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COLUMN コラム

アジア最後のフロンティア 激動するミャンマー

2015.04.20

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(11)『2008年ミャンマー連邦共和国憲法の問題点』

宍戸 徳雄

ミャンマー連邦共和国憲法

アウンサンスーチー女史率いるNLD(国民民主連合)は、民政移管後のミャンマーにおいて、憲法改正がなければ真の民主化の実現はないと主張してきた。目前に控えた2015年の総選挙も憲法改正を行って後に選挙をすべきとの主張を続けてきた。しかし、それは時間切れで実現は難しい情勢だ。

誤解や間違った報道も多いが、2008年に成立した現在の憲法は、有効な国民投票を経て国民の9割以上の賛成を得て適法に成立した憲法である。この憲法の構成は、れっきとした民主憲法の建て付けとなっている。第1章において「国家の基本原則」、第4章において「国民主権」を宣言、第7条で「複数政党制」を規定、第21条は「国民の自由」と「法の下の平等」を「国民の権利」として規定している。国家の統治機構を三権分立とした上で、第35条では「市場経済」を国家の経済体制とすることを宣言している。私有財産制を認め、企業の非国有化宣言もしている。想像以上に自由で民主的な憲法である。

しかし、この憲法は各方面から問題がある憲法であると指摘される。
よくメディアで報じられるのが、立法府(連邦議会)の4分の1が予め軍人の固定席になっているという規定。憲法改正の決議要件である4分の3以上の賛成を得る上で、この軍人固定席の4分の1が大きな障壁になっているのは事実である。現在のミャンマー連邦議会は、上下院の二院制(上院224名、下院440名)、両院の25%が軍人の固定席であり、上院では56名、下院では110名が軍人議席となっている。現大統領は、将来的この規定の排除を示唆する発言もしている。

そして、アウンサンスーチー女史の大統領就任を阻む目的で作られたと言われる第59条。同規定は国家元首の就任要件を定めた規定だが、本人や配偶者、子供が外国籍であったり、外国から何らかの恩恵を受ける立場にある場合は、国家元首の就任要件に欠け、大統領にはなれないことになっている。

それから、国家の非常事態時の規定も問題として指摘される。第210条が規定する国防治安評議会(大統領、副大統領2名、各議院の長、国軍司令官、国軍副司令官、国防大臣、内務大臣、外務大臣、国境大臣の11名から構成)。そして、憲法第11章が規定する国家の緊急事態において、大統領が国防治安評議会と協議して緊急事態宣言をなし、大統領は国軍の最高司令官に国権の行使を委譲しなければならないと規定する第418条。これらの規定により、国家の非常事態時には、国家の統治機構の最高権限者は軍司令官に自動的に移行するのだ。この場合、議会の議員は自動的に失職し、国軍の最高司令官が、立法、行政、司法の執行権を有し、国民の基本的人権を制限できることになる。
このような憲法の規定の背後に見え隠れする軍が実質的な統治権者となり得る制度が、2008年憲法の問題点として指摘されている。厳格な意味での民主憲法とはとても評価しがたいというのが一般的な見方だ。

NLDによる憲法改正を求める動きから始まり、連邦議会も含め、憲法改正のための委員会などを通じて国民的議論が高まっている。理想的には、憲法改正後に総選挙の実施ができればよかったが、すでに時間切れである。まずは総選挙を公正に実施し、選挙後の議会において、憲法改正のための審議が尽くされることが期待される。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE
株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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