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COLUMN コラム

チャオプラヤー川に吹く風

2017.07.24

【チャオプラヤー川に吹く風(52)】タイ国の教育事情 その1~学制の枠組み

齋藤 志緒理

チュラロンコン大学・文学部の旧校舎。文学部は1917年の同大学設立時に最初に創設された4学部の1つで、この校舎は筆者が在学していた1990年代半ばまでは実際に授業に使われていた。歴史的建造物として保存するため、現在授業は別の新校舎で行われている。本写真を撮影した2013年の訪問時は、旧校舎で学会らしき会合が開催されていた。

 本連載では、今号から、タイ国の学校教育にまつわる話題を数回に分けて扱います。「その1」では、タイの学制の全体の枠組みを見てみましょう。

●タイ国の学制

 タイ国は、日本と同じ6-3-3制(初等教育6年、前期中等教育3年、後期中等教育3年)をとっています。1999年に制定された国家教育法により、義務教育はそれまでの6年から9年(前期中等教育まで)に延長されました。

 タイ語では、初等教育のことを「プラトム・スクサー」、中等教育のことを「マタヨム・スクサー」と呼びます。その最初の音(それぞれPとM)をとって、小学校の6学年を「P1(ポー・ヌン)」~「P6(ポー・ホック)」、前期中等教育の3学年を「M1(モー・ヌン)」~「M3(モー・サーム)」、後期中等教育の3学年を「M4(モー・スィー)」~「M6(モー・ホック)」と略称します。(日本のように中高で3年ずつ分けず、中等教育は一貫して年次をカウントします。)

 義務教育のM3までを終了した後は、M4に進むか、技術職業教育課程(職業訓練校)に進む選択肢があります。後者は(これもまた頭文字をとって)「PWC(ポー・ウォー・チョー)」と呼びます。

 M6を卒業すると、高等教育への進学資格を得ます。一方、職業訓練校PWCの卒業資格では大学受験はできず、進学を望む場合は2年制の「PWS(ポー・ウォー・ソー)」と呼ばれる「技術職業教育ディプロマ、上級サーティフィケート」に進みます。PWS卒業者には、大学3年次に編入する道が開かれています。

●学校年度

 学校年度(学年暦)は、5月半ば~翌年3月半ばまでで、前期(10月半ばまで)と後期(11月1日初め~)の2学期制。休暇は前期・後期間の学期間休暇と2カ月にわたる長期暑季休暇の2回です。

 高等教育では、従来、前期の開始は6月からでした。しかし、タイ政府は2015年12月のASEAN経済共同体の発足をにらみ、外国人学生の受け入れ環境を整えるため、2014年から大学の学年暦を調整しました。新制度では、前期が8~12月、後期が1~5月、6、7月を夏期休暇に充てています。

※注:ラーチャパット大学(沿革を後述します)やラーチャモンコン工科大学系の学校については、留学生数が少なく、新しい学年暦を導入するメリットがあまりないという実情を受け、現在は、概ね6月開講の旧制度に回帰しているようです。

●就学率

 日本の外務省のウエブサイト上に掲載されている「諸外国・地域の学校情報:タイ」(平成29年2月更新)によれば、各段階の就学率(同年代における就学人口の割合)は下記の通りです。(※いずれも出典は2013年タイ教育省のデータ)

就学前教育(幼稚園)=76.0%
初等教育=102.7%
前期中等教育=96.8%
後期中等教育=75.1%
大学=46.5%

●就学率の増加

<中等教育レベル>

 上掲の通り、現在の初等教育~中等教育の就学率は非常に高い数字ですが、中等教育に関しては、1990年ごろからの政府の施策を受けて急速な増加をみたものです。

 タイ国の初等教育の就学率は1980年代初めまでにほぼ100%に達していましたが、前期中等教育の就学率は30%とアジア諸国の中でも極端に低く、世界銀行やユネスコの厳しい批判を浴びました。1980年代後半から、教育省は中等教育の整備にかかり(後の1999年国家教育法につながる端緒として)、1991年に閣議で国が提供する教育を6年制から9年制に拡充することを決定しました。

 その結果、前期中等教育への就学率は、1992年に73%、1994年には89%へと上昇しました。(末廣昭『タイ 中進国の模索』岩波新書、2009年、p.127)

<高等教育レベル>

 高等教育についてみると、1961年と1973年の就学率は、それぞれ0.5%、2.2%とごくわずかでした。(綾部恒雄/永積昭編「もっと知りたいタイ」弘文堂、1982年、p.197)。時代が下って、1990年の教育省データでは、高等教育への就学率は13.23%。これは大学(注:オープン大学を除く)と高等専門学校、教員養成学校等を含めた数字です。

 末廣昭の前掲書(p.129-130)によれば、政府は1990年代に高等教育の大衆化を目指し、その際、国公立大学の新設に加え、「全国各地に存在する2年制の教員養成学校を4年制の総合大学に改組」「4年制の私立カレッジを大学に昇格」という二つの方策をとりました。前者は、プミポン前国王の提唱のもとで着手されたもので、1995年に「ラーチャパット・インスティチュート法(のちにラーチャパット大学法に改定)が公布されました。こうした施策の結果、学齢人口に対する、短大・大学に在学する学生の比率は、2005年には30%を超えました。

 なお、改組により「ウィッタヤーライ・クルー」(教員養成学校)はその名称を「マハーウィッタヤーライ・ラーチャパット」(ラーチャパット大学)に変えました。

●現在の高等教育機関の種類と規模

 タイ国の2015年の高等教育機関の総数は174校で、公立が100校、私立が74校です。公立の高等教育機関について詳しくみると、「公立大学16、自治大学15、ラーチャパット大学40、ラーチャモンコン工科大学9、コミュニティカレッジ20」という内訳です。2015年の学生総数は200万人超で、公立が85%以上(約173万人)を占めています。(独立行政法人 大学評価・学位授与機構「Briefing on Thailand: Quality Assurance in Higher Education」p.2)

 先に紹介した2013年の教育省データでは、学齢人口の約半数(46.5%)が高等教育に進むことがわかります。タイ国には、無試験で入学することのできる2つのオープン大学「ラームカムヘン大学」(1971年創設/学生数約36万人※)と「スコータイタマティラート大学」(1978年創設/学生数約16万人※)があり、現在、2大学の在学者数は高等教育人口の約4分の1の割合に達しています。(※学生数データはいずれも、外務省「諸外国・地域の学校情報:タイ」平成29年2月更新情報より)。

 次号では、少し歴史を振り返り、タイ国における近代教育成立の流れに着目します。

齋藤 志緒理

Shiori Saito

PROFILE

津田塾大学 学芸学部 国際関係学科卒。公益財団法人 国際文化会館 企画部を経て、1992年5月~1996年8月 タイ国チュラロンコン大学文学部に留学(タイ・スタディーズ専攻修士号取得)。1997年3月~2013年6月、株式会社インテック・ジャパン(2013年4月、株式会社リンクグローバルソリューションに改称)に勤務。在職中は、海外赴任前研修のプログラム・コーディネーター、タイ語講師を務めたほか、同社WEBサイトの連載記事やメールマガジンの執筆・編集に従事。著書に『海外生活の達人たち-世界40か国の人と暮らし』(国書刊行会)、『WIN-WIN交渉術!-ユーモア英会話でピンチをチャンスに』(ガレス・モンティースとの共著:清流出版)がある。

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