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COLUMN コラム

世界最北の日本レストラン フィンランドで苦闘したあるビジネスマンの物語

2016.09.05

【世界最北の日本レストラン―フィンランドで苦闘した あるビジネスマンの物語(71)】日本で、何が北欧女性を驚かせたか?

長井 一俊

フィンランド・プリザーブ -1

 秋風が吹き始めた8月の半ば、ポリの住人は休暇から戻り、街は日常を取り戻した。遅れること2週間、9月ついたちに、日本から帰国したばかりの女性10人が、打ち上げパーティーを私の店で催してくれた。

 実は、この年の春、このグループの一人から、「安く日本に行く方法は有りませんか?私の趣味は造花ですが、一度日本に行って、生け花や盆栽、それから日本庭園も見てみたいのです」と相談されていた。

フィンランド・プリザーブ -2

 私は日本で幾度となく、外国人の団体旅行のスケジュールを組んだことがある。そこで彼女に『安く日本に行きたいのなら、貴女を含めて、10人の同志を集めなさい。一年中で一番安く行ける閑散期は、お盆明けの8月下旬でしょう』と答えた。すると『10人で良いのですね。私が所属する造花クラブと、母が会員のガーデニング愛好会に声をかければ、きっと集まると思います』と即答された。

 それから2ヶ月ほど経った5月下旬に、リストを手に『やりました。“格安なら行きます。夏の休暇を後にずらします”という女性を10人集めました』と店にやってきた。ボールは私の方に戻ってきたのだ。

日本作家のプリザーブ -1

 海外旅行の費用は概ね航空運賃と宿代で決まる。私は「ユーロ紙幣に対応する最初の財布」で引き合いをくれた、フィンランド航空の重役に相談してみた。

 すると、『ヘルシンキ―成田間は常時満席状態で格安価格は出しにくい。しかし、発着を関西空港に変えれば可能でしょう』と言ってくれた。

日本作家のプリザーブ -2

 関空は、私が考えた旅程に寧ろ便利だ。アレンジしようとした最初の訪問先が、生け花の発祥の地と言われる、京都六角堂(天台宗・紫雲山頂法寺)だったからだ。住職兼家元である池坊専永氏の奥様、保子さん(衆議院議員)は進歩的なお方で、30年程前、アメリカの雑誌「PENTHOUSE」の懇望を受けて、紙上で美しいセミヌードを披露し、日本女性のイメージを刷新した。

 当時私は企画会社を経営し、考案したばかりの「倒れない吸盤付き剣山」を彼女のもとに送り込んだ。答えは『貴男の発明は華道に対する侮辱です』と言われてしまったが、『残念でしたね』と言ってくれた側近の方とコネが出来た。

 次は宿代だが、所詮ホテルも飛行機と同じ箱物だ。閑散期は部屋さえ埋れば、御の字である。オーナーは従業員を遊ばせたくはないし、従業員も仕事がある方が気楽だ。よって、この時期の団体客は“枯れ木も山の賑わい”で、泊まってくれるだけでも嬉しい。宿代は朝・夕の食材費とタオルやシーツを洗う石鹸代がでれば良いのだ。

 私は仕事を通して知った、美しい庭園を有するホテルや旅館のオーナーに手紙を送ると、“大歓迎”の返事が戻って来た。

 その他、国内交通費も外国人割、団体割がある上、夏期の白夜に慣れた北欧人は早朝割もいとわない。

 次に紹介したいのは、造花メーカーである。一言で造花といっても、紙、粘土やガラス等の使用材料によるジャンル分けがある上に、コサージュ、ブーケや水中花といった数々の形状に沿ったクラスがある。最近では、生きた花の水分と食品用着色料を交換して、長く観賞出来るプリザーブ(添付写真)に人気がある。

 どうアレンジしようかと考えているうち、昔やってしまった大失敗を想い出した。半世紀前、ドライフラワーが登場し、特に輸入物のマリーゴールドが高値で売買されていた。私はオランダからその種子を輸入して、日本で栽培する企画を立て、岩手県の身障者団体と3年間の委託栽培契約を結んだ。種子の量からして、約50万本の収穫を期待し、その販売ルートを用意した。

 ところが、彼等は花栽培のプロたちで、優れた花をキープして、翌年の栽培種子に使用した。結局3年間で、予想をはるかに上回る約1200万本のマリーゴールドが栽培されてしまった。市場は大暴落したが、契約は契約である。全てを引き取ったため、莫大な損失を被ってしまった(なんとか父の助けを受けて倒産は免れた)。この時、いろいろとアドバイスをくれたのが、東京造花堂(創業昭和元年)の創業者だった。この会社の四谷ショールームに行けば、日本造花の全てを見る事が出来る。

 盆栽は、東京滞在中に、埼玉県大宮にある盆栽村に足を延ばせば良い。10泊の予定なので、日本一の庭園と言われる島根の足立美術館までは行けなかったが、京都では大原の三千院や寂光院、京都北西の金閣寺や大河内亭をスケジュールに入れた。そして東京では、庭の美しい椿山荘に泊まって頂き、日光や箱根観光のスケジュールも組み込めた。

 全ての旅程は予定通り進み、各所で歓迎を受け、全員が大満足でポリに戻って来た。口々に「伝統ある生け花と、現代的な造花が矛盾無く共存することに感銘した」「プリザーブを作る器用な手付きが素晴らしかった」「フランス式のシンメトリックな王宮庭園より、日本庭園の方が遥かに美しい」「小さな盆に植えられた松柏が巨木に見えて、しかも数百年も生きることに感動した」などの沢山のお褒めを戴いた。

 私は、日本から帰って来る多くの北欧ビジネスマンに日本の印象を聞いている。男性は社会を俯瞰的に見る。よって答えは、「日本は平和で安全」「発達した交通網と正確な運行」「美しく、機能的な都市」等、極めて画一的で面白くない。その点、女性の答えはピンポイントで十人十色。女性ならではの驚きを語ってくれた。

1.自転車の前後に幼児を乗せているのを何度も見ました。日本のママさん力に驚かされました。 2.奥様が財布を握り、ご主人が小遣いで暮らす。ヨーロッパでは夫婦折半が普通です。 3.すんでのところでドアがしまり、電車に乗り遅れた女性を見ました。西欧なら今では良家の奥様も、放送禁止用語を使って、大声でくやしがるのに、その女性は笑みを浮かべていました。 4.新宿で、アフリカ料理屋に連れて行ってもらいました。お客の若い女性たちが黒人のウエイターに仕切りに話しかけ、彼等は笑顔で受け答えていました。あんなに楽しそうな黒人の従業員を西欧では見たことがありません。日本では肌の色で、差別しない事を知りました。 5.(グループの中で一番若く、背の高いブロンド女性が)『日光で修学旅中の女子学生から、サインを求められました。女優さんになった様な気持でサインをしていると、その隣の子からもサインをせがまれました。それを見ていた子が、“ニコール・キッドマンじゃない!”と叫びました。 すると私は沢山の子たちに囲まれてしまいました。後ろめたさもありましたが、生まれて初めて女優さん扱いをされ、うれしくて皆にサインをしてあげました。“ニコール・キッドマンに間違えられた”が私の一生の自慢話になりそうです』 6.京都からの新幹線が3分遅れで東京駅に着きました。その遅れを車掌さんが車内放送で、しきりに謝っていました。たったの3分ですよ! 7.(30代の御夫人)『東京では1日の自由行動日がありました。秋葉原に行きコスプレを見て、日本の先進ファッションに接しました。その日の夕方、驚かされたのが“バンダイ”です。(私は、大手の玩具メーカーの話と勘違いした)友人に連れていってもらった公衆浴場の入り口に、中年男性が座っているではありませんか!私は“あの人をどうにかして”と友人に頼みました。すると彼女は“番台さんは日本の古くからの慣習だからどうにもならない”と言うのです。それにしても番台さんは、脱衣する私をジロジロ見るのです。「外人女性の裸がそんなに珍しいの!」と思っていたら、友人が“問題は貴女の肩のタトゥーよ。公衆浴場では原則、禁止なの”と教えてくれました。私は、最先端のコスプレを見た後だけに、まさかタトゥーが禁止されているなんて、本当に驚きました』

 欧米では大流行している「タトゥー」が、日本の慣習に勝てないのは、私の「吸盤付き剣山」が日本の伝統に勝てないのと同じだ、と思いながら、彼女たちの土産話を楽しんだ。

長井 一俊

Kazutoshi Nagai

PROFILE
慶応義塾大学法学部政治学科卒。米国留学後、船による半年間世界一周の旅を経験。カデリウス株式会社・ストックホルム本社に勤務。帰国後、企画会社・株式会社JPAを設立し、世界初の商業用ロボット(ミスター・ランダム)、清酒若貴、ノートPC用キャリングケース(ダイナバッグ)等、数々のヒット商品を企画・開発。バブル経済崩壊を機にフィンランドに会社の拠点を移し、電子部品、皮革等の輸出入を行う。趣味の日本料理を生かして、世界最北の寿司店を開業。

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