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COLUMN コラム

駐在員のための中国ビジネス ー光と影ー

2015.01.26

駐在員のための「中国ビジネス―光と影」(第17回) 駐在員心得(その3)

菅野 真一郎

(1)現地法人の運営

鳳凰県は湖南省湘西トゥチャ族ミャオ族自治州に位置する県。中国の現代作家沈従文の故郷である。2001年、国家歴史文化名城となった。

1)中国人職員のヤル気、能力をいかに引き出すかがポイント

④研修制度による能力向上サポート体制構築

研修制度による能力向上サポート体制構築では、日系企業の場合、日本での研修が効果が大きい事は言うまでもありません。中国人が外資企業に勤める動機はいろいろあると思いますが、多くの人は中国の国有企業では学べない業務知識や技術を身に付け、将来のためのキャリアメイクを積み重ねたいという願望は(その会社で長期に亘って勤め続けるつもりでも、時期を見て転職するつもりでも)とりわけ強いものがあります。

従って外国である日本に行って研修することは、彼らの就職の一つの大きな目標といってもよいでしょう。
よく日本で研修して戻ってきたら最低 5年間以上は働いてもらいたい、そのための転職防止策は何かということが話題になりますが、有効な対策は見当たりません。
研修前の誓約書(約束に反して転職する場合、研修費用の返却を義務付ける例が多い)は、本人が転職しようと思えば転職先に研修費用の返却を条件とする例が多く、ほとんど転職防止の牽制にはならないからです。
やはり定着率の基本は経営理念の共有を図るということではないでしょうか。

また、日本で研修したことを、中国の職場に戻ってから同僚や部下に伝授することを期待することはまず無理です。何故なら、自分が得た知識を他人に伝授すれば、他人の知識レベルが上がり、自分の価値が相対的に低下することになるからです。ある意味で中国人の物の考え方は実に合理的です。私はこの現象を“知識、資料、技術の私物化”と呼んでいます。或いは前にも述べた“中国人は自分主義”の典型例かもしれません。

従って広範な職員に高いレベルの業務知識や技量を身につけてもらうには、可能な限り沢山の職員に日本研修のチャンスを与えることであり、皆が希望を持てるように日本研修が受けられる公平な客観的条件や基準を公開することだと思います。

なお、欧米・東南アジアなどその歴史も中国現地法人より古く、現地ナショナルスタッフの登用・現地化が進んでいる自社の海外拠点での研修や視察も検討の価値があります。中国人職員にとって自分の将来像が見えて、大いにやる気が起き定着率向上につながる可能性があります。

⑤引き抜き、トラバーユは日常茶飯事

中国人職員のヤル気、能力を引き出す、ひいては定着率を向上させるための工夫のあれこれを述べてきましたが、それでもなお中国では引き抜きやトラバーユは日常茶飯事であることも認めざるを得ない現実です。
昨日よりも今日、今日よりも明日、昨年よりも今年、今年よりも来年、より良い経済的条件を求めて転職の機会を窺がっていると言っても過言ではありません。
中国現法責任者が経験上から言う離職率は大ざっぱに20%、15%ならましな方とも言われています。従って一般的水準の職員が5年も働き続ければ離職しても已む無しとある程度割り切り、本社にも理解してもらうことが必要です。

しかし、出来れば働き続けて欲しい、将来は現法の高級幹部の有力な候補と思われる人材については、思いきった高給(例えば世間相場の2~3倍)や肩書き、待遇を与えて流出を防ぐ対策が必要だと思います。

また、中国人が一旦会社を辞めると言ったらほとんどの場合引き止めても無駄です。転職先とは、引き止められて提示されると思われる改善条件を相当上回る条件を交渉で確保してから、退職を申し出るからです。転職後の雇用条件は現在の条件よりもかなり良い筈ですから早く転職したいということで、退職時期は相当急な場合が多いようです。その上中国では、“好馬不吃回頭草”(良い馬は一回食べた道の草を食べない―賢い人は常に前を見て進み、過ぎたことには未練を残さない)という諺もあって、一旦辞めるといって翻意して会社にとどまると、中国人の間では、「あいつは好馬ではない」ということになるらしく、この意味でも引き止めは無駄のようです。

いずれにせよ中国人の自分の意思による退職申し出は突然で意思は固いので、その後任対策を至急立てなければなりません。中国では普段からある程度余裕の有る人員配置もやむを得ないのではないかと思います。
本社サイドでもこの辺の中国の雇用事情、人員計画には理解を示していただきたいと思う訳です。

なお、私自身は転職を申し出た相当優秀なベテラン職員や中堅幹部の引き留めを試みたことが何度かありますが、戦績はほぼ半々です。転職を思いとどまらせるための説得のエネルギーは相当だったのを憶えております(面談数回、延べ15~20時間)。

また、大学新卒で入社して4~5年目(研修、見習い期間を終えて、いよいよ本格的に実践を積ませられる時期)の社員の引き抜きは、専門の会社が介在する例が多いのですが、提示される給与水準は現在の給与の2倍前後です。というのは4~5年間の養成が省けるため、その期間の給与を2~3年間は上乗せできる計算です。2~3年使ってみて期待外れの場合は解雇すれば損得なしということかもしれません。

引き留め工作を振り返ってみると、当該職員との普段のコミュニケーションや信頼関係、経営理念の共有が濃厚な場合は引き留め成功の確率が高いように思います。必ずしも給与を引き上げるからとどまれと言っても、かえって当人のプライド傷つけて、引き留め工作はうまくいかない気がしました。

(つづく)

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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