの「業績」を報酬要素として報酬金額に反映させる算定方法 (performance contingent compensation またはpay for performance) です。変動給の算定基準に使われる報酬要素は、定量的要素と定性的要素に大別されます。

 変動給算定の定量的要素の例として、営業職に適用される販売実績や、生産現場で適用される生産された製品の個数(単位)などが伝統的に挙げられます。このような報酬の算定方法は一般に出来高払い制度(piece rate plan または piecework system)と呼ばれてきました。それ自体は、一見客観的で公正な報酬要素ですが、現実問題として、社員本人の意志や努力によってコントロールできない制約(例えば、販売製品の在庫不足や生産ラインの機械的な故障、さらには製品の不具合による顧客対応など)によって、彼らの「業績」が左右される可能性があり、必ずしも「公正さ」が担保される訳ではありません。したがって、「業績」を主たる報酬要素とする制度を公正に運用するためには、対象となる社員が自身の業務目標達成の条件を自分の裁量でコントロールできる業務であることを十分確かめる必要があります。

 さらに、これまでの多くの事例に基づく経験則からすると、piecework systemは社員に過度の長時間低賃金労働を強いる結果を招きやすいという欠陥があります。その原因には、会社が一定のアウトプットを達成させたい場合と、社員の方が残業してでも収入を増やしたいという経済的欲求による場合とが考えらえますが、何れにしても、持続性のある健全な報酬制度という観点からが慎重な制度設計が必要です。

 変動給算定の定性的要素として挙げられるものは、現実的で実行可能性が高い経費節減や仕事の合理化の提案に対する報奨金(award)、シフト業務などで信頼度の高い出勤実績に対するボーナス(attendance bonus)、業績評価などの人事評価の結果に基づく成果給(merit pay)です。

 第36回で説明した通り、一般的な傾向として、会社の組織が大きいほど変動給より固定給の割合が多くなります。数千、数万人の社員について、会社業績に対する個人の貢献度を定性評価で適正かつ公正に判定することが決して容易ではないからです。しかし、大企業であっても、革新経営の代名詞として頻繁に紹介される3M社のように、持続する製品開発の革新(innovation)を社是として、社員の創造性や革新性を重要な報酬要素と位置づける例もあります。

 そのような企業では、社員の革新的な製品開発努力に対して、短期的な報酬管理の技術論に止まらず、事業年度を跨いだ中長期の試行錯誤の開発時間を与えたり、必要な会社のリソースを投入したりして、全社を挙げて社員の創造性や革新性をサポートする企業風土の醸成を経営の中核理念とする例が見られます。その経営理念を体現するために、会社業績にとって大きなインパクトを及ぼす製品開発に成功した場合には、思い切った特別ボーナスを支給するほか、顕著な昇進やさらなる革新を促す高度な新任務に就けるなどの、機動的な人材管理制度の設計が必要になります。

 第7回 成果を挙げ続ける人材集団を構築する条件(その2)で説明したように、「成果に対する報酬として、単発の多額の金銭的インセンティヴよりも、さらに難易度の高い仕事を与えることを優先する人事施策」のほうが、会社にとって貢献度の高い人材に長期的に活躍してもらうためには、戦略的に遥かに有効なのです。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE

1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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