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COLUMN コラム

駐在員のための中国ビジネス ー光と影ー

2015.08.17

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第24回)駐在員心得(その10)

菅野 真一郎

(4)現地化推進

北京国家体育場は、中華人民共和国・北京の陸上競技場、及び中国最大のスタジアムである。

①人の現地化

中国のWTO加盟に伴う国内市場開放、中国進出とりわけ中国市場狙いの進出に関わる規制緩和(例えば卸・小売業の外資開放、最近ではガソリンスタンド経営や高齢者介護を含む病院経営の外資開放等)で、中国進出が大いに促進される反面、中国企業と外資企業入り乱れての企業間競争も激しさを増しています。家電製品、携帯電話、自動車等の最終商品から、原材料、部品に至るまで、過当競争の最後は価格競争に走るのが中国市場の特色です。

最近では中国全体の生活水準の向上、中産階級の増加、あるいは食品にかかわる事件・事故などの影響で必ずしも価格だけでなく、品質や安全性などが消費者の商品選択の大事な基準になってきている面はあります。しかしこの面でも中国企業の水準は急ピッチで向上してきていて、結局市場を押さえられるのは価格次第、ものによっては確立したブランド力と言えます。従って如何にコストダウンが図れるかが競争に打ち勝つポイントの一つになります。原材料、部品の国内調達率引上げ、中国人幹部登用等の現地化推進の必然性がここにあります。

例えば日本人の30才から35才前後の中堅社員一人の派遣コストは、海外手当てや日本に残る家族手当を含む給与やその個人所得税(最高税率45%)、中国での住宅費(㎡当り一日1ドル、60㎡に住んで年2万ドル超)、その他の一時帰国費用等を加味すると年間1,000~1,500万円以上を要する計算となります。これは例えば最近の上海市政府発表の市民の平均給与月額5,000元(含むボーナス)、年俸6万元=120万円相当の10人分に相当します。(なお高級幹部になると、業種、会社でまちまちですが、中国人でも年俸4~500万円相当は下回らないと言われています)。日本人派遣のコストはかなり高いものになります。

また商品の規格も中国人の嗜好に合ったもの、中国市場のニーズにマッチしたものでなければ市場から排斥されてしまいます。需要の拡大と共に中国市場向けの独自商品を開発しなければ生き残れなくなってきています。
中国国内に研究開発センターを設置する必然がここにあります。ここでは中国人の感性や中国市場の特性に精通する人材が不可欠ですから、中国人の活用――現地化が避けられないのではないでしょうか。

例えば上海に進出したフランスの大手食品メーカーは、他の国に進出した時と同様、先ずチーズでスタートしたものの売れ行きはさっぱりでした。この時上海市外国投資工作委員会(現在の商務委員会)のNO.2の方から、「上海人はあのチーズの臭いに弱い。羊の肉のシャブシャブもあまり売れない。にんにくも上海人は好んでは食べない。食品で進出する場合は、中国人の嗜好をよく調べて商品戦略をたてるよう、日本の経営者にはよく伝えて欲しい」と言われました。このフランスの会社は次にヨーグルトを売り出してヒットし、息を吹き返しました。

日本の有名な大手菓子メーカーのオーナー社長が中国でのガムの製造販売を検討するため上海の食品メーカーをいくつか視察している時、「上海にもガムメーカーはあるのにどう私が勤めていた銀行のして需要が伸びないのか、アメリカの大手ガムメーカーも広東省で苦戦している」と首を傾げました。私が勤めていた銀行の通訳も兼ねていた中国人スタッフが、「自分の娘の小学校では先生が、ガムはむし歯のもとと教えているので、そういうものにお金を出す気になれません」と言った時には大変驚かれ、「ガムが健康にもプラスというキャッチコピーが無いと売れないな」と呟いておられました。
昔から中国人は不老長寿とか健康というものに関心が高く敏感なことは常識の一つです。

日本の水産会社が、得意とする海の魚の中国市場への売込みを検討している時、弊行の中国人女子職員から、「中国の漢方の医師は、体が疲れている時や具合の悪い時は海の魚は控えるようにと言っています。自分の両親も昔からその事を信じています。海の魚でアレルギーを起こす人がいるので、その関係かも知れません」と言われました。
医学的にどこまで証明されているか、またどのくらいの中国人がそう信じているのか分りませんが、もし本格的に中国市場を攻めようとするのであれば、この種の問題の解明とその上でのマーケット戦略の構築は避けて通れません。
少なくとも中国では漢方の知識は相当広く浸透していることは間違いありません。似た現象では“風水”があります。

日本のビールメーカーがあっという間に上海で40%以上のシェアを確保し、更に江蘇省、浙江省を攻略して成功している秘訣の一つは、中国人好み、中華料理に合う軽い味―――いわゆるライトビールにあると言われています。著名な青島ビールもライトビールです。

日系自動車メーカーの中国現法責任者から「車の色も中国人と日本人では好みが違う。販売店の声を汲み上げてみてよく分った。大衆車では白より紅系統が好まれるようだ」と聞かされたことがあります。
日産自動車は北京にデザイン研究所を開設、ほどなく移設拡大したという話や、トヨタ自動車も江蘇省常熟にテストコースを有する本格的研究開発センターを開設しています。いずれも中核幹部には中国人技術者を積極的に登用しているということです。
中国市場向商品開発の重要性がお分かり頂けると思います。

次の様なエピソードもあり、中国市場も時々刻々変化していることにも注意が必要です。
90年代初め日本の飲料メーカーが上海でウーロン茶の販売を検討された時、私は華東地区で中国人が好んで飲むお茶は圧倒的に緑茶即ち龍井茶が多く、ウーロン茶を飲む習慣はあまり無いとお答えしました。しかし実際にはウーロン茶は大変な売れ行きのようです。理由の一つはウーロン茶の容器、ペットボトルにあります。
中国の水道水は硬水のため、人々は湯冷ましか茶葉の入った緑茶を、インスタントコーヒーの入っていたガラス瓶等に入れて持ち歩いていました。しかし蓋の隙間からお茶が漏れたりして不便でした。ところがペットボトルが出回り出すと、人々はウーロン茶よりも、便利なペットボトルを求めて買い始めました。相当繰り返し使える便利さが受けました。上海市の人口は1700万人(当時)ですからその需要は大きいものがあります。
需要増に伴って飲料メーカーも中国人好みの味付けの工夫を凝らし、健康飲料としての地歩を固めてきているというのが実情ではないかと思います。更に今や上海の所得水準もあがり、ウーロン茶の購買動機は容器よりも中味のウーロン茶にあるのも最近の傾向のようで、ここにも市場の変化が見て取れます。
ある日本の飲料メーカーは、缶ビールやウーロン茶、緑茶の拡販を狙って数百台の自動販売機を持ち込みましたが、今のところ成功したとは聞いていません。というのは、一夜にして自動販売機が持ち去られてしまうという盗難事故が続出で、24時間人目につく地下鉄の駅構内等にしか設置出来ないことが判明したからだと言われております。中国の公衆電話がガッチリ固定されてビクともしない風景を思い出していただければ、自動販売機の盗難も理解できると思います(もっとも携帯電話の普及でこの現象も最近はあまりお目にかからなくなってはいますが・・・・)。

こういう事象は中国人に聞けばすぐに指摘される事柄ではないでしょうか。業種、業態によって現地化の内容は様々だと思いますが、共通して言える事は、中国人幹部の登用即ち“人”の現地化が大きなポイントであることは間違いありません。

(つづく)

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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