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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2015.03.16

マーライオンの眼差し(3)融和と秩序

矢野 暁

英植民地時代の苦力(クーリー)(単純労働者)の大部分は中国やインドからの移民で、多民族国家形成の起源となった(筆者撮影)

異なる食文化が一堂に会するホーカーセンターやフードコート、それにホテルの「インターナショナル・ビュッフェ」などはとても融和的(筆者撮影)

シンガポールは多民族国家にも拘わらず、(少なくとも表面的には)結構よくまとまっていますよね。世界からは「国民統合」を上手く成し遂げたと、概ね賞賛されています。「人種の坩堝(るつぼ)」と言われるアメリカなど典型的ですが、文化的背景や価値観、それこそ宗教や肌の色などが異なると、摩擦・衝突は起きやすいもの。なのに、独立して間もない1969年に起きた華人とマレー人との間の衝突以来、シンガポールでは目立った対立は殆ど皆無です。(「45年ぶりの暴動」と言われた2014年1月のリトルインディアでの騒ぎは、必ずしも人種対立の事件とは言えません。)

それでは、シンガポールでは摩擦・衝突が全くないかと言えば、この国で生活・仕事をしている方々ならもうお分かりのように、そんなことは勿論(もちろん)ありません。「微妙な緊張関係」の中で、辛うじて均衡がとれている面も多分にあります。皆が皆、心底から本当に仲良く手をつないでいるわけではないでしょう。日常の中に、些細な対立が散見されます。私がシンガポールに移住した14年ほど前から今に至るまで、「xx人とxx人は水と油のような仲だからビジネスは上手くいかない」「xx人は信用しない方がいい」「xx人は怠け者だ」などなど、対立や差別的な発言をよく耳にします。もちろん、人種に係る話題は、極めてセンシティブであり、タブーに近いものも多々あります。そうしたテーマは、日常親しい人たちの間ではひそひそと話されていても、公には言い辛(づら)いものです。私があちこちで執筆する記事の中でも、本音はなかなか書けません。読者の中でシンガポール勤務の方は、職場などで非常に気を遣っていることと思います。

リークアンユーさんをはじめとした指導者たちは、国家建設当初から民族間の融和を強く意識し、言語政策などを通じてその実現を図ってきました。その過程における手段には賛否両論がありますが、いずれにせよ、ハーモニーの演出を常に意識していました。この狭い島の中で民族が露骨に対立していたら、発展も何もありません。脆弱な調和でも地道に長く続けば、徐々に国や市民のDNAの中に浸み込んでいくのだと思います。この融和の状況を作り維持するためには、すなわち国家社会の秩序を守るためには、少々強圧的な諸施策もやむを得ないと個人的には考えます。「社会のハーモニー」と「自由への制限」との間のバランスについては、人それぞれ考え方が異なるでしょうが、シンガポールは一つの明確な形を示してきました。

先回のコラムで、夜10時半以降の公園などでの飲酒や小売りによる酒類販売の禁止令について触れましたが、これも秩序維持のための措置です。飲酒で自制が効かなくなり、夜中に民族間の喧嘩などが発生するリスクを軽減することが目的の一つにあります。実はニューヨークなど世界の都市や州では、公の場での終日の禁酒規制も結構あります。シンガポールが導入した夜間規制も欧米等の多くの都市で導入済みです。規制が無いのは日本とか香港で、大都市の中ではむしろ珍しいと言えるかもしれません。

シンガポールは、同質性の程度が高い日本人には最初は慣れない環境かもしれませんが、異質な背景を持つ人々により構成される共同体(コミュニティや組織)の中でどのように賢く快適に暮らすか、ビジネスを進めるか、ということを教えて貰い、体得できるモデル的な島なんだと思います。

矢野 暁

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE
慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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