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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心

2019.05.27

【グローバル人事管理の眼と心(45)】報酬水準算定のためのツール(その1)~「職務(仕事)」と「能力(人的資質)」は一体不可分~

定森 幸生

 今回から数回に亘り、報酬管理制度を設計する際に最も基本的な要素となる報酬額を算定する代表的なツールについて説明します。

 営業部門や生産部門、あるいは人事担当以外の管理部門の方にとっては、自身の担当分野とは関連性の希薄な話題のように感じられる個所があるかも知れません。しかし、様々なホスト国でグローバル・ビジネスを展開するライン管理者にとっては、これからの時代、企業の報酬水準算定の仕組みに関する理解を深め、人事担当部署と協力して自社の事業経営に必須の人材を確保し、その人材を中長期的に登用・育成することは、各ライン固有の業績向上のためにますます大切になってきます。会社全体の経営効率と市場での競争優位性の観点からも、この話題についての的確な「眼(insights)と心(mindset)」は欠かせません。

 また、ホスト国によっては、高校や大学の基礎科目のなかで、労働者の権利(企業の義務)を含めた人事労務の基本的な知識を習得させる例が多く見受けられることも認識する必要があります。ライン管理者として、会社の報酬管理制度に関して、ライン現場の業績計画やその他の人事関連諸施策との関連性を、同僚や部下に周知させることは、自らの管理者能力を示すためにも大切なことです。

 過去何十年もの間、世界の企業は、業種の違いに関係なく、様々な職務に従事する社員に対する報酬額を算定する場合、

① 誰(どのような業務を担う社員)にいくら払うべきか?
② 同種の職務に従事する他の社員間での公正さ(individual equity within-pay-range)は保たれるか?
③ その職務に対する報酬金額の決め方は、その職務との関係において社内的公正(internal equity)に合致しているか?
④ 上記①②③について、特定の職務に従事する社員とその人的属性(人種、性別、宗教、身体的障碍など)に、不合理な偏りや法的リスクは存在しないか?
⑤ 労働市場の実情に照らして、自社の報酬水準は社外的公正(external equity)を満たしているか?
⑥ 自社が求める優秀人材(適任者)にとって、その報酬水準は魅力を感じられるレベルか?
⑦ 経営の観点からみて、全社経費に占める総人件費の割合が抑制的に管理可能か?

などの観点から、試行錯誤しながら様々な制度を設計し、運用し、会社ニーズや法的ニーズに即して改善すべき問題点に適切に対応し、制度改訂や運用方針の見直しを繰り返してきました。

 その過程では、企業を取り巻くミクロ・マクロの経済状況、技術革新、産業構造の変化を反映した労働市場の動向など、経営環境の変化への機動的な対応が迫られる局面が数多くありました。そのため、報酬制度設計に関する技術的な作業については、社内の給与・福利厚生(compensation and benefits)施策の専門部署だけでなく、社外の報酬制度専門のコンサルタントや労働法や税法の弁護士の叡智にも多くを委ねてきました。
 
 その結果から見えてきたことは、基本給(base pay)以外で報酬体系を構成する支給項目、すなわち、業績給(performance pay)、能力給(merit pay)、報奨金(financial incentive)、賞与(bonus)などに関して、体系上の位置づけやその割合などに関して、国や業界によって外形的な違いが見られるにしても、大局的に見れば、報酬額算定の根拠は「職務(業務の内容・特性、成果責任など)」と「技能(ハードスキルとソフトスキルを含む発揮能力と潜在能力など)」に収斂されることが、今日では世界共通の基本認識になっています。

 つまり、仕事で求められる要件を詳細に分析・定義・認識したうえで、その仕事で期待通り、あるいはそれ以上の成果を挙げるために発揮すべき技術や能力を分析・定義・認識することが、合理的で現実的な報酬額を決めるための必須条件であるということです。

 日本企業の報酬管理実務の現場では、「職務給」か「能力給」かの二者択一に焦点をあてた議論に、今も多くの時間が費やされる例が少なくありません。中には、「職務給」は欧米的文化の影響、「能力給」は日本的文化の影響に起因しているというような対立概念が、メディアなどの論調にも見られます。しかし、グローバル・ビジネスの現場では、両者は常に一体不可分の報酬要素(compensable factor)であり、実際の報酬額決定の際には職務毎に両者の相対的な重要度の割合が考慮されるだけのことです。

 次回は、報酬額を算定するプロセスの出発点として、職務分析(job analysis)について説明します。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE

1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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