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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心

2019.07.01

【グローバル人事管理の眼と心(46)】報酬水準算定のためのツール(その2)~職務分析の本来の目的~

定森 幸生

 職務分析(job analysis)とは、社員一人ひとりの職務について、

・日常的にどのような仕事(業務活動)を行っているのか?
・何をどこまで任されていて何にどの程度の責任を負っているのか?
・その仕事によって会社の事業活動にどのように貢献しているのか?
・その仕事を担う個人にはどのような資格・技能・資質・適性が必要なのか?
・その仕事が効果的に行われるためにはどのような職場環境や社内外のリソースが求められるのか?

などを、客観的に見極める検証作業のことです。それは、企業が社員の人事管理に必要な制度(human resources policy)を設計する際に必要な経営判断の根拠となる様々な情報を得るための最も基本的なツールです。

 日本企業の中には、「人事制度」イコール「給与(報酬)制度」と狭く捉えられている場合が少なくありません。そのような企業では、職務分析とは、職務給導入のため個々の職務を構成する要素を洗い出して、各要素について「社内での相対的な金銭価値」を算定して「職務給の金額」を決める報酬管理のためだけのツールと誤解されがちです。また、職務分析に関する様々な説明資料の中にも、「職務分析」イコール「職務給設計のツール」と狭く捉えているものが多くみられます。

 しかし、グローバル企業の多くが、多くのリソース(時間、社員の労力、社外の専門家による調査・分析作業や助言、それらに関わる金銭コストなど)を費やしてまで職務分析を実施する理由は、人事制度全体のなかでの職務分析の戦略的な位置づけが、単に報酬制度をサポートするだけのツールではないからです。実際、優秀な人材を安定的かつ機動的に確保して、競争優位性の高い基幹業務や強固なサポート業務で活躍させ、経営基盤の安定性と社内全体の求心力を高めている企業は、職務分析を様々な経営施策を推進する目的で戦略的に活用しています。

 これから数回に亘り、報酬管理(特に水準算定)という特定の目的で職務分析をどのように活用するかの具体的な説明をするわけですが、その前に、今回は職務分析が、報酬管理以外の人事管理諸施策の設計や運用の局面で積極的に活用されている代表的な例を参考までにいくつか列挙しておきます。

① 職務ごとに設定された毎期の業績目的に即した業績管理
② 職務を担当する社員の資格・技能・資質・適性などの人事評価
③ 事業目的・戦略に沿った組織体制の見直し・再編
④ 全社的な人員配置計画の策定
⑤ 事業目的・戦略に基づく在籍社員の能力開発、登用、必須人材の新規採用
⑥ 基幹業務に関する後継者育成計画
⑦ 職場環境の健康・衛生管理、安全対策の実効性の検証
⑧ 組合問題を含めた社内外の労務問題への対応策の策定・運用
⑨ 雇用差別全般に関する法的コンプライアンスの実態把握
⑩ 訴訟リスクに対応した組織防御のための証拠の整備

 これらの諸施策は、業種に関係なく基本的にすべての企業において人事管理制度を構築・運用する際に求められる内容です。しかし、グローバルに事業を展開する企業の人事管理においては、特に⑦から⑩までの項目については、各ホスト国固有の企業に対する法的要請が益々厳しくなる現状を考えると、外資企業に対する特別の規制の有無の確認を含め十分な対応が必要です。そして、その対策を立証できる書面やその他の媒体による証拠を記録しておくことが、実務的に今後益々必要になります。

 したがって、人事担当部署が中心になって職務分析を実施する場合に、分析対象となる項目を、当面の目的である報酬管理(水準算定)の観点から職務の構成要素(compensable factors)を静的(static)に描写するにとどまらず、グローバルな事業を効果的に展開し業績を挙げ続けるために必要十分な①から⑩までの項目などを含めた動的(dynamic)な活動項目にまで広げて、全社的な企業経営の観点から「職務と職務遂行のあるべき姿」を定義することが必要です。その上で、人事担当部署だけでは把握し難いライン現場の実態については、次回以降詳しく説明する「職務分析の過程・手法」を踏まえ、人事担当部署が積極的に、ライン管理者とライン現場で業務を担当している個々の社員との緊密な連携・協力体制を築くことが欠かせません。

 職務分析の目的とは、詰まるところ、個々の職務を担当する社員と、その社員の業務行動(仕事ぶり)や業績をモニターし指導するライン管理者が、具体的にどのような方法で会社の業務目標の達成に貢献しているかを、人事担当部署が動的(dynamic)に把握し、そのプロセスと結果を全社で共有することです。報酬管理という特定の人事施策を、全社を巻き込んだ分析活動よって得られた情報に基づいて設計する人事担当部署のアプローチは、ライン管理者や一般社員にも施策設計の当事者意識を喚起するとともに、経営管理層からの強力な支持を得ることが可能になるのです。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE

1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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