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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2018.01.29

マーライオンの眼差し (34) インター校 ③ ~増える日本人子女~

矢野 暁(サムヤノ)

<なぜインター校に?>

 世界中の他の主要都市と同様に、シンガポールにも非常に立派で歴史のある日本人学校があります。小学部2校、中学部1校から構成されていて、生徒数は合計で2,000人以上と大規模です。世界で3番目の規模だそうです。教育の質は高く、学校施設はシンガポールの中でも傑出した充実ぶりです。(因みに高等部は私立の早稲田渋谷シンガポール校があります。)
 それにも拘わらず、近年インター校に子供を入学させる日本人の親が増えています。学費は日本人学校の4~5倍、年間200~300万円もかかるのに!です。殆どの本邦企業は(大手欧米企業と異なり)インター校の費用までは面倒を見ません。ですから大部分は自己負担なわけで、一般の従業員にとっては相当な財政負担となります。しかもお子さんが二人、三人となれば、なおさらです。

 なぜ会社負担で通わせることのできる素晴らしい日本人学校があるのに、敢えて費用の高いインター校を選択するのでしょうか? 両親の一人が「外国人」(という呼称はあまり好きではありませんが「日本人以外」という意味で便宜上使用します)の場合は、すなわちお子さんが「ミックス」(multiracial child)である場合は、家庭における共通語が英語であるとか、片方の親の出身国の教育制度を選択するとかの理由から、インター校の選択は比較的自然です。
 しかし両親ともに日本人で子供をインター校へ通わせるというのは、「折角手にしたシンガポール赴任という機会を利用して、国際色豊かな土地で日本では出来ない経験を子供に積ませよう」という親心が大きいのだろうと思います。
 もう少し具体的に掘り下げてみると、「子供に国際性を身につけさせたいから」「グローバル人材に育ってほしいから」「英語でも流暢にコミュニケーションできるようになってもらいたいから」などの理由が主流のようです。また、こうした国際性の側面の他に、「典型的な日本の教育方針に疑問を抱くから」「インター校の伸び伸びとした育て方が好きだから」という教育へのアプローチの違いに意義・優位性を見出している方々もいます。


<インター校でも固まる日本人>

 残念なのは、国際色豊かなインター校に子供を通わせても、その親たちが日本人だけで固まってしまうことです。この傾向はシンガポールにおいてのみならず、世界中どこのインター校でも見られる光景のようです。
 親が(実際には多くの場合はお母さん方が)他国の親たち、それに学校の先生たちと積極的に交流しようと努力しないと、子供たちの国際交流も限定的とならざるを得ません。学校の場では英語で授業を受け、英語でコミュニケーションをするとしても、それだけでは高い授業料を払って折角インター校へ通っているのに、求めている効果は半分も得られないでしょう。
 親がイニシアチブを取って交流機会を作り環境演出に奔走することで、学校においてのみならず、学外においても日本人以外の子供たちや家族との交流の場が大幅に増加するはずです。 学外での国際交流が増えることで、子供たちは学内における国際交流にも積極的になり、日本人の子供同士で固まる、という傾向も薄らぐはずです。
 そして、これは副次的効果だと思われるかもしれませんが、実は子供がインター校へ行くお蔭で親も非常に稀有な機会を与えられているのです。この機会を利用しない手はありません。 子供だけではなく「家族全員参加」により、日本人にありがちな心理的バリアを低減させ、日本では経験できない国際交流・異文化体験を積む覚悟と努力が必要です。


<費用対効果や如何?>

 インター校に行けば、自動的に国際性が身につくというわけでは決してありません。自由な雰囲気の中で創造性を重視する指導アプローチが、全ての子供に奏功するという訳でもありません。
 子供の努力もさることながら、親の努力が大切です。インター校で何を目指すのか、何を得たいのか、将来へ向けた教育の中でどう位置づけるのか、目的を明確にすることで、それを成就するために家族で何ができるのかを十分に検討し、話し合うべきでしょう。その結果としてインター校を敢えて選ぶのであれば、親も出来る限り参画するべきです。それは単に学校イベントを見に行くとか、そういうレベルのことではありません。強い意識を持って異文化「交流」を学校の内外で追い求め、行動に移すのです。
 中途半端が一番よくありません。残念ながら子供にとってマイナスの、或いは悲劇的な結果となる恐れもあります。帰国する頃になって「こんなことなら、初めから日本人学校へ普通に通わせておけばよかった」という後悔の念を抱く親の話を何度となく耳にしたことがあります。敢えて日本の学習指導要領を離れ、しかも高い学費を支払うのですから、やるなら家族全員で徹底的にやるべきでしょう。親にとっても「チャレンジ」なのです!


インター校の運動会で必死に疾走するお父さんたち。
数多くいる日本人の中で、参加した日本人パパは2名のみ。(筆者の知り合いが撮影)

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE

慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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