グローバル HR ソリューションサイト
by Link and Motivation Group

グループサイト

文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大
  • お問い合わせ
  • TEL:03-6779-9420
  • JAPANESE
  • ENGLISH

COLUMN コラム

駐在員のための中国ビジネス ー光と影ー

2015.09.07

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第25回)駐在員心得(その11)

菅野 真一郎

(4)現地化推進

石林風景名勝区(中国):石林風景区の平均海抜は1750Mで昆明市から東南に約120㎞のに位置している。

②人の現地化(その2)

前回は中国市場攻略上からも中国人の登用―現地化が必要であることを述べました。今回は労務管理の面で、中国人を総経理に登用して成功している事例を紹介したいと思います。2011年3月、日中投資促進機構の役員懇談会で事務局から指名され発言した概要です。大連と蘇州に大型事業を展開するYKKの役員の方が自社の「経営現地化」の展開状況について有益なご紹介をされた後を受けての最後のまとめ的な発言です。

先ほどのYKKさんの「経営現地化」の話は大変参考になりました。是非時間を改めて会員企業さんにYKKさんの「行動規範30条」(当社が現地化を進めるうえでの経営管理とりわけ労務管理の考え方を30項目にまとめたもの)の詳しい話をしていただきたいと思います。
私自身、今でも月に2~3回のペースで中国に行っております。時間があれば日頃問題意識の高い日本企業の現地駐在員の方にお会いして最近の状況をうかがっております。最近の話題はやはり中国人の定着率向上問題です。今回強い印象に残った話がありますのでご報告させていただきます。

ある日系医療機器メーカーでの話。従業員2500名、この9割が若い女性(手作業の仕事)です。春節後、従業員がどのくらい会社に戻ってきたかという話題になりました。この会社は5%が戻ってこなかった、すなわち120~130名が戻ってこなかったそうです。

また上海浦東地区に進出して20年、ここの日本から派遣されている総経理室長に会い話を伺いました。日本の本社は岐阜県のステンレスタンク(圧力容器)の専業メーカーです。今では大手メーカーは手を引いてしまいましたが、特殊金属の溶接技術を武器に健闘している会社です。本社単体売上高100数十億円、従業員数500名弱、利益は数億円。社長(70歳―現在会長、74歳)が1990年に浦東地区での外資企業第1号として上海現地法人A社を立ち上げました。設立20年になります。当初従業員10名でスタート。なんとこの会社は今、従業員2,300名、売上高280億円、税引き後利益数十億円、日本への配当は本社利益の数倍。日本の本社をはるかに凌ぐ大きな会社に成長しております(2014年現在売上高400数十億円、従業員数4,000名弱)。因みにA社のステンレスタンクの売上比率は2~3%、事業の中心はステンレスやチタン合金の特殊金属大型製缶品(石油化学の反応塔や原子力発電の熱交換器など)です。ユーザーはGE,デュポン、P&G、ジョンソン&ジョンソン、BASFなど名だたる多国籍企業やSINOPEC、中国冶金集団など大型国有企業が中心です。春節後に従業員がどのくらい故郷から会社に戻ってきたかという話ですが、件の総経理室長が気になり同社の中国人の人事部長に聞いた話ですと、従業員2,300名のうち戻ってこなかったのは5名、比率にして0.2%。

翌日徳島に本社を置く高級室内ドアの中堅メーカーの現地法人B社の総経理に会いました。この総経理は私が銀行の上海支店長時代の部下、先方から乞われて転職した男です。江蘇省昆山に工場があり、従業員数は350名(現在は500名弱)、春節の後故郷から戻ってこなかったのはゼロ。彼が言うには「近隣の会社は春節前にボーナスの半分を支給、春節後に故郷から戻ってきたら残りの半分を支給するという例がいくつかあるが、私はこれをやりません。幸い業績が良かったので少しはずんで春節前に全額ボーナスを支給しました。このお金で故郷に土産を一杯買って帰れと言って渡しました」という話です。

話は前後しますが、A社の場合も業績が良かったので、春節前にボーナスをはずんで全額支給していたそうです。両社に共通するのは「総経理は中国人、総経理経験は8年~12年」、偶然ですが「春節前にボーナスは業績を反映して少しはずんで全額支給した」ということです。いろいろ理由はあるかと思いますが、先に話した医療機器会社とは対照的。誤解のないよう申し上げたいのですが、この医療機器会社は労務管理が悪いわけではありません。むしろ日本では有名な労務管理をしっかり行っている会社であり、この5%という数字は優秀な方だと思います。一般には10%乃至15%程度かと思います。

私は、春節前にボーナスをはずんで全額支給したから従業員皆が春節後に戻ってきたわけではないと思います。日頃から従業員に対する「思いやり、気配り」がしっかり行われている、春節に故郷に帰る中国人の習慣と気分・感情がよく理解できる、普段から従業員との相互信頼関係を構築している、従業員の研修や技術習得などの教育・人材育成に力を注いでいる、そういうことを普段からやっている結果として、挙げた好収益をきちんと反映させてボーナスを全額支給し「故郷に土産を一杯買って帰れ」という思いやりがあったからこそ、大多数の従業員が戻ってきたのだと思います。これは先ほどのYKKさんの話とも通じるものがあると思います。 A社やB社の2人の面談者は偶然同じ事を言いました。「社内で中国人、日本人という言葉が無くなったら本物です」。ちょうどYKKさんのところでも「中国人、日本人の差をつけることなく教育を行っている」という話がありましたが、この話との共通性に合点がいった次第です。

私が事務局の活動としてこの場でお願いしたいことは、会員企業の皆さんは中国での労務管理問題、ストライキ問題などで相当悩んでいる、そういう皆さんにも参考になるような事例をできるだけ投資機構の立場でヒヤリングしていただき、差支えない範囲で会員に情報提供していただき、会員間で共有させていただければ大変ありがたいということであります。

私の発言の概要は以上ですが、A,B両社とも現地法人トップの総経理は中国人で、主要幹部も中国人が登用されている、人の現地化が定着している会社です。その後2012年9月の尖閣諸島国有化後中国各地で頻発した反日暴動の動きも全く起こらず、労務管理面でも成功している事例ではないかと思うわけです。

(つづく)

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

このコラムニストの記事一覧に戻る

コラムトップに戻る