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COLUMN コラム

ベトナムビジネスで見た景色 アジア攻略のヒントは、ベトナムに在り

2016.09.20

【ベトナムビジネスで見た景色(20)】アジアでの「人づくり」

小川 達大

日本企業の強みは、「人づくり」にあると思います。しかし、日本企業のアジア展開に目を向けると、この「人づくり」の勝ちパターンが、十分に機能していないように思われます。今回は、この点について、いくつかの視点で考えてみたいと思います。

◆「現地スタッフの学習能力が低い」?

ベトナムやその他のアジア地域で活動する日本企業と議論をしていると、「現地スタッフの学習能力が低い」というような嘆きを聞くことがあります。しかし、掘り下げて話していくと、どうやら、「そもそも、自社の抱えている知識を形式化できていない」というところに問題があるように見えてきます。日本企業(あるいは、日本社会と言っても良いかと思いますが)は、その同質性ゆえに(あるいは、同質性があるというフィクションの上に)「言わなくても分かるじゃないか」というような、様々な暗黙の前提(=「空気」)のあるコミュニケーションをしてしまっています。冒頭の日本企業の嘆きも、「学習能力が低い」というよりは、「空気が読めない」ということに近いのかもしれません。

日本人とベトナム人は、同じアジア人といえども、様々に違うところがありますので、「言わなくても分かるじゃないか」という態度では、いつまで経っても「言わないんだから、分からないよ」ということになってしまいます。自分たちが知らずのうちに知識化している事柄を、「空気」という曖昧なものの中に押し込むのではなく、文字や図や物語のような形式の場に引っ張り出すことが必要になります。

◆知識創造のサイクルを回せるか?

企業が知識を創造し蓄積していくプロセスについて、野中郁次郎先生は、SECIモデルを提示していらっしゃいます(下記の整理は、「エビデンスベースの知識創造理論モデルの展開に向けて」(野中郁次郎)を元に、筆者が少し解釈を加えたものです)。

S:Socialization共同化モード(直接的な身体による経験を通じた暗黙知の獲得・共有)
実際に取り組んだことのある人だけが分かり、通じ合える「職人の知」と言えるかと思います。

E:Externalization表出化モード(対話や喩えによる概念の創造)
「職人の(秘密の)知」が、小規模なチーム内で共有できるコンセプトやキーワードになるステップです。
そのキーワードを聞けば、チーム内の各メンバーは、その意味するところを、言語化できないにしても、頭の中に浮かべることができるようになっているはずです。

C:Combination連結化モード(形式知の総合や解釈による理論モデルの体系化)
コンセプトやキーワードに厚みが増し、ひとまとまりの理論になるステップです。
チームの外に出しても、ある程度は理解してもらえるような形になっているかと思います。

I:Internalization内面化モード(形式知を行動を通じて新しい暗黙知として理解・体得)
理論書を携えながら実際に活動をしてみて「あ、そういうことか。なるほど」と、知識が体に染み込んでいくステップです。場合によっては、その活動の中で新しい「職人の知」が生まれることもあるかと思います。

このプロセスを意識的に回すことによって、企業の中に知識が創造され、蓄積されていきます。
しかしながら、日本企業が海外事業に関してこのプロセスを回すのは、なかなか難しい挑戦になります。日本と海外では地理記的な距離もありますし、たとえ同じ職場にいたとしても国籍の違うもの同士のコミュニケーションの円滑さは、日本人同士よりも劣ってしまいます。そういうわけで、日本企業/日本人社員が日本で(暗黙的に)蓄積した知識が、海外側に移転されないのではないでしょうか。つまり、SECIモデルで言えば、Socialization(共同化)の段階で知識創造活動が止まってしまっているように思われます。
Socialization(共同化)からExternalization(表出化)のステップに移行するためには、対話と喩えが必要だとされています。前段で、様々な知識を「空気」の中に押し込むのではなくて、形式の場に引っ張り出すことが必要だと述べましたが、その手段としては、対話や喩えが有効です。

◆マニュアルに魂を

Combination(連結化)のステップでは、体系化された知識が作られていきます。ここでは、マニュアルについて考えてみたいと思います。一般的に「マニュアル人間」というのは、「マニュアルに形式的に従うだけで、柔軟性に欠ける人」というようなネガティブなニュアンスがあるかと思います。

しかし例えば、アジアで大きな成長を実現している無印良品では、2,000ページにもなる「店舗運営用マニュアル」が使われており、海外店舗でも同じマニュアルを翻訳して使っているそうです。上記のSECIモデルと照らし合わせてみると、無印良品のマニュアルは、Combination(連結化)にとどまらず、Internalization(内面化)にも貢献していると捉えるべきかと思います。つまり、マニュアルを傍らに置きながら日々の活動をしていくことで、各スタッフが「あ、そういうことか。なるほど」と様々な気づきを得て、知識を自分のものとして体得していっているのだと思います。

また、このような立ち返るべき「マニュアル」を読み込むことを通じて、表面的な活動内容ではなくて、その背景にある活動の本質にまで理解が及ぶのであれば、むしろ、環境の変化や緊急事態に柔軟に対応できる人材が育つのではないでしょうか。別の言い方をすれば、マニュアルは、管理者が部下の作業を規定するためにあるのではなくて、上司と部下が本質の理解に向けた対話をするためにある、と理解するべきかと思います。「このマニュアルを読んでおいて」と手渡すだけではなくて、「このマニュアルでは、AAではなくてBBと書いてあるけれど、それは何故だと思うか?」というような対話をベースにした運営が鍵かと思います。(参考:「有機的組織の幻想」(沼上幹))

月並みな話になってしまいますが、人づくりの土台にあるのは、対話です。
対話、十分ですか?

それでは、ヘンガップライ!

小川 達大

Tatsuhiro Ogawa

PROFILE
経営戦略コンサルティング会社Corporate Directions, Inc. (CDI) Asia Business Unit Director。同ベトナム法人General Director、同シンガポール法人Vice Presidentを兼任。 日本国内での日本企業に対する経営コンサルタント経験を経て、東南アジアへ活動の拠点を移す。以降、消費財メーカー、産業材メーカー、サービス事業など様々な業種の東南アジア展開の支援を手掛けている。ASEAN域内戦略立案・実行支援、現地企業とのパートナリング(M&A、JVづくり、PMI等)支援、グローバルマネジメント構築支援など。日本企業のアジア展開支援だけでなく、アジア企業の発展支援にも取り組んでおり、アジアビジネス圏発展への貢献に尽力している。
CDI Asia Business Unit

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