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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2017.05.22

マーライオンの眼差し (26) EP取得のハードル更に上がる(2)

矢野 暁(サムヤノ)

 前回(25)では、今年1月1日からEP取得のハードルが更に一段と高くなったことを書きました。今回もこのテーマに関連して、いくつかの重要な考察を行いたいと思います。

<日本企業の対応>

 EP取得のハードルが大卒初任給30万円近くの高さまで来ますと、地場企業を含む全ての企業が外国人雇用について再考せざるを得ません。日本企業も例外ではありません。
 大規模のオフィスでシンガポール人を多く雇用している場合は、EPとは異なる就労ビザSパスによる外国人雇用という手段もあります。(最低給与額はS$2,200で、シンガポール人6人につき1人の枠が与えられます。)ですが、大企業も含めて大部分のオフィスは少人数で構成されていますので、そもそもSパスの枠すら全くない場合が大多数です。
そうなると、選択肢は絞り込まれます。現地オフィスを存続する、すなわち撤収はしない、という前提での選択肢は、例えば次のいずれか、または組み合わせとなるでしょう。

① 日本人and/orその他外国人を減らす【人件費を抑制】
② 日本人and/orその他外国人の従業員の年齢を若年化する【人件費を抑制】
③ シンガポール人・PR保持者を増やす(EP不要)【人件費を抑制】
④ 日本人and/orその他外国人を引き続き同程度に雇用または増員する【人件費アップ】

 元々EP取得の条件を容易にクリアできそうである「比較的高給取り」の管理職や専門職の人たちには影響は軽微なのですが、問題となりやすいのは中小・中堅企業で本国から派遣される日本人、現地採用を希望する日本人、アジア諸国などから来てシンガポールで働く人たちです。この人たちに対して条件を満たすだけの給与水準を確保できない場合、シンガポール人やPR保持者で給与水準があまり高くならない人を雇用する、という選択肢を真剣に考えざるを得なくなります。まさにここがシンガポール政府の狙いなのですが。


<シンガポール人かPRを雇用>

 しかし、シンガポール人だからと言って給与水準が低いわけでは決してありません。世界でも有数の高所得を得ており(だからこそ、少なくとも統計上は世界一裕福な国家なのですが)、大学卒の初任給は凡そS$3,000~4,000程度です。教育省による調査結果がありますので、ご関心のある方は次のリンクをご覧になって下さい。Graduate Employment Surveyといって、2016年11月に行われました。
https://www.moe.gov.sg/docs/default-source/document/education/post-secondary/files/nus.pdf#search=%27singaporean+average+salary+newly+grad%27
 また、シンガポール人・PR保持者を雇用した場合、企業は中央積立基金(Central Provident Fund: CPF)への拠出が義務付けられており、企業にとっては実質的な追加人件費となります(55歳未満の場合の企業負担は17%)。
 このように、シンガポール人やPR保持者を雇用したからといって、必ずしも人件費を抑制できるわけではありません。

総数8名の某オフィスの人員構成はシンガポール人1名、PR3名、EP4名(うちPR・EPの内訳は日本人5名、東南アジア人2名)

総数8名の某オフィスの人員構成はシンガポール人1名、PR3名、EP4名

(うちPR・EPの内訳は日本人5名、東南アジア人2名)


<雇用側も被雇用側も変革を>

 日本企業に限った話ではないですが、雇用側は「日本人(本国人・外国人)が本当に必要か」「どんな日本人が何名必要か」「シンガポール人に任せられる業務・職責はないか」などにつき根本的に自問自答する必要に迫られています。今までの慣行や既成概念に縛られることなく、より高い「費用対効果」を実現するためには如何なる人員構成が最適なのかを、従来以上に突き詰める「好機到来」とポジティブに捉えてもよいのではないでしょうか?
 また、シンガポールでの就職を希望する(特に若い)日本人の方々には、誰が見ても客観的に抜きん出ているスキルを身につけることが大切です。日本人だから日系企業で働ける、英語ができるからどこかに仕事がある筈だ、などとは考えない方が賢明です。
「中途半端」な技能・知識・経験だけでは、どんなに熱意があってもこの国での就職は以前よりもずっと困難になってきています。秘書、アシスタント、総務、営業などなど、シンガポール人で十分に対応できる(とシンガポール当局が考えるような)職種ではハードルは高いでしょう。また、今まで大企業・有名企業に勤務していた、役員・部長・課長という肩書だった、という「看板」だけでは通用しないことも肝に銘じる必要があります。
 実はこうした傾向はシンガポールに限らず世界中で起こっていることであり、どのような業種・職種に身を置くにせよ、私たち一人一人が真の意味での「ザ・プロフェッショナル」となれるように若いうちから切磋琢磨していかねばなりません。

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE

慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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