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COLUMN コラム

アジア最後のフロンティア 激動するミャンマー

2016.05.23

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(25) 『NLD政策を読み解く その4―教育政策について』

宍戸 徳雄

ミャンマーは多民族国家で多様な文化が根ずいている(ヤンゴン中央郵便局に掲げられたミャンマーの多文化性を表すボード)

アウンサンスーチーNLD党首が率いるNLD新政権が発足し、彼女自身は国家顧問兼外相として外交デビューも果たした。現在、ミャンマーの議会において、正式に国家顧問省を新設するための立法作業が進んでいる。本コラムにおいて過去数回に亘りNLDの主要政策の分析をしてきましたが、第22回、第23回のコラムでそれぞれ分析した通り、国民和解と法の支配の実現が、アウンサンスーチー国家顧問の悲願である。それを実現する為の、行政庁として国家顧問省がいよいよ創設されることになる。

さて、NLDの主要政策の内、アウンサンスーチー国家顧問が、従来より自ら改革を進めたいと意欲を持っていた教育政策について見ていく。NLD新政権の発足当初、組閣人事の調整段階で、彼女自身は教育大臣も兼務する案がほぼ決まっていた。しかし、国家顧問への就任、大統領府大臣や外務大臣との兼務することの重責と機動性を考慮し、教育相とエネルギー相の兼務を断念した経緯がある。

アウンサンスーチー国家顧問は、かつて「ミャンマーには豊富な資源がある。しかし資源は有限であり、使い方を間違えれば資源は枯渇し、時に外国から搾取される。資源に依存した国家運営では国家の発展は危うい。他方、国家の人材の可能性は無限であり、人への教育こそ、永続的な国家の発展の基礎を創るものである。高い教育レベルを国家が保障し、国際水準の人材育成に力を注ぐことで、資源に依存したり、それを外国から搾取されるようなことは無くなる。人材教育を重視した国家運営を行わなければならない。」と話したことがある。その想いを実現するための方針が、NLDのマニュフェストでも明記されている。かつて軍事政権時代に、ミャンマーが国際社会から孤立していた時期に、貴重な天然資源が中国に大量に安価に流出し、かつ国民の労働資源についても搾取の対象となった苦い経験がある。

NLDは、マニュフェストの中で、国民が生まれたその日から生涯に亘って教育を受ける機会を確保することを目指すと宣言している。国民への平等な教育機会の保障だ。
全ての国民に小学校レベルの教育の機会を保障し、障害者や遠隔地の児童などにも教育を受ける機会を保障する特別なプログラムを提供するとしている。
これに加えて、連邦制国家の基本原則として、地域や民族の固有の言語の習得や固有の文化を理解するための教育制度を奨励するとしており、国民和解を進め、多民族国家として多様な文化や価値観を共有するための教育的な制度インフラの構築を目指すとしている点は前政権とは異なる画期的な制度改革となる。
新政権においては、中等教育・高等教育についても、全ての国民がアクセス可能な学校整備を行っていく方針だ。かつて、軍事政権時代に、大学生による民主化デモを拡散させる為、ヤンゴンなどの都市中心部の大学は、全て強制的に遠隔地に拡散離散させられた。それによって、ミャンマーの高等教育の質は著しく低下したと言われている。このような過去の教訓を活かし、大学の自主運営管理・自主研究を認め、職業訓練についても推進していく。

以上のように、将来の国家を担う国民人材の育成を進めていくために、新政権はこれらの新しい教育政策を実行していく。そのための教育制度構築に関わる国家予算については、効果的かつ透明性をもって配分を行っていくとしている。このようなNLDの長期的視点に立った基礎的な人材教育制度の構築は、時間はかかるかもしれないが将来のミャンマーを担う人材を着実に育成し国家の発展の基盤を創っていくこととなるだろう。

同分野においては、前テインセイン政権下でも日本政府は先行して積極的な支援を進めてきた。NLD新政権も引き続き日本政府に対して教育分野における支援要請を行ってきている。日本は、同分野に対する支援において更なる貢献が期待されている。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE
株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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