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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2018.05.14

マーライオンの眼差し(36)電動乗り物の功罪

矢野 暁(サムヤノ)

<ちょっとFuturistic>

 最近、特にビジネス中心街の界隈で電動キックスクーターなどの総称Personal Electric Vehicles (PEVs:個人用電動移動支援機器) が歩道を颯爽と行き交うのを多く見かけるようになりました。2~3年前はまだ物珍しい程度でまばらでしたが、今や多くのビジネスパーソンが利用する新たな通勤の「足」となっているのに加え、レストランから家やオフィスに食事を配達するDeliverooなどのスタッフも街中をスイスイと走っており、何だが「未来都市」を彷彿とさせています。他に観光客向けにレンタルもされており、数人や集団での利用も増えてきました。

スマホ画面を見ながら川沿いの歩道を電動一輪車で走るビジネスマン、その後ろには電動キックスクーターが見える (筆者撮影)

スマホ画面を見ながら川沿いの歩道を電動一輪車で走るビジネスマン、その後ろには電動キックスクーターが見える (筆者撮影)

 ほぼ同時期にライドシェアの自転車が普及し始めたことにより、それまで歩道には歩行者とランナーしかいなかったのが、今や自転車に多様なPEVが加わり(中には電動自転車もあります)、随分と歩道の光景が様変わりしました。光景だけでなく、以前よりも気をつけて歩かないと、見通しの悪い場所などから突然こうした乗り物が勢いよく出現することが日常的になっています。

<なぜ普及しているか?>

 地下鉄やバスなどの公共交通機関の利便性が良いシンガポールで、なぜPEVなのでしょうか? 単純に「格好いい(coolだ)」から?とも最初は思いましたが、やはり「便利」だから、数万から数十万円もかけて購入しているようです。
 シンガポールは年中暑くて蒸すことも多いですから、基本的に外を歩きたくない人が多いと言えます。PEVは携帯性に優れ、電車・バスやエレベーターに持ち込むことができるので、まさに殆ど歩かず、汗をかかずにDoor-to-doorでの移動が可能です。
 それでも歩道などのインフラが劣悪であれば、とてもスイスイという訳にはいきませんよね。また、自宅からオフィスなどへの移動距離が比較的短いことが多い、というのもこうしたPEVには好都合です。東南アジアの他都市で殆ど見かけないのは、こうした基本条件を満たさないからなのだと思います。
 一つ忘れてはならないのが、シンガポール政府が自動車の代替移動手段やライドシェアの推進を図る一貫として、こうしたPEVの普及を後押しする姿勢を取り始めたことも背景にあります。

<事故多発>

 自転車や車のライドシェアの普及時にも疑問を抱いたのですが、このPEVに関しても普及を後押しする政策とは裏腹に、簡単に予想することができたはずの負の影響に対しては有効な手立てを迅速に打ってこなかったと感じています。
 PEVによる事故や危険場面が増加し(事故は平均週3件程度)、歩行者への追突事故や車道をバイクのように走る事案がメディアで取り上げられ、市民の苦情の声も大きくなり、国会のでも取り上げられるようになりました。漸く政府も対応を取り始め、マナーの悪い利用者への取り締まりを強化しています。今年3月には電動スクーターの登録義務化を決定し、年内中に実施される予定です。

バス停の脇を走る電動スクーター、乗降客と交錯しそうになる場面を目撃したこともある (筆者撮影)


<本当に必要か>

 確かに便利でしょうが、私は個人的には「こんなもの必要ない」と思っています。「便利=必要」ではないわけで、個人にとってのメリットと社会にとってのデメリットのバランスをよく考えるべきでしょう。それは「シェアリング・エコノミー」でも同様です。「シェアリング=いいことだ」などというのは単純すぎます。
モーターにばかり頼っていると、足腰がどんどん退化して、人類のFutureは機械・ロボットの助けが無くては十分に独り立ちできないような世の中になってしまうかもしれない、とFuturisticな光景を見ながら想像してしまうのは私だけなのでしょうか?

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE

慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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