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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2018.08.27

マーライオンの眼差し (38) 消えたヘイズ(煙害)

矢野 暁(サムヤノ)

<今夏もヘイズが無い!?>

 今から約3年前の2015年10月、私はこのコラムにヘイズのことを執筆しました(No. 11『ヘイズ(煙害)のリスク』参照)。その年はインドネシアのスマトラ島やカリマンタン(ボルネオ島)から押し寄せる煙の量と被害の期間が凄まじく、「こんな状況が毎年続くようならシンガポール脱出を真剣に考えなければならない」と家族と話し合っていたほどでした。

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2015年のヘイズ。ひどい時は目の前のビルも殆ど認識できないほど視界不良だった。(筆者撮影)

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2015年のとある日のヘイズ関連の指数。PSIは大気汚染指数、PM2.5は微小粒子状物質濃度で、2015年は危険水準を記録する日が多く、長期間続いた。(筆者のスマホ画面)

 ところがその翌年から恐怖のヘイズは文字通り雲散霧消。2018年の今夏もシンガポールの青空は澄み渡り、日本や欧州などが記録的な猛暑に悩まされている中、比較的爽やかな日々も多く、絶好のジョギング日和に恵まれたほどです。ありがたや!
なぜ突如としてヘイズが消えてしまったのか、少々気になったので調べてみました。結構興味深いですので、このコラムで皆様と共有したいと思います。


<消えた要因>

 大きく二つに分けると「外圧」と「自発」と言えそうです。
 まずは「外圧」。甚大な被害を受けていたシンガポールはもちろんのこと、環境問題に敏感な欧州がインドネシアに対して、具体的アクションを伴う断固たるメッセージを送りつけたのです。EUはインドネシア(加えて部分的な火元であるマレーシア)からの紙、パームオイル、場合によってはあらゆる製品に関して、輸入禁止の措置をとるかもしれないと脅しをかけました。シンガポール政府は市民の困苦と憤りを必ずしも十分に反映せず、インドネシアの紙やその他製品のボイコットにまでは発展しませんでしたが(隣国への遠慮からでしょうか?)、政府系調達には環境面での認証を得ている会社のみを対象とするとの措置を取り、政府系企業もこれに従ったので、少なからず圧力にはなったようです。
 具体的には、インドネシア華人財閥シナルマス・グループに属するアジア最大級の製紙会社Asia Pulp and Paper (APP)が最大の標的になりました。日本とも取引のある会社です。APPは環境面での認証を得ていませんでした。
 もう一つの「自発」ですが、2015年と言えばジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領が誕生した年で、様々な面で「浄化」を目指す同大統領と関係閣僚がヘルメットをかぶって火元現場を視察し、「なんてことだ、これは酷い!」という声を上げた場面を思い出します。(「それまでの政治リーダーは一体何をやっていたのか!? 見て見ぬふりをしていたのか!?」との疑念を抱いたことも記憶しています。そこに「汚職・腐敗」が潜んでいたことは容易に想像できます。)2016年初めにジョコウィ大統領は、野焼きの責任所在を明確化しやすくすることで抑止力を働かせる具体的な法的措置を取り、また立法や司法も法執行に真剣に取り組み始めたことで、漸く自助努力が奏功し始めたのです。
 そして少なくとも今年に限って言いますと、日本選手も活躍しているアジア大会が8月18日から9月2日までインドネシアで開催されており、北京でのオリンピックの時と同様に、この期間は何が何でも「きれいな空気と青空」の提供は政治的な至上命令であるはずだ、というのがシンガポールやジャカルタの市民・メディアから漏れ聞こえてきます。
 いずれにせよ、自助努力を突き動かしたのは外圧であり、具体的には外交というよりは経済的圧力であったと言えます。外圧が強くなければ自発的な行動も起こらなかったか、或いはあまり効果を発揮せずにポーズで終わっていたことでしょう。
 自国の市民がそれこそ死にそうな目に遭い、隣国の市民が悲鳴を上げ続けていたというのに自助努力を怠り、経済的不利益をもたらす外圧に屈して漸く重い腰を上げた、という印象です。「命」よりも「経済」的なインパクトが政治を突き動かした、というのは何とも寂しい限りです。


<また襲来する恐れはある>

 ヘイズが毎年のように訪れることは避けられないと諦めていた人たちにとっては、「なーんだ、その気になればできるじゃん」という感じですね。ヘイズは天災ではなく、人が意図的に起こしている人災です。なので人の意思で発生させることも止めることもできるわけです。ということは、ほとぼり冷めれば(?)また来襲!ということもありえます。来襲が来週でないことを祈りつつ、ジョギングへ行ってきまーす!

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE

慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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