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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心

2018.12.17

【グローバル人事管理の眼と心(41)】報酬管理制度の設計とメンテナンス(その10)~「金銭報酬」か「非金銭報酬」の考察~

定森 幸生

 企業の報酬戦略において、「金銭報酬(monetary rewards)」と「非金銭報酬(nonmonetary rewards)」の特徴や期待される役割、両者をどのようなバランスで社員の報酬総額(total compensation)を決めるべきかについての議論は、その企業の規模や業種の違いはもちろん、その時々の労働市場の動向によっても左右されます。その意味では、報酬戦略上最も基本的なこの命題は、それぞれの企業の中長期的な経営戦略や企業風土との整合性を確認しながら判断することが大切です。
 金銭報酬とは、基本給(base pay)、業績給(performance pay)、能力給(merit pay)、報奨金(financial incentive)、賞与(bonus)など、毎年現金で支払われる報酬項目や、将来一定の条件のもとで現金に変換できるストック・オプション(stock option)や退職金(retirement benefits)などの項目のことを言います。現金の代わりに、社宅や社有車など経済的な価値のある財産が無償で提供される場合も、広義の金銭報酬と解釈されます。このような報酬は、現物所得(income in-kind)とか現物給付(in-kind benefits)と呼ばれ、多くの国では税務上、個人の金銭所得と見なされます。そのため、経済的価値の大きな社宅や社有車を会社が個人に提供する場合、その経済価値全体が個人の所得と見なされないよう、税法で定められた最低限の家賃や使用料を会社が個人から徴収するのが一般的です。
 これに対して、非金銭報酬とは、「興味を搔きたてられる仕事」「困難だが遣り甲斐や達成感を感じる仕事」「社内外から高い認知や評判や感謝を受けられる仕事」などのように、それ自体は短期的な経済価値や金銭的評価とは結びつかないけれども、その社員にとっては金銭報酬とは別次元の満足感(job satisfaction)が感じられる仕事のような無形の利益(成長)機会のことを意味します。一般に、仕事を通じて自分の職務能力を伸ばし、様々な経験を重ね、その結果将来さらに高い金銭報酬を得たり、仕事に対する満足度を高めたいという意欲のある社員は、金銭報酬の水準がある程度満たされると非金銭報酬への関心が高まる傾向があります。

 非金銭報酬については、従来から多くの学術調査や人事コンサルティング会社などのアンケート調査(questionnaire survey)などが実施されています。その調査結果の多くは、金銭報酬より非金銭報酬を重視する社員の割合が大きいとされていますが、額面通りに受け止めてよいかどうかは慎重に判断すべきです。なぜなら、ほとんどのアンケート調査に共通する問題ですが、具体的な質問の仕方(集計の利便性を優先した単純な二択や三択の質問、回答を大きく左右する前提条件を付けた質問など)によって、回答が簡単に変わり得るからです。回答者が現在の金銭報酬に満足しているか否かによって、非金銭報酬に対する関心の度合いも変わります。また、回答者がそのアンケート調査を実施する組織をどのように認知し評価しているかによっても、どれだけ真剣かつ率直に回答するかが影響を受けます。向上心や上昇志向が強い回答者の中には、金銭報酬より非金銭報酬を高く評価するほうが、プロとしては好ましく、そうあるべきだという建前で回答するかも知れません。

 企業の報酬戦略において金銭報酬が果たす最も重要な役割は、言うまでもなく、基本給を中心に経済面で社員の生活を支えることです。それ以外の重要な役割は、会社が社員に期待する業績の高さや職務行動の内容、会社の経営理念(特に価値観に基づいた行動指針)の遵守の必要性などを、業績給、能力給、報奨金、賞与などをツールとして、ある程度定量的に説明することにあります。したがって、金銭報酬の項目の種類とそれぞれの定量的なウエイト付けを決める場合、その企業の業種特性、経営理念(価値観)、事業目標の実現に必要な職務行動の優先度などを反映させることが大切です。

 一方、非金銭報酬が果たす重要な役割は、当面の職務を遂行し業績目標を達成する努力に報いることに止まらず、将来の経営環境の変化やそれに伴う事業目標の変化に即応できるように、日頃から多様な職務に関する社員の職務能力の幅を広げ、雇用適格性(employability)を高める努力を奨励することです。金銭報酬とは異なり、「社員に対する無形の利益(成長)機会の提供」のように、定量化できない非金銭報酬については、対象となる社員の職種・職責(例えば、技術専門職、海外派遣要員など)や具体的な職務への任用・登用の時期などを、会社の中長期的な事業計画に沿って可能な限り柔軟に設定する必要があります。それによって、会社への中長期的な貢献に関するモチベーションやコミットメントの高い社員に、将来の活躍の方向性を自発的に考えさせることができます。

 金銭報酬と非金銭報酬のバランスを考慮する際の参考として、それぞれの報酬をより重視する企業の一般的な傾向を挙げておきます。

【金銭報酬を重視する企業の傾向】

・社員の業績目標の達成や職責の強化を重視し、社員間の競争関係を助長する。 
・変動の激しい市場動向に呼応して、比較的短期の販売戦略に基づいて取りあえずの売上を重視する。
・雇用状況が比較的不安定な経営環境下に置かれている。

【非金銭報酬を重視する企業の傾向】
・社員の短期的な業績目標の達成に止まらず、中長期的な会社への貢献度の向上を督励する。
・短期的、単発的な売上増加より、顧客ニーズに寄り添って長期的に安定した顧客基盤の構築努力を奨励する企業風土を重視する。
・雇用状況が比較的安定した経営環境下に置かれており、社員間の競争関係より協調・協働関係を重視する。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE

1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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