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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2016.01.04

マーライオンの眼差し(13)シンガポールにとってのTPP

矢野 暁

<TPPの源はシンガポールにあり>

既に皆さんもご存じのとおり、去る10月5日に「環太平洋経済連携協定(TPP)」の交渉が基本合意に達しました。元はと言えば、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国が、多国間FTA「Pacific 4 (P4)」を2006年5月に発効させ、これを拡大する形でTPP交渉が展開されていきました。つまり、シンガポールはTPPの元祖加盟国なわけです。
世界の自由貿易を推進するシンガポールにとっては、自然な動きであったとも言えます。マーラインオンは広大な海を見渡しながら(実際には島や半島に囲まれていて全然見渡せませんが…)、モノやお金が自由に往来できる世界を待ち望んできたのです。

シンガポールにとってのメリットは?
シンガポールのリム・フンキアン通産相はTPPについて、「シンガポールが望むアジア太平洋地域の将来像を具体化するものだ」と高く評価しています。また、特に国内の中小企業が恩恵を受けると述べています。

産業界からも表向き交渉妥結を歓迎するコメントが流れていますが、実際のところは、「シンガポール経済にとって本当にメリットがあるのか?」という声も多く聞かれます。
そもそもシンガポールは、TPP交渉参加国のうち、メキシコとカナダを除く9カ国と既に二国間FTAを締結済みです。したがって、広域経済連携であるTPPが実現したからと言って、中小企業の輸出その他のクロスボーダー活動が促進されるかどうかは少々疑問です。確かにシンガポールにとりデメリットは無いのですが、メリットも見えにくいという気もします。
それでは、なぜゆえにシンガポールはTPPを推し進めてきたのでしょうか? それは、アジア太平洋地域の経済活動が全般的に活発化すれば、少なくとも間接的にシンガポールも恩恵を受けると考えているからでしょう。「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないですが、金融、法務、物流など域内活動を支援するためのサービスに更なるニーズが生まれれば、それだけでも小国シンガポールの成長には十分なメリットがあるのだと思います。

<TPPは前途多難?>

TPPの大筋合意から1か月半後の11月22日、ASEAN加盟10カ国の首脳がクアラルンプールで「ASEAN経済共同体(AEC)」の発足宣言をしました。いよいよAECが2015年12月末に誕生するわけですが、このAECも積み残し課題は多く、手放しで喜べる状況とは程遠いとも言えます。しかも、ASEANがTPP参加国(シンガポール、ブルネイ、マレーシア、ベトナム)と不参加国に分かれ、AECが二つに分断された格好となってしまい、不参加国の間には既に動揺も垣間見られます。
米国議会はもとより、マレーシア国会などもTPPを批准するかどうか、現時点では微妙な情勢であり、マーライオンはもう暫くの間、自由化の成り行きを凝視することを余儀なくされそうです。

矢野 暁

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE
慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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